第185話 暇な旅
ウォルターの王都を出て、2日が経った。
俺達はその間、馬車で移動し、夕方になると、野営をして休みながら進んでいる。
昨日も野営をし、テントで休んだ。
俺は目を覚ますと、まだ寝ているリーシャとマリアをそのままにし、テントを出る。
すると、ジャックはすでに起きており、焚火の前で座っていた。
「早いなー」
「まあな」
「そういえば、ラウラも大抵、俺より早く起きてたけど、冒険者は早くに起きるのか?」
長旅だったが、いつもラウラ、俺、マリア、リーシャの順番で起きていた。
「別にそんな決まりはないぞ。単純にお前さん達に気を遣って、先に焚火を作ってやってるだけだ」
「ふーん……先輩風?」
「そんな感じだな。俺がペーペーの頃にベテランの先輩に同じことをされた。そして、この歳になってわかったんだが、歳を取ると眠りが浅くなり、勝手に目が覚める」
それ、気を遣ってなくね?
恩着せがましいだけじゃん。
「まあいいわ。罠を見てくる」
「頼むわ。俺の罠は空ぶりだった」
しゃーない。
かかる時もあれば、かからない時もある。
俺は昨日の夜に罠を仕掛けた場所に向かう。
すると、見事にウサギがかかっていた。
「さすがは俺の魔法だな……」
俺は自画自賛でウサギを回収すると、テント前の焚火に戻る。
「かかってたわ」
「おー、そいつは良かった。貸しな」
ジャックが手を伸ばしたのでウサギを渡す。
すると、ジャックは慣れた手つきでウサギを解体していった。
「上手いもんだなー。俺はいまだに適当だぞ」
素直に感心する。
「ベテランだからなー。というか、ウサギの解体に慣れた王子様ってのもちょっとな……」
まあね。
「エイミル王はどうだったんだ?」
「あいつはひでー。ウサギが可哀想だから無理って言って、一度も解体したことがない。しかもそのくせ、焼いた肉は大丈夫とか言って、誰よりも食ってた」
うん、ひどい。
リーシャとマリアも解体をしたことがないが、それは俺が止めているからだ。
でも、エイミル王はやれよ……
「お前らのパーティーって、ケンカが多そうだな」
「そりゃ多かったぜ。生意気で泣き虫のラウラ、すぐに音を上げる悪ガキのデニス。他にも俺らで治験をする錬金術師のクソガキのリアンドラ、娼館にハマって借金ばっかりのニコラスだ。苦労したなー……」
ロクなのがおらんな。
まあ、それくらいの個性がないと上にはいけないのかもしれない。
バカと天才は紙一重って言うし。
「他の2人はまだ冒険者か?」
「リアンドラは国に帰って結婚したな。自分の子供に薬を飲まそうとして旦那に怒られたって手紙に書いてあった。ニコラスはまだ冒険者だ。借金があるからな」
ホント、ひどい奴らだ。
当たり前だけど、エイミル王が一番マシだわ。
「そいつらが高ランクなわけだろ? 信用あんの?」
「公私は分けてたからな。冒険者なんかロクでもない奴らばかりだが、それができる奴が高ランクになる」
ふーん……
「どうでもいいけど、お前の本ってかなり仲間を脚色してんだな」
本では正義感に溢れ、熱い仲間って感じだった。
「そりゃな。子供達に読んでもらうための本だし」
娼館にハマってる奴は書けんか……
ジャックがウサギの解体を終え、肉を焼き始めた。
すると、マリアと眠そうなリーシャがテントから出てくる。
そして、リーシャはマリアに手を引っ張られながらこちらに歩いてきた。
「おはようございます」
「おはよ……」
2人は挨拶をしながら焚火の前に座る。
「しっかりしろよ。今日の昼には国境の関所に着くぜ」
ジャックがリーシャを見ながら笑った。
「やっとかー……早く着かないかしら?」
「文句は飛空艇を怖がる奴に言え」
ジャックがそう言うと、リーシャがマリアを見る。
すると、マリアが責めるような目で俺を見てきた。
「いや、お前だろ」
「殿下でーす」
「2人共でしょ……やっぱり気絶させて無理やり運ぶ方法にした方が良くない?」
嫌だわ。
「そういう人権を無視したの良くないと思います。私達は荷物じゃないんです」
そうだ、そうだ。
「お荷物……」
「こら!」
「下水めー」
俺とマリアはとんでもないことを口走ったリーシャを睨んだ。
「ケンカすんなっての……いいから食え。もう焼けてるぞ」
別にケンカはしてない。
じゃれているだけだ。
独身者はそれがわからんらしい。
俺達は肉を取ると、用意していたパンに挟んで食べる。
「まあまあだな」
「そうね」
「もう御二人の感想から絶対に味の良し悪しがわかってないってわかりますよ」
そもそも俺達は良いものしか食べてこなかった。
だから人参なんかの嫌いなもの以外は基本、美味かったし、味の良し悪しなんかわかるわけがない。
ぶっちゃけ、このウサギ肉サンドは美味いし、ウォルターの城で食べたなんちゃらのなんちゃらっていう肉料理と味の感想は変わらんわ。
俺達はその後、美味い朝食を食べ終えると片付けと準備をし、出発した。
そして、これまでと同じように馬車に揺られていると、道が石造りの舗装に変わる。
「関所が見えてきたぜ」
ジャックがそう声をかけてきたため、馬車から顔を出し、前方を見ると、確かに関所らしき石造りの塀が見えていた。
当たり前だが、エイミルとジャスの国境とは違い、ちゃんとした国境のようで兵士らしき人影も見えていた。
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