第202話 あいつら嫌い


 俺達が来た道を引き返すと、帰りは伐採がないため、そこまで時間がかからずに集落に戻ることができた。

 すると、集落の真ん中にはジャックとベンがおり、何かを話していた。


「ん? おー! 戻ったか。どうだった?」


 俺達が2人に近づくと、ジャックが俺達に気付き、手を上げながら聞いてくる。


「無事に採取した…………ティーナが」

「そうだろうなー。まあ、無事に目的のものが手に入って良かったわ」


 ジャックが半分呆れながらも笑った。


「ティーナ、どうした?」


 ベンは犬耳がしょぼんとしているティーナに気付き、声をかける。


「ベン、私、リーシャ様のメイドになることになっちゃった……」

「…………どういうことだ?」


 ベンが俺に聞いてきた。


「まんま。リーシャがティーナをえらく気に入ってな。金貨60枚の給金で雇うことにした」

「60って…………そうなのか?」


 ベンがティーナに確認する。


「うん……すごいよね」

「そうか……まあ、お前がそう決めたのならいいが、何故に落ち込んでいる?」

「知ってる? リーシャ様って怖い人なの」

「それは知ってるが……」


 知ってたらしい。

 まあ、見ればわかるか。


「この人達が私達やエルフを差別しない理由がよくわかった。そもそもこの人達って他人を自分の駒としか見てないの」


 人間関係なんてそんなもんだろ。

 利用できる奴は利用し、代わりに金を与える。

 その辺の商人でもやっている当たり前のことだ。


「まあ、そんな感じがするな……」

「ふう……まあいいわ。ところで、あなた達は何をしているの?」


 そういやそうだ。

 森の浅いところに行っているはずのジャックがいる。


「ジャック、何かあったか?」

「奴隷狩りらしき奴らが森からちょっと離れたところで野営してやがる。見張りをヴィリーの旦那に任せて、どうするかの相談をしにきた」


 野営ねー……


「お前はどうするべきだと思う?」

「ヴィリーの旦那が即刻、殺すべきと息巻いている。任せるのに一票だ」


 まあ、それでもいいが……


「却下だ。少し情報を仕入れたい」

「そう言うと思ったから相談しに戻ったんだわ」


 だろうな。


「ベン、お前は引き続き、ヒルダの護衛な」

「そのつもりだ」


 ベンが頷く。


「じゃあ、ゴミ掃除に行くか。あ、ベン、近衛隊になる気はない?」

「俺は立場がある人間だから無理だな」


 そりゃ残念。




 ◆◇◆




 俺、リーシャ、マリア、ジャック、ティーナの5人はエルフの集落を出ると、ジャックの案内で見張りをしているヴィリーのもとに向かう。

 ジャックの案内で森の浅いところに来ると、ヴィリーが木の上で森の外を見ていた。

 俺はヴィリーの視線の先を見てみるが、何も見えない。


「そっちにいるのかー?」


 俺はヴィリーを見上げながら聞く。


「ああ。遠見の魔法で見てみろ。どうせ使えるんだろ? 6人だ」


 ヴィリーにそう言われたので遠見の魔法を使い、視力を上げると、ヴィリーが見ている方向を見てみる。

 すると、冒険者風の男達が焚火の前で座っている様子が確認できた。


「冒険者に見えるが、そうじゃないんだろうなー」

「この森で仕事があるって言っても採取でしょ? 採取に6人もいらないわ」


 例によって、リーシャも見えているらしい。


「だなー。もう確定でいいな」


 目の前が森で、しかも、まだ昼なのにあそこでキャンプをしているということはそういうことだろう。


「殿下、どうするんだ?」


 ジャックが聞いてくる。


「そうだなー……ヴィリー、あの中に魔術師がいるか?」

「少し距離があってわかりにくいが、いないと思う。杖でなく剣を武器にしているようだし、魔力を感じない」


 俺とまったく同じ意見だ。

 全員、革製の防具に剣を装備している。

 とてもではないが、魔術師には見えない。

 それに距離があってわかりづらいが、これっぽちも魔力を感じない。


「ヴィリー、お前はここで別動隊が来ないかを見張っててくれ」


 一応、囮の可能性もある。


「いいだろう。他のエルフも森中を見張っている」


 それなら問題ないだろう。


「ジャック、お前はここで待機してろ」

「俺は行かなくてもいいのか?」

「お前が行くと、あいつらが逃げるんだよ」


 あいつらもAランクのジャックがスミスの町にいたことはわかっている。

 Aランク冒険者と争うなんていうリスクは負わないだろう。


「まあ、そうかもなー」

「絶対にそうだよ。だからここで待機して、何かあったら対処しろ」

「距離あるなー」


 ジャックは奴隷狩り共がいる遠くを見つめた。


「お前が姿を現せば逃げる。まあ、そんなピンチにはならんがな……」

「ロイド、マリアも連れていく気?」


 リーシャが聞いてくる。

 確かに敵の数が多いからマリアは置いていくべきだ。


「それもそうだな……マリア、お前はここで待機してろ」


 俺はマリアの頭を撫でながら指示した。


「大丈夫です?」

「あの程度には後れは取らん。まあ、何かあったら頼むわ」

「わかりました」


 マリアが頷く。


「ジャック、マリアを頼むわ」

「あいよ」


 何かあるとは思えないが、ジャックに任せておけば大丈夫だろう。


「よし、じゃあ、俺とリーシャとティーナな」

「わかった。どうする? 夜まで待つ?」


 ティーナが聞いてきた。

 獣人族は夜目が利くから夜の方が良いのはわかる。


「いや、あんなのに時間をかける気はない。適当に情報を仕入れたら殺す……行くぞ」


 俺はそう言って、歩き出すと、森を出た。

 すると、リーシャもすぐに俺に続き、ティーナも慌てて続く。


 よーし! あんなゴミ共はぶっ殺そう!

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