第142話 面倒
夜襲を受けた俺達は敵を退けると、燃え上がっている草原を見る。
「どうするの、これ?」
リーシャが燃え上がっている火の海を指差す。
「――うわっ! 火事だ!」
マリアの声がしたと思ったらボサボサ頭のマリアがテントから顔を覗かしていた。
「さすがにこの火だったら起きるか……」
俺がそうつぶやくと、俺達を見つけたマリアがテントから出てきて、こちらにやってくる。
「殿下ー! リーシャ様ー! 何事です!?」
マリアは手櫛で髪を梳きながら聞いてくる。
「敵襲だ」
「え!? これ、敵がやったんです!?」
「いや、俺」
「あ、そうですか。見覚えのある光景だと思いましたよ」
空賊の隠れ家を燃やした時に使った魔法と一緒だからな。
「敵がかなりの魔術師だったんだ」
「魔術師ですか……賊……じゃないですよね?」
まあ、このタイミングだもんなー。
「今回のことには関わるなって忠告されたわ」
「ご丁寧ですねー」
ホント、ホント。
「まあ、無視だな」
「やっぱりです?」
「手紙を渡すだけだしな。それに従ったところで安全になるわけではない」
素性がバレてるし。
「ですよねー。敵の言うことを聞くことはないです。ですが、やっぱり変な事に巻き込まれましたね。あ、私の運は関係ないですよ」
「わかってるよ」
「それでこの火はいつ消えるんです?」
マリアも先程のリーシャと同様に火の海を指差しながら聞いてくる。
「その内」
「え? 消せないんです?」
さあ?
「水魔法を使えばいいのかな?」
「火に水をかければ消えると思います」
「よし! やってみよう! ウォーターレイン!」
俺が魔法を放つと、大きな水玉が現れ、火の海の上空に飛んでいく。
そして、水玉が割れ、雨のように水が降り注いだ。
「全然消えてないわね」
「火に対して水が少なすぎですー」
うーん……
「この火を消すにはかなりの魔力を使うな……」
「消してよ。暑いし、明るいしで眠れないじゃない」
いや、お前は寝るだろ。
眠れないのは俺とマリア。
「やれやれ……扱いきれないならそんな魔法を使うんじゃないよ」
婆さんの声がしたと思って、振り向くと、いつの間にか俺達のもとに来ていた婆さんが呆れたように言う。
「援護にも来なかったお前が言うな」
このババア、起きてたくせに助けに来なかった。
「馬車から見学してたわよね?」
リーシャも気付いていたらしい。
「念のためだよ。あれがあんたらのテントを攻撃したらちっちゃい嬢ちゃんが危なかっただろ」
まあね。
マリアは寝てたし。
「それはどうも。さっきの男に覚えは?」
「ないね。あれだけの魔術師なら忘れないよ。まあ、話は後だ。まずはこの火をどうにかしないとね」
「どうすんだ? 水魔法は疲れるぞ」
「エルフの知恵を見せてあげるよ」
婆さんはそう言うと、火に向かって数歩歩いた。
そして、杖を掲げる。
「大地よ!」
婆さんが魔法を使うと、周囲の地面が盛り上がり、どんどんと火を囲むように上がっていく。
そして、盛り上がった土が火に覆いかぶさっていき、火は瞬く間に鎮火した。
「すげー」
「森では火事が一番怖いからね。こうやって、いち早く消すんだ」
エルフは森に住んでいるらしいからこういう知識や魔法に長けているんだな。
「教えて」
「明日ね。とりあえず、火は消したから寝る」
それもそうだな。
「あのー、また襲ってくるとかないんですか? 見張りとか立てた方が良い気がするんですけど」
マリアが不安そうに言う。
「誰が見張りをするんだい? あのレベルの魔術師に対抗するには私か殿下だけだ。殿下、あんた、見張りをするかい?」
「眠いからお前がやれ」
「私だって眠いし、昼間は馬車を動かさないといけないから無理。そういうわけで寝る。安心しな、私は慣れっこだし、敵が来たら起きて対処するよ」
さすがは元AランクのBランク。
頼もしい。
「じゃあ、おやすみ」
「寝ましょう」
「皆さん、大物ですねー……」
俺達は明日のためにさっさと寝ることにした。
翌朝、朝食を食べ、準備をすると、早めに出発した。
なお、昨日の火魔法のせいで罠が燃え、朝食は携帯食料だった。
「鳥肉が食べられませんでしたー」
マリアがちょっと悲しそうに言う。
「罠が燃えたんだからしゃーない」
「どっちみち、無理だと思うよ。あんなことがあったらまず鳥が近づかない」
焦げ臭かったしなー。
「ラウラさー、昨日の男のことだけど、本当に知らない?」
俺は婆さんに昨日のことを聞く。
「知らないねー。幻術の魔法を使う者は少ないから知り合いならわかるんだが……」
「ふーん……あいつ、俺達がエーデルタルトの貴族なことを知っていたぞ」
「ギルドから漏れたとは考えにくいから国の方からだろうねー」
「漏れたというか、スパイか裏切者がいるんじゃないか?」
今回の経緯を考えると、そっちな気がする。
「考えたくないねー。まあ、どうしようもないよ」
「オリヴィアに伝えろよ」
「じゃあ、はっきり言うよ。オリヴィア様はあんたらみたいに政治や政争に詳しくない。所詮は平和な国のお姫様さ。じゃなきゃ、立場ある第一王女が隣国の王太子と繋がらないよ」
まあ、そんな気はするな。
「俺達の宿屋に直接来た時からなんとなくはわかっていたけどさ……」
「私だって止めたさ。私かギルドを通せばいいのに危険を冒してまで自分が説明するって言い張ったんだ」
この国は女王制を認めていなかった。
だからバカなんだろうな。
下手な知識を付けさせると、面倒になると思ったんだろう。
…………まあ、付けさせないでも面倒だけど。
何事もバランスが大事なんだなー。
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