第148話 異国の難しさ


 コンラート王子に会うことが叶わなかった俺達は宿屋に戻り、休むことにした。


「居留守と体調不良の合わせ技でしたねー」


 マリアがお茶を淹れながら宰相が言っていた言い訳について話す。


「まあ、それが一番だからな。両国の国力差から考えて無下にはできんし」


 このジャスとエーデルタルトでは国力が段違いだ。

 アポなしで来た俺が問題なのにあそこまで下手に出てたのはそういう理由である。


「でも、よく殿下が本物だって信じましたよね」

「それな。あの宰相、最初にリーシャを見ただろ。それで確信したんだ」

「あー、リーシャ様を知らない生徒はいませんもんね。男子ならなおさらです」


 絶世のリーシャ様だもん。

 そして、当然、コンラートはその絶世が誰の婚約者なのかも知っている。


「コンラートから聞いたんだわな。城にいるのがもろわかり」

「まあ、いるでしょうねー。手紙を宰相さんに渡さなくてよかったんですか?」

「絶対に中身をチェックするだろうからな。隣国の王女から婚約者がいる王子への手紙だぞ。大問題になるわ」


 宰相ならなおさらだろう。


「ロイド、どこまで付き合うつもり?」


 リーシャが聞いてくる。


「そこなんだよなー。手紙をラウラに託して、はい終わりで済むと思うか?」

「微妙ね。宰相様は送ってくださるとおっしゃっていたけど、あの魔術師が動くでしょうし、そうなると国際問題になるかもね」

「だよなー」

「どういうことです?」


 マリアが俺達の前にお茶を置きながら聞いてきた。


「襲撃されるだろ? 送ってくれる兵士と責任者の貴族が死ぬだろ? でも、俺達は強いから生き残るだろ? 俺らのせいにされる」

「あー、そうなっちゃうとマズいですね。下手をすると、国から召喚命令ですね。さすがに私達の居場所がバレるでしょうし」


 間違いなく、ジャス王はエーデルタルトに苦情の使者を送るだろう。

 そうすれば俺達がウォルターにいることがバレる。

 伯父上は庇ってくれるだろうが、どこまで庇えるもんやら……


「まあ、手紙を渡すとこまではやってやる。あとは知らん」

「ラウラさんに任せますか?」

「うーん……」


 あの婆さんがどこまでやれるのかがわからん。

 魔法はすごいんだが、ヨボヨボの婆さんだしなー。


「まあ、ラウラに話を聞いてからかな」

「ですかー……じゃあ、ゆっくりしましょう」

「そうするか」


 俺達は休むことにし、お茶を楽しみながらこれまでの馬車の旅の疲れを取ることにした。

 そのまま休んでいると、次第に暗くなっていき、夕食となった。

 そして、夕食を食べ終えると、婆さんが俺達の部屋を訪ねてきた。


「さすがに疲れたよ……」


 婆さんは椅子に座り、マリアが淹れたお茶を飲みながらしみじみとつぶやく。


「新人指導だっけ?」

「そうだよ。いやー、若い奴らは元気だね。しかも、老人の言うことを聞きやしない」


 まあ、聞かんだろうな。


「よくやるねー」

「少しでもいいから冒険者稼業に関わっていたいんだよ。身寄りのないババアは寂しいんだ」

「結婚しなかったのか?」

「興味がなくてねー。男とイチャイチャするより仲間と冒険していた方が楽しかった。それに私に釣り合う男はそんなにいなかったよ」


 まあ、昔は美人だったんだろうし、言い寄る男は多かったんだろう。


「お前に釣り合う男がいるのか?」

「お前さん、モテそうだね」

「見りゃわかんだろ。女を2人も連れてんだぞ」

「いいご身分だ。私に釣り合う男はそりゃいたさ。かつての仲間達さ」


 ハードル高そう……


「ジャックはどうだ? あいつ、独身だろ」

「私もだし、向こうも嫌だろうよ……そんなことより、どうだった?」


 婆さんが話を止め、成果を聞いてくる。


「予想通りダメ。王子様は巡遊中らしい」

「巡遊? 実際のところは?」

「城にいるな。こんな時に俺達とは会いたくないんだろうよ。正直に言うが、俺は学校では黒魔術をやっている黒王子と言われていた」


 王太子なのに!


「黒魔術って……何をしているんだい…………まあ、そんな王子とは会いたくないか」


 絶対に嫌だろう。

 ましてや、傲慢でも有名なのに。


「でも、宰相には会えたな」

「宰相が出たってことはあんたらを本物と断定したわけだね」

「白々しい。ギルド経由でバラしただろ」

「あー、嫌だ嫌だ。だからこういう仕事には関わりたくないんだ」


 婆さんが嫌そうな顔をする。


「門番は下手に出る、いきなり宰相、しかも、宰相は俺達が今日来たことを知っている。あの賊が伝えたんだろ?」

「そうだよ。一応、言っておくけど、あいつがギルマスさ」


 嫌なギルドだなー。


「ギルドはすぐに俺達をバラすよな」

「問題を起こさないようにあらかじめ動いているんだよ。門番が剣を突きつけたら殺すだろ」

「殺しはせんよ。俺に向けるだけだったらな」


 リーシャとマリアに向けたら殺す。


「あんたらは怖いんだよ。男女共に愛情が深すぎて何をするかわからない」


 そういうこと言うな。


「夫が妻を守り、妻が男を支える。当たり前のことだろう」

「エーデルタルトは極端で血生臭いんだよ。この国やエイミルとは相性が悪すぎる」


 ホント、異文化って難しいよなー。


「前にジャックから聞いた『違う考え方の奴を極力、否定はするな。それが旅のやり方』っていうのが本当にそうなんだなーっ思うわ」

「それは本当にそうだよ。あんたらは間違っても南の島国には近づくなよ」

「ヤリまくりの国か?」


 それもジャックに聞いたことがある。

 たくさんの子孫を残すために男女共に色んな人間とヤるってやつ。


「そうだよ。私もびっくりした。多分、あんたらが行ったら吐き気がすると思うよ」


 婆さんはそう言いながらリーシャとマリアを見る。


「すでに売女王女でしているわ」


 売女王女って……

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