第2章

第039話 野宿にも慣れてきた


 俺はエーデルタルト王の長男であるに関わらず、王太子を廃嫡されてしまった。

 そして、色々あって婚約者であるリーシャと学生時代の友人であるマリアと共に国を出た。

 しかし、飛空挺に乗っていた俺達は空賊に襲われ、敵国であるテールに不時着させられてしまった。

 しかも、不時着後も色々と事件があり、かなりの苦労をしたが、俺の知恵と魔法、そして、仲間の協力で困難を乗り越え、今度はテールを海路で脱出するためにアムールという港町に向かっているのだった。


「――ってな感じで、俺も冒険記を書こうと思っているんだけど、どう?」


 俺は日が落ちた夜に焚火に当たりながらリーシャとマリアに聞く。


「私の活躍は?」

「端折りすぎですー。特に国を出ることになった原因を書くべきですー」


 大事な仲間からダメ出しが飛んできた。


「うーん、文章って難しいな……」

「ロイドの放火や空賊事件は貴族絡みだから詳しいことが書けないのはわかるけど、単純に面白くないわ」


 やっぱりかー。

 ジャックって本当にすごいな。

 あと、リーシャの放火な。

 俺はちゃんと計算していた。


「殿下に文は無理だと思いますー。ロクに授業も聞いてなかったですし、幼い頃からの婚約者であるリーシャ様に文の一つも送ってないんでしょう?」


 なんで知ってる?

 いや、リーシャが愚痴ったか?


「マジで聞くんだが、いるのか? ほぼ毎日顔を合わせているというのに?」

「いりますよー。ふとした時に読み返すんです。そして、愛を再認識するんですよ!」


 マリアが楽しそうに言っているが、文を読み返すという感情すらわからない。

 だが、興味がなさそうなふりをして、何も言わずに焚火を見ているリーシャを見ると、いるっぽい。

 だって、こいつはいらないならいらないってはっきり言うし。

 でも、俺もリーシャから文とやらを貰ったことないんだけどなー。


「それはすまなかった。俺は文章が得意ではないからそういう発想に至らなかった。つまらんちっぽけな文章かもしれんが、今度書いてみよう」

「期待しないで待ってます」


 リーシャは抑揚のない声でそう言うが、頬が赤い。

 これは焚火のせいではないだろう。


「なんか寂しくなってきましたー……」


 マリアがぼやく。


「お前にも書いてやろうか?」

「何を書くんです?」

「ワイン、美味かったぞ」

「がっかりですけど、それはそれで大事ですよ。臣下は喜びます。少なくとも、ウチの父は泣いて喜ぶでしょう」


 マジか……

 送れば良かったな。


「ふーん、覚えておこう」


 まあ、俺が王になることはないだろうが、感謝を伝える手紙というのは有効そうだ。


「それが良いと思います。それよりも殿下、明日にはアムールの町に着くんですよね?」


 マリアが話を変える。


「多分な。前に見た地図の感じだと、明日には着くだろう」


 俺達はジャックと別れた後、何日も歩いていた。

 かなりきついと思うが、ヒーラーであるマリアのおかげでそこまでの苦労はない。


「港町でしたよね?」

「そうだな。そこで船を奪い、この国とおさらばだ」


 テール王国は俺らのエーデルタルトとは敵対しているため、さっさと出る必要がある。


「やっぱり奪うんですか?」

「それしかないだろ」


 ジャックが言うには国外への便がないらしいし。


「殿下達がやってることって空賊や海賊と同じですよ……」


 安心したまえ。

 今度からはお前もその賊の仲間入りだ。


「テールだぞ。どうでもいいだろ」

「まあ、そうですけど……」


 マリアは貴族のくせにすぐ良い子ぶるな。

 平民からの聖女呼ばわりを気に入っているし、そういう年頃なんだろう。


「アムールに着いたらどうするの?」


 顔色を普通の状態に戻したリーシャが聞いてくる。


「まずは調査だな。ギルドに行って、仕事をしながら探ろう」

「そうね。冒険者が仕事をしないと怪しまれるだろうし、町の仕事なんかをすると良いかも」


 金も入って調査ができるのは一石二鳥だ。


「だな」

「私は早く宿で休みたいです。ベッドが良いです」


 俺達はここ数日は当然、野宿なため、テントで寝ている。

 狭いテントの中に3人だ。

 未婚のマリアは俺と一緒が辛いだろう。


「初日は贅沢をしよう」

「そうね」

「やったー」


 金がそんなにあるわけではないが、贅沢な暮らしをしていた俺達はこういうご褒美がないと続かないのだ。


「じゃあ、今日は早めに寝るか」

「そうしましょう」

「もう殿下との同衾にも慣れてきましたよ」


 リーシャを挟んでいるから同衾じゃないって言うに……


 俺達は焚火を消すと、テントの中に入り、就寝することにした。


 翌朝、俺はまだ寝ている2人を寝かしたままにし、テントを出た。

 そして、昨日の夜に仕掛けた罠のもとに行ってみる。

 すると、俺が置いておいた紙の上に倒れているウサギを発見した。


「おー、かかってるわー」


 俺はその場でナイフを使い、ウサギの首を切ると、足を持って、血抜きをする。


「何が悲しくて王族がこんなことをしないといけないのかねー……」


 とはいえ、リーシャとマリアにやらせるわけにはいかない。


「まあ、いいか……」


 俺は罠である紙を拾うと、カバンにしまい、テントまで戻ることにする。

 テントまで戻ると、リーシャとマリアはすでに起きており、並んで焚火の火に当たっていた。

 なお、リーシャは眠そうだ。


「あ、殿下、ウサギが獲れたんですね」


 マリアが俺が持っているウサギを見て、嬉しそうに言う。


「まあな。俺の罠はすごいわ」


 俺はリリスの町で罠を買おうと思っていたのだが、買うのをやめ、自前で作ることにした。

 ジャックは罠を作るのは絶対に失敗するからやめろと言っていたが、俺には魔法がある。

 罠なんかはそんなに難しいことを考えなくても単純にマヒ系の魔法の護符の上にウサギの餌を置くだけでいいのだ。

 それでウサギが簡単に獲れる。


 なお、昨日はそのウサギの横に狼も倒れていた。

 多分、気絶しているウサギを食べようとして罠にかかったんだと思う。

 もちろん、狼はもう食べたくないのでスルーした。


「すごいですねー」

「エーデルタルト一の魔術師だから」


 俺はちょっと得意げになりながらリーシャの隣に座ると、ウサギを適当に解体し、焚火の上に乗せた網に乗せ、塩胡椒をかけた。


「いつも悪いわねー……」


 リーシャが眠そうな顔で言ってくる。


「別にいい」


 マリアはビビって捌けないだろうし、リーシャはそもそも起きてこない。

 だから俺がやるしかない。


 俺達が焚火の上のウサギ肉をじーっと見ていると、徐々にいい匂いがしだした。

 そうこうしていると、リーシャも目が冴えてきたらしく、キッチリとしだす。


「ワインが欲しいわね」

「さすがに無理だ」


 持ってないし、これから歩くっていうのに朝からワインはない。


「でも、パンは欲しいですー。今度から買っておきましょうよ。その魔法のカバンに入ると思います」


 確かにマリアが言うようにパンは欲しいかもしれない。


「まあ、確かにパンがあると…………」


 リーシャがしゃべるのを途中でやめた。


「どうした?」

「リーシャ様?」


 俺とマリアが間にいるリーシャに聞くと、リーシャが突然、剣を持って立ち上がった。

 そして、後ろを振り向き、剣を振り抜く。

 すると、後ろに人影が見えたのだが、その人影が宙に飛んだ。


「くっ! 速い!」


 自分の一撃を躱されたリーシャが悔しそうに人影を見上げたので、俺もその人影を見上げる。

 そして、指をその人影に向けた。


「パライズ」


 俺はウサギを捕らえる罠と同じ魔法を飛んでいる人影にかけた。

 すると、人影は地面に着地すると同時にそのままコテンと転がる。


 俺達は転がって痺れている人間のもとに向かう。


「珍しいものを見たわね」

「私は初めてです」

「俺も初めてだ」


 転がっていたのは俺達よりちょっと下くらいの年齢の少女だった。

 そして、獣っぽい耳をしており、お尻付近には尻尾が見えていた。


 こいつは獣人族である。

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