第189話 奴隷狩りと聞くと金貨20枚と30枚共を思い出す


 俺達は大金でAランク冒険者を雇って旅行をしている貴族と思われているっぽい。


「そんなところだな。でも。Dランクとはいえ、旅をしているからD止まりなだけだぞ」


 一応、アピールしておく。


「わかった、わかった。エルフの森だったな? 採取依頼になるけど、いいか?」

「いいんじゃないか? 採取なんかしたことないが、ジャックができるだろう」

「…………まあ、何事も経験だぞ」


 それもそうだな。


「何を採取すればいいんだ?」

「薬草でいいわ」


 薬草?

 ポーションの材料だっけ?


「そんなもん、その辺に生えてるだろ」

「質が違うんだよ。エルフの森は魔力濃度が高いから質が良いんだ」

「エルフがいるから濃度が高いのかね?」

「逆だ。魔力濃度が高い森をエルフが選んだんだよ。あいつらは魔法のスペシャリストだから都合がいいんだ」


 なるほど。

 そっちか。


「わかった。じゃあ、それを採取してくるわ。ついでにエルフでも見てくる」

「ジャックがいるとはいえ、気を付けろよ。あいつら、最近ピリピリしてるから」


 最近?


「何かあったのか?」

「この前、森の前でごろつきの死体が転がってた。ありゃ、エルフがやったな」


 物騒だな、おい。


「冒険者か? ナンパでもしたのかね?」

「いや、違う。エルフの森に行くんだったら少しこの町とエルフの森について説明してやろう。エルフとこの町の領主は条約を結んでいてな。定期的に森の作物を納品することでエルフの自治を認めているんだよ」

「作物だけで?」


 いくら質が良いものが採れるとはいえ、税と考えると、少なくないか?


「ああ、でも、それは領主のメンツに配慮した形だけのものだな。実際はお互いに干渉せずに生きましょうってことだ。エルフはめんどくせーし」

「兵を出して、全員捕らえてしまえよ。そんでもって売ればいいじゃん」

「お前、すごいことを言うな…………いや、エルフは強いし、森の中では多大の被害が出る。それにエルフは森の魔物を狩ってくれるから町に貢献してくれているんだ」


 ふーん……


「それで?」

「そういう経緯があるから領主はエルフの森に近づくことを制限している。今回みたいな仕事がない限り、冒険者だろうがその辺の市民だろうが、立入禁止だ」

「なるほど……その死体のごろつきは許可を得ていない奴なわけか……」

「そういうこと。許可なく森に行く奴なんて何も知らない奴かバカかエルフ目的の奴隷狩りだ」


 確かに。

 その中で可能性が一番高いのは……


「奴隷狩りか……」

「だと思うぜ。奴隷の首輪を持ってたし」


 絶対に奴隷狩りじゃん。


「めんどくさいなー……」

「じゃあ、やめな。いきなり魔法を放たれても知らんぞ」


 大丈夫かね?

 友好的にいきたいんだが……


「魔法ならどうとでもなるけどなー」

「あいつら、すごいぞ」

「森の中じゃ大きな魔法は使えないし、問題ない。反撃するのはありか?」

「いや、騒動を起こしてくれるな。あ、でも、奴隷狩りがいたら捕まえてくれ。報奨金を出すぞ」


 報奨金ねー……


「どうやって冒険者と見分けるんだよ」


 奴隷狩りも冒険者もごろつきだろ。

 大差ないわ。


「今、許可が出てるのはお前らだけだ。お前ら以外の人族は奴隷狩りと思っていいぞ」

「市民だったらどうするんだよ」

「それはそれでダメだから捕まえてくれ。まあ、無理にとは言わんし、報告だけでもいいぞ」


 その辺はジャックの判断に任せるか。

 どうせ、ついでの話だし。


「わかった。とりあえず、見てくるわ」

「気を付けてなー。ジャックによろしく」

「あ、そうだ。宿を紹介してくれ。一番高いところな。Aランク割引で」

「お前らはダメ。ブラックリストに載ってる」


 何それ!?


「どういうことだ?」

「えーと、よくわからんが、こいつらに貸すとギルドのツケで豪遊しだすからダメって通達が来てる」


 アムールのルシルかエイミルのアヒムだな!

 あいつらめー!


「そんなことはせんから紹介しろ。金は持ってるんだ」


 金貨1000枚もある。


「まあ、紹介だけならいいが、てめーらで払えよ。ギルドは一銭も払わんからな」

「ジャックの分もか?」

「それはウチが出す。悔しかったら高ランクになりな」


 差別だ。

 そういうのは良くないと思う。


「今回の仕事でCランクにならんか?」

「Aランクのお守り付きで薬草採取だぞ。なるわけねーだろ。地道にやれ」


 地道……

 嫌いな言葉だなー。


「まあいいわ。宿はどこだ?」

「ここの3軒隣にあるコレットの宿屋だよ」

「コレット?」

「そこの宿屋の主人の娘の名前だ。オープンの日に娘が生まれたからそう名付けた。コレット本人は嫌がってるがな」


 そりゃ嫌がるわ。

 ロイド王国なんて…………いや、悪くなかったわ。


「わかった。じゃあ行ってみるわ」

「言っとくけど、ツケようとしても無駄だからな。コレットが接客するが、あいつは真面目ちゃんだから」

「しないっての」


 俺達は用件を終えたのでギルドをあとにする。

 そして、ハゲに言われた通り、3軒隣にある建物に入った。

 すると、箒を持って、掃除をする小さい女の子と目が合う。


「いらっしゃいませー」


 子供じゃん……

 そういえば、内装を見る限り、新しめの建物な気がする……


「お前がコレットか?」

「そうですー」


 うーん、子供だ。


「何歳?」

「9歳です」


 う-ん、幼すぎないだろうか?

 接客を任せて大丈夫か?


「泊まりたいんだけど、3人部屋は空いてるか?」

「空いてますが、料金が1泊で金貨30枚になりますけど、大丈夫ですか?」


 まあ、そんなもんか。


「食事は?」

「料金に含まれてます。追加は別途精算時にお願いします」


 9歳にしてはちゃんとしてる子だな。

 宿屋の受付を任されていることだけはある。


「そうか、そうか。じゃあ、1泊頼むわ」

「はーい」


 俺は料金を払うと、コレットに案内され、部屋に入る。

 そして、ジャックが戻ってくるまで休むことにした。

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