第140話 やはりロイド冒険記を書くべきだな


 俺達はジャックの元仲間というラウラの話を聞きながら馬車で平和な平原を進んでいる。


「ラウラ、お前とあのオリヴィアとの繋がりはなんだ?」

「教え子だよ。魔法や勉学を教えている」


 家庭教師か。


「では、先生。この状況をどう見る?」

「さあねー。政治はわからない……というか、関与しないようにしている。ランクが上がると巻き込まれやすくなるからね」


 やっぱりそうなのか。


「おもいっきり巻き込まれてるぞ」

「仕方がないだろ。あんたはどう見ているんだい?」

「この国の主張はジャスが国境を越えて村を襲った、だろ? 多分、ジャスも同じようなことを言うと思うぞ」


 わかりやすい離間の策だ。


「そうかい。テールかね?」

「この辺の国の情勢がわからんから何とも言えんが、テールの可能性はあるな。どちらにせよ、エイミルとジャスが争う理由が他にない。たとえ勝ったとしても得るものが少ないし、その後に待っているのは戦争で疲弊した状態で戦わないといけない強国テールだ」


 テールは国土も広く、軍事力も高い。

 絶対に勝てないだろう。


「多分、オリヴィア様もそう思ったんだろうね。だから誤解を解くための手紙だ」

「いとしのコンラート様ならわかってくれる、か? 大丈夫か、あの女?」

「……さあね」


 大丈夫じゃなさそう。

 お花畑っぽい。


「まあ、俺らには関係ない話か。お前もこの国が終わったら雇ってやるぞ」

「ありがとよ。その時はあんたらの子供の家庭教師でもやろうかね」


 それいいな。

 こいつ、絶対に賢いし、長生きなだけあって博識だろう。


「そうしろ、そうしろ。ところで、ジャスまでは何日かかるんだ?」

「国境まで3日。そこから王都までが4日だね」


 遠いなー。


「国境は越えられるか?」

「普通にね。何しろ、エイミル、ジャス間は関所すらないよ」

「マジ? ありえなくないか?」


 どんだけ仲良しこよしの国なんだよ。


「平地しかないんだ。関所を作ろうと思ったらとんでもない金がかかるし、今までそれを必要とすることもなかった」


 平和すぎだわ。


「じゃあ、どこで軍が対峙しているんだ?」

「北の平原だね。ちょうど山脈のふもと辺りと聞いている」

「へー。じゃあ、安心してジャスに行けるわけだな?」

「そうだね。まあ、関所があったところで私の冒険者カードで越えられるよ」


 Bランクってすごいんだな。


「ふーん、Dランクは?」

「微妙。一番ならず者が多いランクだからね」


 マジかい……


「今回の仕事をギルドに言ってCランクにしてもらいたいわー」

「無理に決まってんだろ」


 俺らって、こういうことばっかりしている気がするわ。




 ◆◇◆




 俺達は馬車に揺られ、3日が経った。

 非常に暇だったが、リーシャとマリアと話をしたり、婆さんの昔話を聞きながら過ごしていたため、苦ではなかった。

 婆さんは長生きなうえに多くの地を旅した冒険者だから色んな話をしてくれた。

 まあ、一番つまらない国を言われた時はショックだったけどな。


「ラウラ、もう3日経ったけど、国境はまだか?」


 もうすぐ夕方になるが、いつまで経っても平原のままだ。


「とっくの前に越えたよ」

「は? じゃあ、もうジャスか?」

「そうだね」

「いつの間に……」


 マジで何もなかったな……


「私も最初は珍しい国だなって思ったよ。柵すらないんだからね」

「ジャスの向こう側は?」

「川が流れているからそこが国境だね。あんたらはそこを渡って、アダムに行く。そして、アダムを抜ければウォルターだよ」


 バルバラが言っていた通りか。

 ようやくだな。


「ちなみにだけど、ジャスに見るところってあるか?」

「特にないねー。エイミルとほぼ変わらないしね。しいて言うなら王都にカジノがあるよ」

「カジノ? 金が何倍にもなるやつ?」

「……いや、全部なくなるやつだよ」


 ははーん。

 スッたんだな。


「面白そうだし、行ってみるかなー?」

「やめときな。一文無しになるよ」

「大丈夫。俺達は一文無しで貴族の服を着たままパニャの大森林を抜けたんだぞ」


 今はいくらでも稼げるし、問題ない。

 それに俺が負けるわけないのだ。


「そういや、ジャックの手紙にそんなことが書いてあったね。生命力がすごいって褒めてたよ」


 それ、褒めてるか?


「ロイド、カジノに行くのはいいけど、一文無しはごめんよ。ちゃんと使う限度は考えてね」

「そうですよー。野宿は嫌です」


 リーシャとマリアも止めてくる。

 だが、カジノに行くこと自体は反対ではないようだ。


「わかったよ。限度を決めて遊ぼう」

「どうでもいいけど、仕事を忘れないでおくれよ」

「仕事っていっても、手紙を渡すだけだからなー……」


 苦労なんてない。


「それでもだよ。仕事には責任を持ちな」

「はいはい」


 先輩冒険者の言うことは聞いておこう。


「頼むよ…………さて、そろそろかねー?」


 婆さんが言うように周囲が茜色に染まっている。


「今日はここまでか?」

「そうだね。今日の夕食は何にしようかねー?」


 これまではずっと婆さんの魔法のカバンに入っていた食事を食べていた。


「缶詰でも食うか?」

「缶詰? あー、そうか。ギリスに行ってたんだったね。あれは良いものだよ」


 さすがは世界中を旅した冒険者だ。

 缶詰も知っているらしい。


「大量にもらったから分けてやろう」

「ありがとよ。大量にもらったって、ギリスでも何かあったのかい?」

「大事件があったな」


 死んだと思っていた叔母上に再会した。


「へー。あんたら、人生を楽しんでいるよ」

「苦労ばっかりだぞ」

「それは私らもさ。だけどね、この歳になると、そんな苦労が宝物になるんだよ。ジャックの冒険記にも書かれているドラゴンから町を救ったやつは死を覚悟したもんだ。だけど、仲間や町の人と協力して倒したことは死ぬ間際でもけっして忘れない。祝勝会で飲んだ安酒は最高の酒だったよ」


 ふーん。

 まあ、確かに狼を食ったことは死ぬ間際まで覚えているだろうな。


「そんなもんかねー?」

「そんなもんさ。もし、嫁さんと喧嘩した時は一緒に苦労したことを思い出しな。それで万事解決だ」


 本当か?


「そんなことより、ラウラさんが正直になる魔法をかければいいんですよー。だって、この人達、普段はすました顔してラブラブ…………」


 マリアは最後まで言い切る前に馬車から降り、逃げ出した。

 だが、ものすごいスピードで追っていったリーシャの前にはなすすべもなかった。

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