第040話 獣人族
この世界には俺達のような人族とは別に獣人族と呼ばれる種族がいる。
獣人族は獣の特性を持つ人種のことで身体能力なんかが結構すごいらしい。
らしいというのは俺が詳しく知らないからだ。
というよりも、ほとんどのエーデルタルトの人間は知らない。
何故なら、エーデルタルトには獣人族が住んでいないからである。
俺達はそんな獣人族の少女によくわからないが、襲われた。
「どうする?」
リーシャは剣を納めると、俺の魔法で痺れて転がっている少女を見下ろす。
「テールに獣人族っているのか?」
「いるらしいわよ。といっても奴隷ね」
奴隷かー……
まあ、こいつの格好を見る限り、そんな気がしないでもない。
少女は安っぽいというか、ほぼ布だけの貫頭衣を着ており、ボロボロだ。
パニャの大森林に不時着した時の俺達といい勝負。
「奴隷がなんでこんなところにいるんだ? 何かのおつかいか?」
「さあ? 殺してもいいのかしら?」
うーん、わからん。
奴隷って、法律上は人権のない物扱いだし、殺したら所有者が文句を言うかもしれない。
普段なら攻撃してきた時点で問答無用なのだが、今はトラブルを避けたい時だ。
「どうかねー?」
「じゃあ、放っておく?」
「それはそれでどうなんだろう? 狼とかゴブリンに襲われたら痺れさせた俺のせいって言われないか?」
めんどくさいが、もし、こいつが奴隷商人の商品なら難癖をつけられることも考えられる。
「むしろ、慰謝料でも貰いにいく?」
「それはそれでめんどくさいなー……もういっそ、殺して埋めてしまうか。証拠隠滅」
「それね」
よし、そうしよう!
「いや、あの、話を聞いてみては?」
マリアが提案してきた。
「言葉が通じるのか?」
「さあ? リーシャ様は獣人族を見たことがあるっておっしゃってましたけど、どうなんです?」
マリアがリーシャに聞く。
「私が見たのはどこかの国の商人が荷物持ちにしてた奴隷の男ね。確か商人と話してたし、いけるんじゃない?」
やっぱり奴隷なのか。
「ふーん、じゃあ、起きるのを待つか。肉を食おうぜ。焦げるわ」
「あ、それもそうね」
俺達はとりあえず、獣人族を放っておき、焚火の前に戻る。
「並んで座るのはやめた方がいいな」
並んで座っていたから後ろからの奇襲に気付けなかった。
「それもそうね。3人で焚火を囲むように座りましょう」
「ですねー」
俺達は焚火を囲むように座る。
もっとも、倒れている獣人族の少女がいるので背を向けないようにしている。
「どれくらいで痺れが取れるんです?」
マリアが聞いてくる。
「とっさだったからたいして魔力を込めていない。すぐだよ…………」
俺がそう言うと、少女が動き出した。
しかし、さすがに早すぎる。
「…………すぐでしたねー」
少女はフラフラしているが、もう立ち上がった。
「獣人族って本当にすごいな……」
もうちょっと痺れてるはずなんだが……
少女はフラフラながらも立ち上がると、こちらを見た。
というか、見ているのは網の上の肉だ。
少女は羨ましそうにウサギ肉を見ている。
「もしかして、襲ってきた原因はこれ?」
リーシャが呆れたようにウサギ肉を見る。
「じゃないですかね。お腹が空いてそうな感じです」
「金は…………ないわな」
どう見てもない。
「ないでしょうね」
「どっかで見た光景です」
確かにちょっと前の狼肉を食べた俺らっぽくて、親近感がわく。
「食べるか?」
俺はフラフラの少女に聞いてみる。
「…………払えるものがない」
そんなもんは見ればわかる。
貫頭衣を着ているだけで何も持っていないし、裸足だ。
「貸しでいいぞ」
後でお前のご主人様にでも請求する。
「貸し……払えるかわからない」
「何でもいいよ」
「身体くらいしか……」
少女がそう言った瞬間、リーシャが剣の柄に手を伸ばした。
「人の夫に色目を使うとはいい度胸ね」
「やめろ……おい、そういうことを言う相手は選べ」
俺はリーシャを止めると、少女に忠告する。
女連れに言っていい言葉ではない。
「……だって、男が求めるのはいつもそれでしょ」
いや、一緒にすんな。
俺は栄えあるエーデルタルトの王子だぞ。
なんでこんなみすぼらしい女を抱かないといけないのだ。
「そういう言葉はそういうのを求めている男に言え。お前がリーシャに勝ってる点が一つでもあるか?」
俺がそう言うと、少女はいまだに剣の柄を握っているリーシャをチラッと見る。
すると、どんどんと表情が暗くなっていった。
「ロイドさん、言いすぎでは? あと、地味にこっちにもダメージが来てます」
あ、しまった。
「お前にはお前の良いところがある。リーシャにないものをたくさん持っている」
可愛らしいところとか、ほっとけないところとか、癒しの雰囲気とか……
「…………だから怖いんだけどね」
リーシャがポツリとつぶやく。
あー、めんどくせ。
嫉妬の塊とマリアへのフォローがきつい。
「お前のせいだ。何もいらんし、どうでもいいからさっさと食え。俺達も焼けたし、食べる」
俺はそう言って、網の上の肉を取る。
リーシャとマリアもまた、網の肉を取った。
俺達が焼けたウサギ肉を食べ始めると、少女は羨ましそうに眺めながら少しずつ、こちらに近づいてくる。
「猫みたいだな」
「多分、犬の獣人族だと思うけど、本当にそうね」
犬なんか……
言われてみれば、耳とか尻尾が犬っぽい。
「警戒心の高い犬はかわいくないぞ」
「素直に尻尾を振ればいいのにね」
ホント、ホント。
「ナチュラルに差別発言が出るところがすごいです……」
知らんわ。
少女は我慢ができなくなったようで俺達のもとに来ると、ウサギ肉を手で掴んで口に持っていった。
「ぐすっ……美味しい」
少女がウサギ肉を食べながら泣きだした。
「この程度の飯でか?」
「よっぽど貧しい生活をしてきたのね」
「奴隷にまでマウントを取らないでくださいよー……私達だって似たようなものだったじゃないですかー」
だから自分達より下を見つけて嬉しくなったんだよ。
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