第184話 しゅっぱーつ
翌日に出発することにした俺達はヒラリーから路銀を受け取ると、旅の準備を始めた。
とはいえ、ここまで旅をしてきたので道具はあるし、携帯食料を補充する程度だ。
俺達は町で必要な物を買い揃えると、城に戻る。
城に戻った時はすでに夕方だったため、すぐに昨日と同じ6人で夕食を食べ、この日は早めに就寝した。
そして、翌日。
早めに起きると、いつものように駄々をこねるリーシャを起こし、準備をする。
そして、後のことを部屋の外で控えていたシルヴィアに任せると、城を出た。
城を出ると、門からちょっと行ったところに見覚えのある馬車が見える。
俺達がその馬車に近づいていくと、荷台に座るジャックとそのジャックを見上げながら何かを話している婆さんがいた。
「よう、ラウラもいたのかー」
「おはよー……」
「おはようございます」
俺達は話している2人に声をかける。
「ん? ちゃんと起きたみたいだな。相変わらず、若干一名は眠そうな顔をしているが……」
ジャックがリーシャを見て、笑った。
「おはよう。見送りに来たんだよ。あと、馬車を届けにね」
婆さんがそう言いながらグローリアスを撫でる。
「何を話してたんだ?」
「別に……酒場では帰ってごめんねって言ったくらいだよ」
謝れたのか……
えらいぞ、ババア。
「余計なことを言ってないだろうねって睨まれたわー。言ってねーっての」
ジャックがまたしても笑う。
「別れの時に泣いたって言ってたぞ」
「言ってたわねー……」
「言ってました!」
俺達はチクった。
「泣いてないよ! 泣いてない!」
婆さんはムキになって否定する。
「泣いてたじゃねーか。ダメな奴でごめんねー……って。美人のエルフが鼻水垂らしてたから笑いそうになったぞ。そんな雰囲気じゃなかったから誰も笑わなかったけどよ」
ジャックさんは容赦がないなー……
「やっぱり会うんじゃなかった! 関わるんじゃなかった! ふんっ! 野垂れ死ね!」
婆さんはそう捨て台詞を吐くと、歩いてどっかに行ってしまった。
「逃げたな……」
多分、そうだろうね。
「お前、老人を労われよ」
「俺はあいつを老人と思ってない。ただの腰を痛めた生意気な小娘だ」
歳は圧倒的に向こうが上なんだがなー……
まあ、苦楽を共にした仲間だからこその関係なんだろう。
「ラブロマンスはなさそうだなー……」
「ねーよ。お前さん達には関係ないだろうが、冒険者はなるべく仲間内は避ける」
「別れたら気まずいからか?」
ウチは別れたら終わりだ。
人生がね……
「それもあるが、差別する。小っちゃい嬢ちゃんは俺と殿下がケガをしてたら殿下を優先するだろ? だが、俺のケガが深かったらどうする? そういうのが亀裂を生み、徐々にパーティーを崩壊させるんだよ」
「ふーん、まあ、確かに俺らには関係ないな」
そもそももう冒険しなくてもいいしな。
「お前らは夫婦だからな……それにエーデルタルトはなー……まあいいや。乗りな。さっさと行こう」
俺達はジャックにそう言われたので馬車に乗り込む。
すると、馬車が動き出した。
「ジャック、森まではどれくらいかかる?」
「そんなに遠くないからなー……5日ってところか?」
うーん、微妙。
これまでの旅を考えれば近いが、遠い……
「まあ、安全運転で急いでくれや。ミレーのことはよく知らないんだが、モンスターとか出るのか?」
「安全な街道を進んでいくからモンスターも盗賊も滅多には出ないと思うぞ。出てきてもお前さん達の出番はないな」
ひゅー。
Aランクはかっこいいわ。
「ルートは?」
「東門から出て、国境を目指す。国境を越えてミレーに入ったらスミスっていうエルフの森の最寄りの町だな。そこで情報収集をしてから行こう」
「わかった」
スミスに着くまでやることねーな。
「敵が来たら起こして」
リーシャはこてんと横になった。
「リーシャ様は起こさなくても起きるでしょ…………早い」
マリアが横になっているリーシャの顔の前で手を振る。
もちろん、リーシャは一切、反応しない。
「そいつは放っておけ。それよりマリア、美人が多いと思うエルフの森でリーシャが不機嫌にならない方法を一緒に考えようぜ」
「うーん……殿下が常に抱いて歩くのはどうですか?」
どうやんだよ、それ……
「歩けないだろ」
「お姫様抱っこです」
お姫様抱っこ?
「俺がリーシャを持って歩くのか? 森の中を?」
「…………無理そうですね」
絶対に無理だわ。
貧弱な魔術師だぞ。
「肉体接触はなしで頼む。単純に森の中は危ないだろ」
手を繋ぐのですら危ない。
「それもそうですねー。じゃあ、エルフさんに自分の嫁はかわいいってアピールしましょう」
それ、君も入れてかな?
いや、まあ、かわいいけど。
「そんな感じでいくかー」
「鼻で笑ってやりましょう!」
それはそれでエルフにケンカを売らないかねー?
でもまあ、リーシャが暴走するよりかはいいか……
「わかった。ウチの絶世を見せつける作戦でいこう」
「そうしましょう。ところで、殿下、私の装飾品はどれがいいですかね?」
マリアがカバンからカタログを出し、俺に見せてきた。
付き合わないといけないんだろうなー……
「まず、ギリスの王妃からもらった髪飾りがあるだろ? あれは必須」
「…………そういえば、それがありましたね」
完全に忘れてたな、こいつ……
この感じだと、多分、リーシャもだろう。
「あれはこういう時に着けるものだ。式後に感謝の手紙を送っとけ。それは必須であとは派手じゃないやつがいいぞ。じゃらじゃらしたやつは好きじゃないし、水の神殿の結婚式は身内しか参加できないからエーデルタルトの大聖堂でやるような豪華さはいらない。あと、お前には似合わないだろ。お前はお前の良さを出そう」
ポテトフライだし。
「なるほどー。じゃあ、金やダイヤよりもこっちかなー……」
マリアがカタログの中の赤い宝石が付いたネックレスを指差す。
「良いんじゃないか? あとはリーシャとの組み合わせを考えながら伯母上と相談しろ」
「そうします! ありがとうございますー」
うんうん。
まったく興味ないけど、お前のかわいい笑顔が見れて良かったわ。
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