第116話 真相
トラヴィス殿はクズだったらしい。
「どんな感じだったんです?」
「トラヴィス様は元々、王都の遊び人だ」
「どういうこと?」
意味わからん。
「トラヴィス様は次男でな。本当は長男がウチの領地を継ぐはずだった。だが、その長男と先代が乗った船が嵐で沈んだんだ。そうなると、必然的にトラヴィス様が跡を継ぐことになる。だが、トラヴィス様は親のすねをかじって王都で好き勝手してきた人間だ。あんな田舎を継ぐのはそれはそれは嫌々だったらしい」
まあ、わからんでもない。
「でも、しゃーないでしょ」
「そうだな。だからトラヴィス様は政治には一切、関わらず、仕事を部下に任せ、遊んでいたそうだ」
ダメな当主だなー。
「典型的なダメ当主ですね」
「だな。それでそうこうしているうちに私と出会った」
「遭難してたところを助けられたんでしたね」
「そうだ。そして、私とトラヴィス様は結ばれたわけだが、結婚してもトラヴィス様はまったく変わらんかった」
えー、そこは愛で改心してよ。
「ダメでしたかー」
「ああ、ダメだった。私は何度も苦言を呈した。だが、仕事はしないわ、浮気はするわ、ひどい時は王都に逃げた時もあった」
本当に貴族失格だなー。
「ひどい男に捕まりましたね」
「ああ、何度もそう思ったし、トラヴィス様を殺して自害しようと思った」
それはやめて。
「でも、真面目になったんですよね?」
「そうだ。きっかけは私が妊娠したことだ」
「クリフですか?」
「ああ、長男のクリフの時だ。私が妊娠したことを知ったトラヴィス様は急に人が変わった。普通に家に帰るようになったし、仕事もしだした」
父性にでも目覚めたか?
「すごいですね」
「ああ、すごかった。急に優しくなるし、私に気を使い始めた。そして、クリフが生まれると、本格的に仕事に関わるようになった。立派な父親になりたいんだそうだ」
変わりすぎ。
「へー、人は変わるもんですねー」
「ホントな。ものすごく愛してくれたし、頑張ってくれた。そして、トラヴィス様は隣の領地のことを知ったわけだ」
「それって、仕事をしだしたら自分の領地がお隣さんの裏切りに関わっていることを知ったパターンでしょ」
「トラヴィス様は何も教えてくれなかったが、そうだと思う。実際、武官、文官問わずに何人か死んだし」
確定だろ。
トラヴィス殿がもみ消したんだ。
「なんとなくわかりました。裏切りが露見したのはトラヴィス殿が王家にチクったんですね。自分は関係ないですよーっていう顔をしながら」
「そうだろうな。そして、王家と組んで隣の領地を滅ぼしたわけだ。その功績でウチはその領地を吸収したわけだろう」
遊び人だった男が貴族らしく、したたかになったんだな。
「もうすべてがわかりました。それでスカルの隠れ家を見つけ、調査をしたが、自分のところに粛清漏れがいたわけですね」
隣の領地と繋がっていた奴が他にもいたんだ。
「そうだ」
「それがブランドン」
「ああ。ブランドンはトラヴィス様の副官として調査に出向いたが、トラヴィス様が罠で死んだと報告してきた。だが、私はすぐに嘘とわかった」
「何故です?」
あいつ、またミスをしたか?
「報告では先頭を歩いていたトラヴィス様の頭上から毒ガスが噴き出し、なすすべもなかったと言われた。だが、つい最近まで遊び人だったトラヴィス様が先頭を歩くわけがない。あの方は魔法も剣も使えるが、実戦経験が乏しく、非常に憶病なんだ」
「なるほど。しかし、よくブランドンを1年も放っておきましたね」
俺ならその場で殺す。
「自分の領地の人間にどれだけの裏切者がいるかがわからなかったんだ。ブランドンを討っても、別の人間が何かをするかもしれない。私にはまだクリフとヘレナがいる。何としてでも守らないといけない私とトラヴィス様の子供だ」
6歳と4歳では自分で自分の身は守れないか。
「それで時間をかけて裏切者をあぶり出したわけですね?」
「そうだ。私にはエーデルタルトから仕えてくれる部下がいる。そいつらを使って、王家と秘密裏に組んで徹底的に調査をした。それにかかったのが1年なんだよ」
かかったなー……
1年間、悔しかっただろうに……
「なるほど。ブランドンと兵士達以外の裏切者は?」
「私達が船を出したと同時に捕縛するように指示を出している。今頃は首を晒しているだろう」
「もう殺したんですか? 王家に引き渡すべきでは?」
「トラヴィス様を裏切った奴らは絶対に許さん。本来なら私が燃やし尽くしてやるところだ」
さすがにそれは皆に止められたか……
王族がやることではない。
「叔母上、俺達と合流しなかったらブランドン達と刺し違える気でしたね?」
「そうだ。私はこの調査でブランドンをこの手で殺すつもりだった。だが、ブランドンは強敵だ」
強かったもんなー。
剣と魔法のハイブリットはずるいわ。
「俺達が漂流してて良かったですね」
「そうだな。私がブランドンを殺そうと思っていると同時に、向こうも私をここで殺すつもりだったからな」
ブランドンにとっては邪魔で仕方がないだろうからな。
それに叔母上が死ねば、残っているのは6歳と4歳の子供だし、どうとでもなる。
「でしょうねー」
「ああ。だが、お前達の登場であいつは無理ができなくなった」
「そう動きましたからね。それに叔母上が素直に王家の宝剣を渡しました」
叔母上は王家の宝剣を倉庫に入れておけと言ってブランドンに渡していた。
「私が持っていると、宝剣を奪うために夜に奇襲をかけてくるだろ。私はともかく、お前達を危険な目に遭わせることはできん。残された者は本当にきついんだぞ」
叔母上が言うと、重いな。
「それはどうも」
「さて、お前達、ついてこい」
叔母上はそう言うと、立ち上がる。
「どこに行くんです?」
「外の確認だ」
叔母上がそう言って部屋を出ていこうとしたので俺達も立ち上がり、叔母上のあとを追った。
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