第137話 工作の匂いしかしない


 俺はヘレナのことを思い出し、どうしようと悩みだした。


 4歳なんかありえない。

 しかも、他国の貴族で従妹だ。

 だが、あの可愛い笑顔を曇らせたくはない…………

 うーん……


「触れない方がいいのでしょうね。では、時間も時間ですし、私も秘密に城を抜け出している身なので時間がありませんから本題に入りましょう」

「そうだな。外で立っているカトリナが可哀想だ」


 他国の王子と自国の王女の秘密の会合の見張りをしているのは辛いだろう。


「彼女を責めないでください。私が無理を言ったのです」

「わかっている。いちいち庶民に目くじらは立てん。それで? 何か依頼があるのか?」

「はい。ロイド様達はウォルターに行くと聞きました」

「誰から聞いた?」


 ギルドか?


「ギリス王からです。ギリス王から自国に滞在しているエーデルタルトの王族がウォルターに向かうためにエイミルに向かうから通してやってほしいと手紙が届いたのです」


 あー、そういうことを書いたんだ。


「それをギルドに伝えたわけか?」

「はい。失礼を承知で言いますが、この国はテール王国を脅威に思っています。そして、それ以上にエーデルタルト王国を怖れています。変に刺激しないように伝えました」

「国交もないし、離れているだろ。何を怖れる?」

「噂が入ってくるんですよ。それこそエーデルタルトの女子は首を掻っ切るや男子は恐れを知らない戦士だとか様々です」


 テールを挟んでいるから変な噂が入ってくるんだな……うん、きっとそうだ。


「誤報だ」

「私はエーデルタルトに行ったことがあるけど、事実だろ」


 ババアが余計ことを言う。


「そういう者もいるってだけだ。俺は恐れを知っているし、そもそも戦闘を好んでおらん」

「そうかい……じゃあ、そういうことにしておくよ」


 しかし、どこの国に行ってもエーデルタルトは評判が悪いなー。

 多分、テールの工作だな。


「オリヴィア、他国の流言に惑わされるな。俺達はごく普通だ」

「…………そうですね」


 オリヴィアは首を傾げた後に頷いた。


 うーん、俺達の何が変なんだろう?


「どっちみち、さっさとこの国を出て、隣のジャスに行くよ」

「それです。御三方はウォルターに行くためにジャスを通るのでしょう? 実はジャスのとある方にこの手紙を渡してほしいのです」


 オリヴィアがそう言って、封筒をテーブルに置く。


「それが依頼か?」

「そうなります」


 業者に頼めない相手ってことか?

 簡単な仕事のように思えるが……


「相手は誰だ?」

「ジャス王国の第一王子、コンラート様です」


 ほらね。

 Dランクの俺達に頼んだ理由はこれだ。


「いくら俺が王族でも厳しいぞ。普通にお前が出せ。同盟国だろう?」

「…………そういうわけにはいきません」


 あーあ。

 嫌なことを知っちゃったよ。


「お前、婚約者は?」

「私にはおりません」


 コンラートにはいるのね……


「バカ王女とバカ王子だったか……」

「好きなだけ言いなさい。自分達も理解しております」

「どこまでやった?」

「言えません」


 はい、アウトー。

 ベッドに座っているリーシャとマリアを見ることができんわ。

 間違いなく、汚物を見る目で見ている。


「事情は聞かん。だが、手紙とやらの内容を教えろ。まさか恋文じゃないだろうな?」


 もしそうなら絶対に断る。

 舐めてるとしか思えない。


「実は現在、この国とジャスは緊張状態にあるのです」

「緊張? 同盟国じゃなかったか?」

「そうです。何十年も争いが起きず、仲良くしていた国同士です」


 隣国同士って仲が悪くなるもんなんだがねー。

 ウチとテールとか完全にそう。


「きっかけはジャスの兵士が国境沿いの村を略奪したことです」


 穏やかではない。

 というか、もはや侵略だ。


「なんでそんなことを?」

「わかりません。ですが、このことを重く見た私の父、つまり国王は国境沿いに軍を派遣しました。ところが、すでに向こうも国境付近で軍を配置しており、出会い頭に衝突し、小競り合い程度ですが、戦いが起きました。今はお互いに陣を張り、膠着状態です」

「ふーん、勝てそうか?」

「勝てる勝てないではありません。争いなんかしてはいけません。北にはテールがいるんですよ」


 それが答えだと思うのは俺だけかね?


「手紙は停戦の呼びかけか?」

「似たようなものだと思って構いません」


 こいつにそんな力はないと思うが、何とかしたいという気持ちからだろうな。


「この状況で国境を越えられるか?」

「まだ戦争が起きたわけではないですし、今まで通り、人や物の流れは止まっていません」

「隠しているわけか?」


 今日見た限りでは王都は平和そのものであり、とてもではないが、戦争状態の雰囲気ではない。


「はい。どうやらジャスでも隠しているようです」


 でも、戦闘が本格化したら隠せない。


「なんとなくわかった。だが、問題が一つ。そんな状況で俺がコンラート王子に会えるとは思えん。下手をすると捕まる」


 こんな状況で他国の者が会えるわけがない。


「そこであなたにお願いしたのです。前にコンラート様から聞いたのですが、コンラート様がエーデルタルトに留学していた際はご学友だったそうで。仲が良かったとおっしゃっておられました」


 ……え?

 そうだっけ?


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