第211話 刺客
俺はシルヴィを連れて伯父上に寝室までやってくると、扉をノックする。
『誰だ?』
扉の向こうからヒラリーの声が聞こえてくる。
「俺、俺。毎日、伯母上に嫌味を言われているロイド」
毎日、夕食を共にしているのだが、結婚式のことで嫌味ばっかり言われていた。
『あれはお前が悪い……入っていいぞ』
俺は入室の許可を得たのでドアノブを握り、部屋に入ろうとする。
すると、背後から魔力を感じたため、振り向いた。
後ろを振り向くと、俺の背後にいたはずのシルヴィの姿が見当たらない。
俺はまたもや魔力を感じたため、下を見た。
すると、俺の影から女の手だけが生えており、サムズアップしていた。
こいつ、こんなこともできるのか……
俺は器用な奴だなーと思いながらも扉を開けて、部屋に入る。
部屋の中にはベッドで横になっている伯父上とその横で立っているヒラリー、そして、医者はいなかったが、メイドが2人控えていた。
「伯父上、体調はどうですか?」
俺は伯父上に近づきながら聞く。
「問題ない。問題ないのにまだベッド生活だ。あのジジイめ……」
伯父上が悪態をつく。
「長い間、病だったのだから仕方がないでしょう。お医者様の言うことは聞かないといけません」
「よく言うわ。自分だったら絶対に聞かんくせに」
うん。
無視する。
「まあ、それだけ元気なら問題ないでしょう」
食欲もかなり戻っていると聞いている。
戻りすぎて、医者と伯母上が止めているくらいだ。
「せめて、酒くらいは飲みたいわ…………それで何か用か?」
「ええ。実は伯父上を呪った犯人がわかりました」
「何!? 本当か!?」
「はい」
俺は頷くと、メイドの2人を見る。
すると、2人はよくわかってなさそうな顔で俺を見返してきた。
わからん……
「……シルヴィ、どっちだ?」
俺が下を向いて確認すると、俺の両足の間からシルヴィが顔だけを出す。
「なっ!?」
「なんだそれ!?」
顔だけ出したシルヴィを見て、伯父上とヒラリーが驚く。
なお、俺も驚いている。
というか、俺の足元にシルヴィの生首があるみたいだからやめて欲しい。
俺が呆れていると、左のメイドがわずかに動いた。
「素人め……あれです」
顔だけのシルヴィがニヤリと笑う。
ものすごく不気味だ。
「おのれ、シルヴィア! 裏切ったか!?」
左のメイドが鬼の形相で怒鳴ると、ナイフを取り出した。
「裏切る? 私は最初から神なんて信じていませんよ? 私が信じるのは栄光と高潔、そして、己の力のみ」
うむ。
実に同意見だ。
「くっ! こうなったらお前だけでも死ね! バカ王子!」
メイドがナイフを構えて、何故か俺に突っ込んでくる。
「バカはお前だ」
俺は突っ込んでくるメイドに向かって手を向けた。
しかし、俺が魔法を出す前に床からシルヴィが飛び出し、俺の前に現れる。
「眠るがいい」
俺の前に現れたシルヴィが魔法を使うと、メイドは糸が切れた人形のように倒れ、そのまま動かなくなった。
「旦那様、国王陛下の寝室でボヤを起こそうとするのはやめてください。スマートに行きましょう」
シルヴィが呆れたように俺を見てきた。
「火魔法はマズかったか……殺したのか?」
俺は倒れて動かないメイドを見ながら聞く。
「生かしてますよ。たいした情報は持っていないでしょうがね……」
まあ、所詮は下っ端だろう。
「ロイド、一体、何があった? そして、その者は何者だ?」
伯父上がシルヴィを指差しながら聞いてきた。
「ただの侍女です」
「殿下専用のシロウトメイドですね」
いかがわしい言い方をするな。
「それよりも伯父上。この者は教国からの刺客です」
「教国か……詳しく話せ」
「お待ち下さい、陛下。陛下はまだ病み上がりですし、ここは私にお任せを」
ヒラリーが一歩前に出て、伯父上を止める。
「そうだな……わかった。お前に任せる」
「はっ! 衛兵!」
ヒラリーが叫ぶと、すぐに数人の兵士が部屋に入ってきた。
「何でしょうか?」
「この者は陛下に害をなそうとした大罪人だ。捕らえろ。それとこの者の部屋を捜索せよ!」
「はっ!」
ヒラリーが指示を出すと、兵士達は倒れているメイドを連れて、部屋から出ていった。
「ロイド、私の部屋に来い」
俺達はヒラリーに言われて伯父上の寝室をあとにすると、ヒラリーの執務室に向かう。
そして、執務室に来ると、ソファーに腰かけ、ヒラリーと顔を合わせた。
「さっきの話の詳細を聞きたい。まず、お前は誰だ?」
ヒラリーがシルヴィを見る。
「ロイド殿下のメイドです」
「こいつはエイミル、ジャスで離間の策を企ていた教国の間者だな」
俺はシルヴィを無視して、説明した。
「敵か?」
「いや、敵じゃないっぽい」
俺がそう言うと、シルヴィがうんうんと頷く。
「さっきの話を聞くと、敵にしか聞こえんが?」
「本人が敵じゃないって言ってるし」
「いや、敵味方関係なく、間者はそう言うだろ」
まあね。
「シルヴィ、お前は味方だよな?」
「もちろんです」
シルヴィが深く頷いた。
「ほら、こう言っている」
「…………お前、そいつにやけに甘くないか?」
「いや、別に」
全然、甘くない。
「うーん、まあ、お前がそう言うなら勝手にすればいいが……」
「そうする。お前は俺を裏切らないよなー?」
俺はシルヴィの肩をポンポンと叩く。
「はい…………こわっ。裏切ったら殺す気だ」
「当たり前だろ。俺に逆らう者は火刑だ」
焼け死ね。
「うーん、熱いのは嫌だから裏切りませーん」
しかし、こいつのこのしゃべり方はどうにかならんかね?
いつまでカトリナのマネをしているんだろう?
まあ、本物のカトリナを知らないんだけど……
「シルヴィ、お前の目的はなんだ? そして、何を知っている?」
俺はこいつの目的を聞いていなかったので聞いてみる。
「目的は旦那様を教国に連れていくことですね。知っていることもそこでわかります」
教国に?
「めんどくさいんだが……」
しかも、あんなところなんて行きたくない。
「行かないと後悔するかもしれませんよ? ほら、カジノで遊んでないでさっさとウォルターに行くべきって言ったのも合ってたじゃないですか?」
まあなー。
「俺、式を挙げないといけないんだよ」
「それはすべきです。そろそろあのあたおか女が根に持ち始める頃ですから。女は死ぬまで覚えていますよ…………まあ、あと数日で巫女さんも戻ってきますし、さっさと式を挙げてください」
あれ?
早いな……
「ふーん、式を挙げたら教国へ行けって?」
「案内しましょう。殿下は行かなければなりません。そして、自分が何故、廃嫡になったのかを知りましょう」
なんで俺が廃嫡になった理由が教国でわかるんだろうか?
「じゃあ、まあ……行くか……」
「行くのか? 私は反対だぞ」
当然、ヒラリーが止めてくる。
「でも、俺、狙われてるし……ミレーでも刺客に襲われたし、さっきも俺をバカ王子って名指しで襲ってきただろ。先手を打ってこちらから首謀者を殺しにいこうと思う」
「そうするべきです! エーデルタルトの敵は皆殺しにしましょう!」
シルヴィ……
だから隠せ……
――――――――――――
ここまでが第5章となります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
引き続き、第6章もよろしくお願いいたします。
本作はありがたいことにコミカライズすることになり、カドコミとニコニコで配信されております。
https://kakuyomu.jp/users/syokichi/news/16818093086033831277
これもひとえに皆様の応援のおかげです。
小説だけでなく、コミカライズの方も楽しんで頂き、私だけでなく、漫画家さんも応援して頂けると、幸いです。
これからも本作をよろしくお願いいたします。
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