第147話 こんにちはー


 俺達は宝石を売った後、町の中央にある城まで来ていた。


「行くか」

「そうね。さっさと終わらせましょう」


 俺達は城の門の前に立っている兵士のもとに行く。


「ちょっといいか?」


 俺は門の前まで行くと、兵士に声をかけた。


「何でしょう? 道に迷われたのですか?」


 ホント、平和な国だわ。

 ウチの国だったら城に近づいただけで槍か剣を突きつけるぞ。


「コンラート王子はおられるだろうか? 俺はエーデルタルト王国の第一王子であるロイド・ロンズデールだ。この度、この国に寄ったので挨拶をと思ってな」

「は、はい?」


 兵士が困惑する。


「だからエーデルタルトのロイドだ。コンラート殿が我が国に留学していた時は同じ学校に通っていた。その縁もあるし、挨拶くらいはしておこうと思ったのだ」

「えっと……何も聞いていないのですか……」


 そりゃそうだろ。


「アポは取ってない。ウォルターに行く道中なのだが、そういえば、同じ学校だったなと思い出したから寄っただけだ」

「しょ、少々お待ちください!」


 兵士は敬礼をすると、慌てて、城の中に入っていった。


「門番がいなくなったぞー」

「平和ねー」

「というか、門番が一人しかいないってすごいですね」


 普通は2人体制だろう。


「会えるかしら?」

「体調が優れないに一票」

「居留守ですよー」

「まあ、そのどっちかでしょうね」


 俺達がそのまま待ってると、兵士が腹の出た太ったおっさんと共に戻ってきた。

 おっさんはリーシャをチラッと見た後に俺に向かって頭を下げる。


「お初にお目にかかります。私はこの国の宰相を務めておりますルードルフ・バルテンと申します。エーデルタルトのロイド王子と聞きましたが、まことでしょうか?」


 いきなり宰相が出てきちゃった。


「そうだ。エーデルタルト王国の第一王子であるロイド・ロンズデールである」

「このような遠方の地へはるばる来訪いただき、誠に感謝します。しかし、何故、この地に?」

「ウォルターに行く途中だ。ウォルターのウィンストン王は俺の伯父に当たり、この度、後ろの2人と結婚するので挨拶に向かうのだ」

「挨拶ですか? わざわざ?」


 普通は手紙で済ます。

 ましてや、第一王子がわざわざ訪ねるなんてことはしない。

 伯父上もどうせ、式には来てくれるだろうし。


「伯父には散々世話になったしな。それに水の都で式を挙げる」

「自国でなさらないのですか?」

「自国でもする…………女はうるさいんだ」


 最後だけ小声で言う。


「なるほど。それでわざわざここまで来られたんですね……護衛はいないのです?」

「そんなもんはいらん。邪魔なだけだ」

「しかし、危ないですよ?」

「何も問題はない。それにだ、実は国を勝手に出てきた」


 嘘はついていない。


「勝手にって…………さすがにマズいですぞ」

「なーに、お前らに迷惑はかけん」

「そ、そうですか……」


 顔にすでに迷惑って書いてあるな。


「それでコンラート殿はおられるかな? 挨拶くらいはすべきかと思ったのだが……」

「申し訳ございません。王子は国を巡遊中であり、王都にはいないのです」


 居留守を使ったか。

 しかし、わかりやすいなー。

 この状況で王太子が王都を空けるわけないのに。


「そうか……それは残念だな。せっかくの機会だと思ったのだが……」

「お待ちになりますか? 歓迎いたしますぞ」


 じゃあ、待つって言ったら困るくせに。


「いや、早めにウォルターに向かいたいからな。王子が戻ったらよろしく伝えてもらえるか?」

「かしこまりました。必ずや伝えましょう」

「ああ、それと国王陛下に勝手に国に入ったことを詫びておいてくれ。あー、いや待て。直接の方が良いか」


 俺がそう言うと、おっさんの頬に汗が伝った。


「実は陛下は体調を崩されておりましてな」


 他国の王族と会えないレベルで体調を崩しているのに王太子は巡遊しているらしい。


「そうか……では、やめておこう。詫びを伝えておいてくれ」

「かしこまりました……ロイド王子、ウォルターに向かわれると聞きましたが、馬車か何かをお使いに?」

「いや、歩きだ。実は冒険者になってな。冒険中なんだ」

「おー、冒険者ですか」


 絶対に冒険者ごっこをするアホ王子って思われたな。


「楽しいぞ。あのAランクのジャック・ヤッホイに会った。それにBランクのラウラにも会えた」

「ジャック殿にラウラ殿ですか。それは貴重な体験ですな」


 知ってるんだな。

 まあ、ジャックは有名だし、ラウラはこの辺で活動しているから知っているか。


「そうだな。まあ、何を隠そう、実はラウラにここまで連れて来てもらったのだ。色んな話が聞けて良かったわ」


 自分でも思う。

 俺、アホ王子だな。


「ラウラ殿は博識ですからなー」

「まあ、そういうわけで歩きだ。この国は平和だし、気長に行くさ」

「そういうのも良いでしょうな。ですが、奥様方が辛いのでは? もしよろしければ、我が国とアダムとの国境までお送り致しましょう」


 はよ、出ていけって聞こえるな。


「それは良いな! しかし、少し待ってくれ」

「何か御用でも? あ、いや、着いたばかりでしたな。少し休まれた方が良いでしょう」


 着いたばかりとは言ってないぞー。


「いや、休みはいらんが、カジノとやらに行きたい」

「おー! ぜひ、いらしてください」

「うむ。楽しませてもらおう。そういうわけでカジノで社会勉強をしてから発つ」


 いやー、道楽のバカ王子だわー。


「わかりました。出発の際はお声がけしてください。国境までお送り致します」

「うむ。では、頼む。わざわざすまんな」

「いえいえ! 栄えあるエーデルタルトのロイド王子のためです。何もない小国ですが、このくらいは致します」


 歓迎のパーティーをしてくれー。

 城に入れてくれー。


「そうか。この恩はけっして忘れんからな。くれぐれもコンラート殿と国王陛下によろしく伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

「うむ。では、失礼する」


 俺はそう言うと、リーシャとマリアを連れて、この場をあとにした。

 もちろん、王女から預かった手紙を渡すことはなかった。

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