第200話 当然、何も贈ったこともない


 氷の洞窟を目指して歩いていると、前方に岩山が見えてくる。

 俺達がそのまま岩山に向かって歩いていくと、道の先の岩山に穴が空いているのが見えたため、その穴の前まで向かった。


「これか?」


 一応、ティーナに聞いてみる。


「これだと思う。ヴィリーさんに聞いた特徴と似ているし、他に洞窟なんてないでしょ?」


 そう言われたので左右を見渡してみるが、確かにそれっぽい洞窟は見当たらない。


「まあ、これだな。ティーナ、入ってみろ」

「え? なんで私?」

「お前は夜目が利くんだろ?」

「まあ……じゃあ、確認してみる」


 ティーナはそう言うと、洞窟に入っていった。


『すごく涼しいーよー』


 洞窟の中から反響したティーナの声が聞こえてくる。


「ガスとかはなし。問題なさそうだな」

「そうね。入りましょう」

「私、この人達と同評価かー……」


 マリアが落ち込むが、こいつだって絶対に先に行こうとしていなかった。


『おーい! どうしたのー?』


 洞窟の中からティーナの催促の声が聞こえてくる。

 俺はライトの魔法を使い、頭上に光の玉を出すと、洞窟の中に入った。

 すると、ティーナが納得いっていなさそうな顔で俺を見る。


「そんな便利な魔法があるじゃん」


 ティーナが光球を指差した。


「まあいいだろ。それよか、本当に涼しいな」


 洞窟の中は外と比べると、明らかに温度が下がっている。

 寒いという感じではないが、涼しく快適である。


「なんかそういう魔鉱石の採掘場らしいよ。なんとかって魔鉱石だってさ」


 氷魔石かな?

 冷房に使えるやつ。


「ふーん……しかし、氷の洞窟はオーバーな気がするな」


 水が凍るほどの温度ではない。


「奥に行けば行くほど温度が下がるんだって」


 そういうもんか。


「そうなると冬に咲くとかいうケアラルの花はもうちょっと奥か……」


 涼しいが、冬って感じではない。

 冬を感じるくらいまでは奥に行かないといけないだろう。


「行く?」

「よし、行こう」


 俺はティーナの肩を掴み、洞窟の奥の方向を向かせると、そのまま押す。


「ねえ? なんで私が前なの? もしかしないでも私を先に行かせて安全を確認していない?」


 さすがに気付いたようだ。


「気のせいだ。俺達人族は暗いところが苦手なんだよ。さあ、行け」

「わかったから押さないでよ! 危ないでしょ」


 文句を言ってきたので押すのを止めた。

 そして、ティーナを先頭にどんどんと奥に歩いていく。


「なんか肌寒くなってきたな……」

「うん、寒い」

「ティーナさんは大丈夫なんですか?」


 マリアが何も変わらずに歩いているティーナに聞く。


「獣人族は寒さに強いからね」

「ふーん……毛深いん?」

「そういう意味じゃないわよ! どう見てもつるつるでしょ!」


 ティーナが腕をめくって見せつけてきた。

 まあ、人族と変わらない腕をしている。


「冗談だよ。羨ましい限りだわ。その尻尾をマフラーにしたい」

「猟奇的な王子様だなー……」


 冗談だっての。


「ところで、こんなところに花なんてあるの? 花というか、植物って太陽がないとダメじゃないの?」


 リーシャが聞いてくる。


「そういえばそうだ。ティーナ、ヴィリーから何か聞いてるか?」

「えーっと、ケアラルの花は特殊な環境下で…………忘れた」


 ……まあ、興味ないだろうしな。


「いいや。生えているんだろ?」

「うん。青い花だって」

「青ねー……まあ、もうちょっと奥に行ってみるか」


 俺達は寒い中を我慢して進んでいくと、洞窟の左壁に横穴を見つけた。


「あ、これこれ。この奥にあるらしい」


 ティーナがそう言いながら横穴に入っていったので俺達も続く。

 すると、少し行った先が少し開けており、そこには青い花がたくさん咲いていた。


「ケアラルの花ってこれでしょ」

「だな。しかし、岩に生えているんだな」


 この洞窟は岩盤だ。

 ケアラルの花はそんな岩から無数に生えていた。


「何でもいいでしょ」

「まあな。ティーナ、採取しろ」


 俺はたくさんある花を眺めながらティーナに命じる。


「え? なんで私?」

「俺達は採取なんてできん」

「あー……王子様だもんね。そっちの2人はもっと無理そう。なんでそんな3人で採取に来たんだか」


 ジャックがやる予定だったんだよ。


「ラウラは1本でいいって言ってたけど、念のため、数本頼むわ」

「はいはい」


 ティーナはしゃがむと、花を採取し始めた。


「子供の頃を思い出すなー。よく花を取って、花の冠とか作ったっけ」


 ティーナが花を採取しながら言う。


「お前にもそんな少女時代があったんだな」

「そりゃそうでしょ。あなた達は…………絶対にしてないわね」


 ティーナが呆れたようにリーシャとマリアを見た。


「するわけないでしょ。花は見るものよ」

「私はしたかったけど、不器用なんでできませんでしたね」


 そんな気がする。


「俺ももちろんないぞ。花なんて興味ないし」

「男の人はそうでしょうねー。でも、奥さんに贈るとか考えればー?」

「いらんだろ。な?」


 俺がリーシャとマリアに振ると、2人はニコッと笑うだけで否定も肯定もしない。


「いるっぽい…………」

「あなたって、頭が良いんでしょうけど、もう少し他の人のことを考えた方が良いわよ」

「気遣いとかとは無縁な生活を送ってきたからなー」

「……ねえ、ロイド。あなた、奥さんの誕生日とか知ってる?」


 ……………………。


「ティーナ、いい感じよ」

「もっと言ってやってください」


 あー、ベンに来てもらえば良かったなー。

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