第205話 テールはいらない国


 俺とリーシャが死体を見ながら考えていると、ティーナがジャック、マリア、ヴィリーを連れて戻ってきた。


「殿下、絶世の嬢ちゃん、無事だったか?」


 ジャックが聞いてくる。


「多少、てこずったが問題ない。とはいえ、奴隷狩りとは思えない相手だった」

「ふむ……」


 ジャックは頷くと、死体を調べ始めた。


「マリア、リーシャの腕にヒールをかけてやってくれ」

「ヒール? ケガをされたんですか?」

「触られたとか言って、ハンカチでこすって赤くなっただけだ」

「触られた? 御いたわしいリーシャ様……」


 マリアは悲しそうな顔をして、赤くなっているリーシャの腕に回復魔法をかけ始める。


「あ、マリアもその認識なんだ……」


 ティーナがちょっと引いていた。


「放っておけ。ヴィリー、こいつらの仲間っぽいのはいたか?」


 ヴィリーに確認する。


「いや、いない。こいつらだけだろう。しかし、この鎧は厄介だ……あれほどの火力の魔法を防ぐとは……」


 確かにすごかった。

 他の奴らは灰も残っていないというのに……


「悪用されるかもしれんし、没収しとけ」

「いいのか? お前の戦利品だろ」

「ゴミ野郎が着てた鎧なんかいらねーわ。もらっても売るしかないが、自分を追い詰めることになりそうな物は売れん。いらないからお前らにやる。処分しとけ」

「わかった。どこかに埋めておこう」


 それがいい。

 こんなタチの悪いものは捨てるに限る。


「殿下、ちょっといいか?」


 腰を下ろして、転がっている首を見ていたジャックが俺を呼んできた。

 俺はすぐにジャックのもとに行く。


「どうした?」

「こいつはレナルド・アーネットだ」


 んー?

 聞いたことないわ。


「誰だ?」

「元テール貴族の冒険者だ」


 冒険者……

 しかも、テールの貴族か……


「元とは?」

「家を追い出されたんだよ。こいつは自分の領地の人間を何人も殺した殺人鬼だ」


 いや、そんな奴を追い出すな。

 迷惑だから殺すか幽閉しろ。


「詳しいな……有名なのか?」

「有名だよ。ギルドもブラックリストに入れている奴だ」


 俺達もそのリストに入ってる……


「殺人鬼は冒険者になっても変わらないってことか」

「そういうことだ。まあ、問題児というか、それを通り越したヤバい野郎で有名な奴だな。だが、お前さん達も感じただろうが、実力はある」


 確かにあったな……


「面倒なのに当たったなー。それにしても、テールはロクでもないな」


 貴族もダメかい。


「その辺は何とも言えねーよ。それよりも、この件はさすがにスミスの領主やギルドに報告する必要がある。殿下、悪いが、ウォルターに帰る前にスミスに寄るぜ」

「まあ、1日もかからないだろうし、構わん」


 仕方がないだろう。

 奴隷狩りのことを考えれば、領主に一声かけておかないといけない。


「なんにせよ、一度、エルフの集落に戻る。ちょっと話をしないといけないからな」


 ティーナのことをヒルダに話しておかないといけない。


「わかった。これの処分は俺がやっておく」

「頼むわ。ヴィリー、鎧を頼むぞ。俺達魔術師の敵になるものは絶対に処分しろ」


 この場をジャックに任せると、ヴィリーに念を押す。


「わかっている。ジャック殿、私も手伝おう」

「頼むわ」


 俺達はこの場をジャックとヴィリーに任せると、森に引き返した。

 そして、狭い道を歩きながら集落まで戻ると、昨日、話をした建物まで行く。

 建物までやって来ると、扉がないのでノックもせずにそのまま建物に入った。


 建物の中ではヒルダとカサンドラが席に着いて話をしており、ヒルダのそばにはベンが控えていた。


「ノックくらいせんか」


 ヒルダが文句を言ってくるが、扉がないんだから仕方がない。


「どうでもいいだろ」

「ハァ……おぬしに何を言っても無駄か」


 ヒルダは諦めたようだ。


「ロイド王子。奴隷狩りが森の近くに来ていると聞いているが、どうなった?」


 カサンドラが聞いてくる。


「始末した。今はジャックとヴィリーが後片付けをしているところだ」

「おー! そうか、そうか! これで面倒ごとが一つ消えたな」


 一つ?


「他にも面倒ごとがあるのか?」

「あるぞ。ほら」


 カサンドラは頷くと、何かの封筒をテーブルに置く。

 俺はカサンドラの近くまで行くと、封筒を手に取った。


「面倒ごとってラウラへの手紙か?」

「ああ。あのバカ娘への手紙だ。絶対に渡してほしい」

「手紙を渡しても帰ってこないと思うぞ」


 相当、嫌がってたし。


「別に帰ってきたくないなら帰ってこんでもいいわ。でも、手紙くらいは出すように伝えようと思ってな」

「手紙なんか届くのか?」


 ここ、誰も来ないじゃん。


「その辺を今後考えていくんだよ。獣人族とも友誼を結んだことだしな」


 同盟は上手くいったっぽいな。


「そうか……まあ、わかった。この手紙は確かにラウラに渡そう」

「頼むぞ。何か褒美でもやるか……」

「いらん…………あ、待て。はちみつ酒と果実酒をくれ。俺の妻が大変気に入っている」


 マリアね。


「殿下もでしょうに……」


 マリアがぼそっとつぶやく。


「ふーむ、あんな物がいいのか?」

「お前らがあんな物と思う物でも外の者には貴重な物になる。お前らを奴隷にするより、よっぽど価値があるわ」

「私達は酒以下か?」


 カサンドラが不満そうに言ってきたのでリーシャを見る。

 すると、リーシャがかっこつけて髪を手で払った。

 俺はそんなリーシャを見た後にカサンドラを見る。


「以下だな」

「はよ、帰れ」

「わかるなー。妾もカサンドラ殿の気持ちがすっごくわかるなー。こいつら、マジで嫌い」


 あっそ。

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