第201話 怖いよー……
この洞窟は氷の洞窟と呼ばれており、実際に寒い。
俺がそんな寒さよりも冷たい目線を完全に無視していると、ティーナがケアラルの花の採取を終えた。
「こんなもんでいい?」
ティーナがケアラルの花を渡してくる。
「ああ、これでいい。伯父上が心配だし、さっさと戻ろう」
俺はティーナから受け取った花をカバンにしまうと、ジト目のリーシャとマリアの肩を叩く。
「そうね」
「寒いですし、出ましょうか」
うーん、洞窟より冷たい。
マリアまで声色が若干、冷たい。
「可哀想な人……」
何が恐ろしいって、俺はそこまでおかしいと思っていないのにこの対応なことだ。
誕生日なんて、どうでもいいだろうと今でも思っている。
でも、ダメっぽい。
「わかったから…………ほら、戻るぞ」
俺達は来た道を引き返すことにした。
来た時は徐々に寒くなっていっていたが、帰りは逆に徐々に温度が上がっていっている。
「なんか季節感がバカになりそうな洞窟だな」
「何かに利用できそうで思いつかないわ」
「観光スポットにはなりそうです」
うーん、避暑地?
微妙……
「私なら食料の保存に使うわね」
いらんなー。
俺達はしょうもない話をしながら歩き、出口を目指す。
そして、しばらく歩いていると、光が見え始め、洞窟の外に出た。
「やっぱり外がいいな」
「そうね。早く戻りましょう」
リーシャが急かしてくる。
「どうした?」
「私が思うに奴隷狩りってエルフが目的ではない気がするの」
俺もその可能性は考えてはいた。
いたのだが……
「それは後にしよう」
「まあ、そうね」
俺達がエルフの集落に戻るために来た道を引き返そうとすると、ティーナが俺達の前に立ちはだかった。
「邪魔」
「話して」
うーん、だから俺は思っていても口には出さなかったんだがなー。
まあ、リーシャはティーナを侍女にするって言ってたし、仕方がないか。
「歩きながら話そう。行くぞ」
俺は本日何度目になるかは忘れたが、ティーナの肩を掴み、反対方向を向かせて、歩かせた。
「ねえ、奴隷狩りの目的って何?」
来た道を引き返していると、ティーナが聞いてくる。
「お前ら」
「というよりもヒルダでしょうね」
まあ、そんな気がする。
「どういうこと? お願いだから私にもわかるように説明して」
「エルフってお前らみたいに奴隷になっていないだろ。それは何故だ?」
「エルフは魔法に優れているから」
「そうだ。これまで何度もそういう攻防があったのだろう。近くの町の領主でさえ、エルフに一目を置き、自治を認めている。そんな実力あるエルフを今さら奴隷にしようと思うか? もし、捕まえようとしてもものすごい戦力がいる。それこそ軍を率いないといけないレベルだ」
それでも怪しい。
あの木の上での動きを見る限り、森ではエルフが最強だろう。
「そんな戦力はいなかった?」
「そうだ。俺達は近くのスミスって町に寄ってから来てる。そこでジャックが奴隷狩りらしき人間を見ているが、あの口ぶりから察するにそう多くはない」
「見かけたのは1人か2人でしょうね。その規模って考えると、総数は最大でも10人やそこらでしょう」
そんなもんだろう。
「つまりエルフが目的ではなく、私達?」
「そうだ。森の前で見つかった死体は森に入ったお前達を探っていた偵察員。ベンが斬ったのは威力偵察だな」
ベンやティーナの実力を測るためだろう。
もしくは独断専行のバカ。
「そう……どこまで行っても奴隷狩りか……」
「多分、張られたな。お前らはエルフとの同盟のために何度も行き来しているんだろう? その情報を掴み、来たって感じだ」
この国では獣人族も普通に町に入れるみたいだが、さすがに珍しいことには変わりないだろう。
だから情報が奴隷狩り連中に伝わったんだ。
「ハァ……エルフの人達に迷惑がかかってしまったわね」
「ティーナ、この事はエルフにもヒルダにも伝えるな」
「……なんで?」
ティーナが落ち込みながらも聞いてくる。
「同盟を結ぼうっていう時にわざわざエルフに話すことじゃない。それとヒルダを成長させたいなら今回の仕事にケチをつけるべきではない。この仕事をヒルダに任せたお前らの王の意図を汲め」
成功体験をさせ、自信を付かせるためである。
最後だけを任せるのはよくあることなのだ。
「そう……あなた達はそう思うよね」
ティーナは正直者だからなー。
嘘が得意ではないだろう。
だから俺は伝える気がなかった。
でも、こいつを侍女にする気のリーシャは先のことを考えている。
「ティーナ」
「わかってる。そうした方がいいわね。でも、そうなると奴隷狩りはどうするの?」
ティーナは切り替えると、顔を上げて聞いてくる。
「森の外でお前らを待ち伏せしているだろうから殺す」
「首を並べてあげましょう」
「奴隷狩りは地獄に落ちるのです!」
そうだ、そうだ。
「そうね……でも、なんで待ち伏せしてるってわかるの?」
「ジャックが森の浅いところに行くって言ってただろ。あいつも最初から奴隷狩りの目的をわかってるから見にいったんだ」
じゃなきゃ、護衛も兼ねているあいつが俺達と別行動を取るわけがない。
「そっかー。さすがはAランクの冒険者ね。すごい」
「俺達も褒めろよ」
「うん、そうね。でも、何故かあなた達には素直に称賛できないの。なんでかな?」
いや、素直に称賛しろよ。
「ティーナ」
リーシャはティーナの名を呼ぶと、ティーナの横に行き、肩に手を置く洞窟より。
「えっと……何?」
「ティーナ、別にあなたは私達を称賛したり、褒めたりしなくてもいいの。ただ、私の言うことを聞きなさい。私のために働けばいいの。わかる?」
こいつ、演劇だったら絶対に悪役だな。
「あの、私、まだメイドになるって言ってない……」
「貴族では裏切りは許されないわ。特に私は絶対に許さない…………意味がわかる?」
「はい……リーシャ様」
もうちょっと給料を上げてやるか……
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