第117話 ヨーホーホー


 俺達は叔母上を先頭に船を降りると、桟橋を歩く。


「叔母上、兵士は全員裏切者でいいんですか?」

「そうなる。面白いもので今回の調査の兵の大半が以前、トラヴィス様と一緒に行った奴らだ」


 船に残っていた奴らか……


「トラヴィス殿と一緒に亡くなった者は?」

「そいつらは全員シロ。わかりやすいだろ」


 確かに……


「ブランドンって、強いんですが、詰めが甘いというか、アホですね」

「優秀なことには間違いないんだが、自分に自信を持ちすぎだな。そういうのは大抵、失敗する」


 あんたのことじゃん。

 あ、だから旦那選びに…………いや、何も言うまい。

 トラヴィス殿は最後は変わったんだ。


 俺達はベースキャンプ跡地を抜けると、森に入った。

 森には伐採された跡があり、道ができていた。


「道ですね」

「サハギン狩りと嘘をついて作ったものだろ」

「嘘なんですか?」


 俺達も結構な数を倒したんだが……


「実際、サハギンは大量にいたんだろうが、とっくの前に討伐してるだろう。要はこの状況を作るために時間稼ぎだよ」


 俺達は道を歩いていく。


「俺達をここに残して餓死させる気ですかね?」

「そうだろうな。船は完全に動けないようにしてあったし、この島の周辺には何もない。私達がここを脱出できるとは思っていないんだろうよ」

「襲撃は危険と判断して、ここに残したわけですか…………」

「だな…………ほら、見ろ」


 叔母上がそう言って指差した方向は砂浜の海岸があり、そこには新しめの桟橋が作られていた。


 俺達は森を抜けると、桟橋まで近づく。


「これを作ってたわけですか…………ということは、ここに別の船が来たってことですね」

「そうだろうな。多分、私達が隠れ家に行っている時だろう。そして、夜のうちに準備をして、朝には出航かな?」


 そんなところかね?


「俺なら船を燃やすんだがなー」

「お前の魔術師としての腕が未知数だったからやめたんだろ」

「ふーん、慎重なのか大胆なのか……」


 俺なら多少、危険でも殺しておくけどな。


「さて、聞き残したことはないか?」


 叔母上が聞いてくる。


「王家の宝剣は?」

「ブランドンが持っている」

「偽物でしょ」

「よくわかったな」


 さすがにね……


「あっさり渡したんでねー。多分、どっかですり替えたんだろうなって」

「その通りだ。だが、どこですり替えたのかはわからんだろ?」


 確かにわからない。

 叔母上の動きに変なところはなかった。


「どうやったんです?」

「答えはお前の正室と側室が知っている」


 俺はそう言われて、リーシャとマリアを見る。


「あなたがブランドンを呼びにいっている時にアシュリー様がここで待ってろって言って、通路の奥に行かれたわ」

「ですね。あっという間でした」


 あの時に宝物庫に行っていたのか…………


「ん? でも、鍵は? 錠前が付いていましたよね?」

「そんなもんは焼き切ったわ。私はフレイムソードだけでなく、フレイムナイフも使えるんだ」


 叔母上が人差し指を上に向けると、短いナイフ程度の炎の棒が現れる。


「あー、だからあんな派手な魔法で大げさに扉ごと焼き切ったんですね」


 あの錠前はすでに焼き切った後だったんだ。

 それを付いているように見せているだけ。

 怪しまれる前に錠前ごと扉を焼き切り、誤魔化したのか…………


「うむ……」

「下手くそだったわけではなかったんですね?」

「うん…………いや、あれは失敗だった。本当に錠前を切るだけで扉を切るつもりはなかった」


 やっぱ下手くそだったようだ。


「偽物の剣は?」

「王家にもらった。レプリカを作る際の失敗作だそうだ」


 いっぱいありそうだな。


「ふーん、なるほどねー」

「他に聞きたいことは?」

「じゃあ…………これからどうするんです?」

「うん、そうだな。では、船に戻ろうか」


 叔母上は俺の質問には答えずに森に戻っていく。

 俺はリーシャとマリアと顔を見合わせると、黙って叔母上についていくことにした。

 そして、来た道を引き返し、森を抜けると、ベースキャンプ跡地まで戻ってきた。


 俺はベースキャンプの先にある桟橋を見る。

 そこには俺達が乗ってきた軍船の他に豪華な大型船が停泊していた。


「見ろ、ロイド! あれこそが世界最高の船だ!」


 叔母上が嬉しそうに豪華な大型船を指差す。


「アシュリー号ですねー」


 エーデルタルト国民の血税を無駄に注いだ豪華客船だ。


「私だって単身でこんなところには来ない。ちゃんと援軍を用意してある」


 せめて軍船にしろよ…………

 しかも、漂流した船だから縁起が悪いわ。


 俺は別の船が良いなーと思いながら叔母上達と共にアシュリー号に向かって歩いていく。

 すると、アシュリー号から見覚えのある男が降りてきた。


「船長、お待たせしました」


 こいつは…………アンソニーだ。

 俺達が漂流してた時に叔母上と共に海賊船に乗っていた乗組員だ。


「問題ない。そっちの船に遺体が乗っているから使える荷物と共に船に乗せろ。終わり次第、出航する」

「わかりましたー。船長は船に乗ってください…………おーい! 積み荷を運び入れるぞー!」


 アンソニーがアシュリー号に向かって叫ぶと、乗組員が続々と降りてきて、俺達が乗ってきた船に乗り込んでいく。


「なんか海賊みたいですね」

「乗組員はこの前の海賊船のメンバーとほぼ一緒だ」


 叔母上がそう言うと、荒くれ者恐怖症のマリアが俺に引っ付いてくる。

 俺はそんなマリアの肩に手を回した。


「豪華客船を海賊船にしないでくださいよ」

「いいから乗れ」


 エーデルタルト国民の血税が他国で海賊船になっているって陛下が知ったら倒れるんじゃねーかな?

 …………リークしようかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る