第136話 あー、なんであんなことを!
「ロイド、着替えたわ」
「私もです」
どうやらリーシャもマリアも寝巻から服に着替えたらしい。
「ラウラ、いいぞ」
「ああ、呼んでくるよ」
ラウラはそう言うと、この場を離れる。
ラウラが離れると、この場に残されたカトリナはどうすればいいのかわからず、困惑した顔になった。
「カトリナ、お前はここで誰か来ないか見張っていろ」
俺はそう言って、カトリナの手に金貨を握らせる。
「わ、わかりました」
俺はカトリナが頷いたのを見て、一度、扉を閉めた。
そして、リーシャとマリアを見る。
「王族だな」
「他にないでしょ」
リーシャが頷いた。
「この国の王族情報は?」
「さすがにそこまでは調べてはないわね」
「私も知りません」
まあ、さっさと抜ける気でいたからそこまでは調べてないわな。
俺も当然、調べていないし、国交のないこの国の王族なんか知らない。
「女って言ってたが、俺が対応で良いのか?」
「うーん、私が対応するの? 別にいいけど、あなたがした方が良くない?」
向こうが誰かもわからんし、この国のルールもわからんからなー。
ウチの国では女は女同士で話す。
この場合は俺の正室であるリーシャの役目だ。
「あのー、殿下。ここは殿下が対応した方が良いと思います」
マリアもリーシャと同意見らしい。
「わかった。では、俺が対応する。マリア、お前も王族であることを忘れるな」
「まだ結婚してないんですけどね」
「ウォルターに行ったらする。あと少しだし、誤差だ」
「はーい」
マリアは返事をすると、リーシャの肩をバンバンと叩き始めた。
リーシャは迷惑そうな顔をするが、特に止めることはしない。
『あのー、お客様が来られましたけどー?』
扉越しにカトリナの声が聞こえてきた。
「入ってもらえ」
俺が入室の許可を出すと、ゆっくりと扉が開かれ、黒いローブのラウラと、同じく黒い外套にフードを被った人が入ってきた。
顔は見えないが、身長的に見ても女だろう。
「騙す形になって悪いね」
ラウラが口を開いた。
「別にわかっていたことだ。またなって言っただろう」
「そうだね。ちゃーんとまたねって返した」
どうせすぐに会うことになると思ったわ。
「そうだな」
「ねえ、なんでわかったんだい?」
「お前レベルの魔術師が商人なんてするわけがないだろ」
「ふっふっふ。それでさっきも私がいたことがわかったんだね。ちゃんと隠していたのにわずかな魔力を感じ取ったか……優秀な魔術師というのは本当みたいだね」
扉を開けた瞬間にこいつがいるのがわかった。
いくら隠そうとしてもこいつの魔力は異質なのだ。
「俺の魔力を感じればわかるだろ」
俺は魔力を隠していない。
いかに素晴らしい魔術師なのかは一目瞭然だろう。
「世の中には魔力だけ優れている愚図な魔術師もいるのさ」
叔母上ー。
愚図って言われてますよー。
「ふーん……で?」
俺は婆さんの後ろにいる外套を羽織った怪しい人間を見る。
「そうだね。紹介しよう」
「いえ、結構です」
きれいな声がしたと思ったら外套を羽織った怪しい人間がフードを取る。
すると、美しい顔をした黒髪の女性の顔が見えた。
顔立ちからしても多分、10代半ばくらいだと思う。
「よろしいので?」
婆さんが女に確認する。
「ええ。私が直接話します」
「わかりました」
婆さんは頷くと、女の後ろに下がった。
「まずはこんな夜更けの訪問をお許しください」
女はそう言うが、頭を下げることはしない。
「俺達の国ではこんな夜更けに女が男の家に訪ねるのは非常にはしたない行為だ」
「それはわが国でもございます」
まあ、そうだろうね。
ありえないことだ。
「もっと言うと、ウチの国では既婚者にそんなことをすると、殺しにかかる者がいるぞ」
「それも存じております。そのことについても謝罪いたします」
女はそう言うと、今度はリーシャとマリアに向かって、それぞれ頭を軽く下げた。
どうやらウチの国の作法を知っているらしい。
もしくは同じ。
「その汚名を被ってまでも話があると?」
「はい」
女はまっすぐ俺の目を見て答えた。
「ふーん、まあいい。座って話をしようか」
「そうですね」
俺と女はテーブルに行くと、それぞれ座る。
すると、リーシャとマリアはベッドに腰かけた。
「ラウラ、お前もベッドに座れ」
俺はこの場で唯一立っている婆さんに指示する。
「私は立っているよ」
「歳を考えろ、100歳超え。若い俺達が気になって仕方がないわ」
「……座らせてもらうよ」
婆さんはよっこらせと言いながらベッドに腰かけた、
「さて、自己紹介といこうか。俺からでいいかな?」
ウチの国では最初に名乗るのは男からだ。
「構いません」
「俺はエーデルタルト王国の第一王子、ロイド・ロンズデールだ。ちなみに、ここにいるのが俺の正室のリーシャと側室のマリアだ」
俺が自己紹介をし、リーシャとマリアを紹介すると、リーシャとマリアは正室、側室の順番で軽く頭を下げた。
「私はエイミル王国の第一王女、オリヴィアです。この国では王族の女性は姓を名乗ってはいけないことをご承知ください」
そうなんだ。
ウチはそんなことはない。
叔母上だって普通にアシュリー・ロンズデールと名乗っていた。
今はアシュリー・パーカーだけど。
「理由を聞いていいか? ウチにはない風習だ」
ちょっと気になる。
「女には王位継承権がありません。そして、必ずどこかに嫁ぎます。それを強調するために姓を名乗ることが許されないのです。もちろん、王族だけの話ですよ」
「女王制はなしか」
「はい」
ウチも基本は男子が継ぐが、何度かは女王もいたはずである。
跡継ぎの男子が幼すぎると、一時的に王族の女性が女王になることがあるのだ。
「ふーん、過去に何かあったか?」
「その辺の民も知っていることだから隠しませんが、かつての女王が欲望深く、圧政を敷いたんですよ。泥女のカテリーナは誰もが知っている喜劇です」
喜劇になっているのね……
「他国の話を聞くのは面白いな」
「私もエーデルタルトのことが気になります。エーデルタルトの女子はお風呂だろうが寝室だろうがナイフを持ち込むって本当ですか?」
オリヴィアがリーシャとマリアを見る。
「当然です」
「王へ謁見の場でも持ち込むことが許されていますね」
あれはやめてほしいね。
多分、叔母上に目の前で首を掻っ切られたギリス王もそう思っただろう。
「男のために命を投げ出すのが馬鹿らしいとは思わないのですか?」
そうだ、そうだ。
思え。
「男のためではなく、自分の秩序のためです」
「貞淑さと高潔さこそがエーデルタルト女子の誇りです」
リーシャとマリアは少し怒ったような顔ではっきりと告げた。
「そ、そうですか…………」
オリヴィアの顔にははっきりと理解できないと書いてある。
「色んな国があるんだ。それぞれ風習が違う。お前も気を付けた方が良いぞ」
「実感がこもっていますね。他所で何かしましたか?」
「別に……」
4歳の従妹に求婚しただけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます