第144話 ギルドにも色んな職員がいる


 俺達はジャスの王都にやってくると、大通りを馬車で進みながら街並みを眺めている。

 ここはエイミルの王都と同じくらいの規模だが、道が広く、石造りの舗装もちゃんとしていた。

 やはり小国とはいえ、王都ともなると、賑わいもあり、発展はしているようだ。


 馬車が大通りを進んでいくと、2階建ての建物の前に止まった。


「ここか?」


 建物を見上げながら婆さんに聞く。


「そうだよ。馬車を預けるついでに部屋を借りてくるから馬車を見ておいておくれ」


 平和で治安が良いとはいえ、盗まれるかもしれないし、見張っておく必要があるのだろう。


「俺らの部屋は?」

「借りてくるよ。3人部屋でいいかい?」

「それでいいぞ」

「金貨3枚だよ」


 高いなー。


「奢ってくれ」

「私と同室でいいならいいよ」


 絶対に嫌だわ。

 叔母上でも嫌だったのに。


「ほれ、金貨3枚だ」


 俺はカバンから金貨を取り出し、婆さんに渡す。


「はいよ。言っておくけど、追加のワインも自費だよ。私にツケようとしたら拒否するように店員に言っておくからね」

「ケチだなー」

「それはどう考えてもあんただよ、殿下」


 ケチじゃない。

 金がないんだよ。


「高ランクの冒険者なら後輩の新人冒険者に奢る面倒見の良さが欲しいわ」

「……1本だけだよ」


 優しいおばあちゃんだな。


「よろしくー」

「ハァ……」


 婆さんはため息をつくと、荷台から降り、宿屋に入っていった。

 そして、しばらく待っていると、婆さんが宿屋の店員らしきおっさんと共に戻ってくる。


「降りな。ギルドに行くよ」


 婆さんは俺達のもとに来ると、降りるように言う。


「馬車は?」

「専用の置き場があるんだよ。後は任せればいい」


 おっさんはそのために来たわけね。


 俺達は馬車から降りると、馬車をおっさんに任せ、歩き出す。

 そのまま歩いていくと、剣が交差する看板が見えてきた。

 もちろん、ギルドである。


「この時間は冒険者も少ないと思うけど、頼むよ」

「善処しよう」


 俺が頷くと婆さんがギルドに入ったため、俺達も続く。

 ギルドはそこそこにぎわっており、おっさんや女性冒険者、中には子供みたいなのがおり、依頼票を見たり、仲間内で話をしていたりした。


「多いな」

「まあ、王都だしね。ほら、行くよ」


 俺達は婆さんについていき、受付に向かう。


「ヨーゼフ、久しぶりだね」


 婆さんは受付にいる眼帯をしたどう見ても賊にしか見えない男に声をかけた。


「ラウラ婆さんか。あんた、いつになったらくたばるんだ?」


 賊が開口一番でとんでもないことを言う。


「失礼だね」

「いや、悪い。俺がペーペーの頃から婆さんだったし、単純にそう思っただけだ」

「あんたらとは違うからね」

「エルフっていうのはよくわからんわ。それで何の用だ?」


 賊が婆さんに聞く。


「あんたらの手伝いだよ。アヒムから聞いたけど、新人が多いんだって?」

「おー! 指導員を頼んでいたが、あんたが来てくれたのか!」


 他国でもギルド間でこういうやりとりはあるんだな。


「私はもうほぼ引退の身だからね。後は後生を育てるだけさ」

「素晴らしい心がけだな。金を儲けてさっさと引退した奴らに聞かせてやりたいわ」

「それも種族の差さ。私は時間がたんまりあるからね」

「それでもさ。ところで、そいつらは誰だ? えらい別嬪さんがいるが……」


 賊が俺達を見る。


「ジャックの連れだよ。ウォルターに行きたいんだと」


 婆さんが説明してくれる。


「ジャック? ジャック・ヤッホイか?」

「そうだよ」

「なんでまたジャックがこんなガキ共を?」


 俺らって、ガキかね?

 まあ、この賊の年齢を考えたらガキかもしれん。

 こいつ、おっさんだし。


「詳しい話は聞かない方が良いよ」

「…………ヤバい感じか?」

「エーデルタルトの貴族様だよ。しかも、かなり上の方」

「エーデルタルトでウォルターって……」


 賊が俺を見る。

 こいつ、見た目と違って政治や貴族事情にも詳しいな。


「何だ、賊? 何か言いたいことでもあるのか?」

「賊って俺のことか?」


 賊が自分の顔を指差しながら婆さんに聞く。


「あんたのことだろ。どう見ても賊崩れだ」


 婆さんもそう思うらしい。


「賊じゃねーよ…………それにしてもエーデルタルト……こんな時にかよ」


 この反応からこの賊もエイミルとジャスのことは知っているようだ。


「今回のこととはあまり関係ないよ。どうも違う事情があるみたい」

「ホントかぁ?」

「ジャックから手紙をもらったしね。それにエーデルタルトがこんなところに関与するわけがないだろ。メリットがない」


 むしろテールの国力が上がると考えればデメリットだわ。

 それでもあの腑抜け共に負けるエーデルタルトではないがな。


「それもそうだな。ジャックに頼まれたからここまで連れてきた感じか?」

「まあ、そんなもんだよ。酒を奢ってもらうまで死んでもらったら困るんだってさ」


 そういや、ジャックに酒を奢る約束をしてたわ。


「ふーん。じゃあ、婆さんもウォルターに行くのか?」

「さすがにそこまでは行かないよ。それに私はウォルターに行きたくない。というより、教国に近づきたくない」


 ウォルターの北にあるのが教国だ。

 俺達もマリアのことがあるから近づきたくない。


「あー、婆さん、エルフだもんな。しかし、そいつらだけで大丈夫なのか?」

「こいつら自身が冒険者だし、エーデルタルトって言っただろ。問題ないよ。あるとしたら女にちょっかい掛けただけで殺しにくるところ」


 殺すに決まってんじゃん。


「めんどくせーのが来たな……通達しとくか」

「そうしな。私に匹敵する魔術師だよ」

「魔術師? しかも、ラウラ婆さんに匹敵する? エーデルタルトなのに?」

「そうだよ。平原が火の海になってた」


 そうは言うが、婆さんの土魔法の方が難易度は高い。


「ホント、めんどくせーのが来たわ……」


 めんどくさくて悪かったな。


「長居はせんから安心しろ」

「それは良かった。仕事はするか?」

「しない。それよりも少し聞きたいことがある」

「聞きたいこと? なんだ?」


 さて、情報を仕入れるかね。





――――――――――――


本日、書籍の第1巻が発売となりました!

是非とも土日にでも読んで頂けたらと思います。

よろしくお願いいたします。

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