第141話 きらーい
俺達はテントを張り、焚火を作ると、缶詰を温め、食べ始めた。
「この缶詰は相変わらず、すごい技術だね。この煮込み肉が保存食とは思えないよ」
婆さんが缶詰を絶賛する。
「世界中で作れば旅も楽になるんだけどな」
もっと言えば、軍用食にもなる。
これなら兵の士気も上がるだろう。
「特殊な技術で作られているからねー。やはり高いのがネックだよ。この缶詰で金貨とは言わないけど、それくらいはする」
高いなー……
叔母上にもらったものだから値段は聞いていなかったが、めちゃくちゃ高い。
「この辺でも買えるのか?」
「いや、滅多に売ってないね。だからこの缶詰を売れば、かなり儲けられると思うよ」
すごいもんをもらったなー。
「売らない。金に困っているわけでもないし、食事の方が大事だ」
「その辺は貴族らしいって思うよ。普通の冒険者は金を優先する。ジャックの手紙にも書いてあったが、あんたら、貴族って丸わかりだね」
「どの辺が?」
「歩き方、姿勢、見た目、しゃべり方。何もかもさ。よくテールを抜けられたね」
絶対にバレると判断したジャックが海路で逃げろって言ったからだなー。
「やはりリーシャか……」
こいつが美人すぎるのがいけない。
「あなたのしゃべり方じゃない? 傲慢で偉そう」
リーシャが反論してくる。
「偉いんだよ」
「そういうところよ」
「言っておくが、お前のしゃべり方も偉そうだからな」
「私は普通よ」
そうかー?
「御二人共ですよー。普通っていうのは私みたいなことを言うんです。どう見ても庶民」
マリアが嬉しそうな顔で言う。
「庶民っていう言葉を使うのは貴族様だよ」
「………………」
婆さんに指摘されるとマリアが黙った。
「単純な疑問なんだが、貴族の冒険者っていないのか?」
「たまにいるよ。騎士崩れとかだね。大抵、問題を起こす」
まあ、騎士をクビになるような奴はそんなもんだな。
「俺達は問題を起こさないようにするわ」
これ以上エーデルタルトの評判を下げないようにしないと。
「そうしな。さて、ごちそうさん。そろそろ休むかね……」
婆さんは缶詰を食べ終えたようで立ち上がった。
「俺らも寝るわ」
「ああ。おやすみ。良い夜を……」
婆さんはそう言って馬車の方に歩いていく。
「じゃあ、罠でも仕掛けに行くわ」
「はい。片付けは私達がやっておきますので」
「頼むわ」
俺はこの場を2人に任せ、適当な場所にパライズの魔法陣の紙を置き、その上に鳥のエサを撒いた。
この平原は隠れるところが少ない影響でウサギがいないっぽい。
その代わり、鳥がよく獲れるのだ。
罠を仕掛け終えると、キャンプしている場所まで戻る。
焚火まで戻ると、すでに焚火は消えており、近くのテントが薄っすらと光っていることからリーシャとマリアはすでにテントに入ったようだ。
俺は最後に焚火をチェックし、テントまで行くと、中に入った。
「お疲れ様。明日も鳥肉が食べられるといいわね」
すでに横になっているリーシャが言う。
「そうだな。しかし、あと4日もあるのか」
「遠いけど、陸路を進むって決めたんだから仕方がないわよ」
まあね。
主に俺とマリアの高所恐怖症のせい。
「殿下ー、また私が真ん中ですかー?」
まだ横にならずに座っているマリアが聞いてくる。
「たまにはいいだろ」
俺はテントの端に寝転がる。
「真ん中なのに御二人がそっぽを向いて寝るから逆に寂しいんですけどねー。仲の悪い両親に挟まれて寝る子供みたいです」
そりゃ嫌だわな。
「明日には元に戻るから」
「ホントですかー?」
「ホント、ホント」
「リーシャ様も…………って寝ている」
リーシャはスヤスヤと寝ていた。
「俺らも寝るぞ」
「そうですねー。おやすみなさーい」
「ん」
俺は明かりを消すと、目を閉じた。
目を閉じてしばらく経ったのだが、何故か眠れない。
何か変な感じがするのだ。
ぐるぐると世界が回っているような……
「チッ! デイスペル!」
俺は解除の魔法を使うと、起き上がる。
それと同時にリーシャも起き上がり、枕元に置いてある剣を取った。
「敵か!」
リーシャはそのまま勢いよくテントを出ていってしまった。
「絶対に起きないくせに、こういう時には起きるんだなー……」
俺は呆れながらもテント出る。
すると、剣を抜き、構えているリーシャと外套を羽織った怪しい人間が対峙していた。
「幻術の魔法だな。誰だ、お前?」
俺は怪しい人間に声をかけるが何も答えない。
ただそこに立っているだけだ。
よくわからんが、怪しいし、俺達に魔法を使った時点で死刑だな。
「まあいい。死ね! アイスジャベリン!」
魔法を放つと、氷の槍がまっすぐ怪しい人間に向かっていった。
「ディスペル……」
氷の槍が当たる寸前に怪しい人間が男の声でポツリとつぶやくと氷の槍が霧散した。
直後、リーシャが男に向かって、踏み込み、剣を振る。
リーシャの凄まじい速さの剣は男の外套に食い込んだが、男の姿が煙のように消えた。
「リーシャ、後ろだ!」
俺が魔力感知で男の場所を伝えるが、リーシャは俺の声より早く後ろを振り向き、剣を振っていた。
だが、またもや男に剣が食い込んだが、男の姿が煙のように消える。
「…………なるほど」
男は俺達から距離を取ったらしく、少し離れたところに姿を現した。
「何あれ?」
リーシャが目線を男に向けたまま聞いてくる。
「幻術だ。姿を消す魔法と幻を作る魔法をかけあわせている」
「面倒な……対処方法は?」
「お前がさっきやったように目ではなく、気配で探れ」
自分で言ってて、気配を探るっていうのがよくわからないが、リーシャはそれができるんだからそれが良いだろう。
「……強欲なエーデルタルト貴族よ。今回のことには関わるな」
男が戦闘態勢を止め、告げてくる。
「なんで?」
「お前達には関係ないことだ」
「それもそうだな。だが、俺達に攻撃した時点で死刑だ」
俺は男に向かって手を掲げる。
「フレイムレイン!」
俺が呪文を唱えると、炎の槍が男に向かってまっすぐ進んでいく。
男はディスペルを使おうとしたらしく、わずかな魔力を感じた。
だが、炎の槍は男がディスペルを使う前に上空に上がると、炎の槍が複数に別れ、雨のように降り注ぐ。
「チッ! 対軍魔法か! おのれ!」
男が悪態をつくが、すでに炎の槍が周囲の地面に突き刺さり、辺り一面が一瞬にして火の海に変わった。
「ここは引く! だが、先程の言葉を忘れるな!」
炎の中から男の声が聞こえたと思ったら男の魔力を感じなくなった。
「気配がなくなったわ」
リーシャも気配とやらを感じなくなったらしい。
本当に引いたんだろう。
「どう思う?」
一応、リーシャに聞いてみる。
「多分、テールね。強欲なエーデルタルトって言ってたし」
「あいつら、俺らのことが嫌いだもんな」
お互い様だけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます