第6章

第212話 自分のは知ってるぞ!


 俺の伯父であるウォルター王に呪いをかけていたのは教国の人間だった。

 しかも、俺がミレーに行った際に遭遇した奴隷狩りのレナルド・アーネットも教国の刺客。

 もっと言えば、この場にいるシルヴィはエイミル、ジャスの離間を企ていた教国の間者だ。

 ありとあらゆるところに教国の影がある。


 そして、俺に寝返ったシルヴィは教国に行けと言う。

 そこで俺が廃嫡になった理由がわかるからだと言って……


「シルヴィ、なんで俺が廃嫡になったことに教国が関係する?」

「それはご自身の目で確かめてください。旦那様は私がこの場で何を言おうと信じませんし、どうせ、自分で確かめに行きます」


 そうするような気がするが、理由を先に教えてほしいんだが……

 でも、こいつは言わないだろうな。


「じゃあ、これだけは言え。教国は俺を狙っているのか?」

「はい。レナルド・アーネットはクズな殺人鬼ですが、強いことでも有名です。そんな男を雇うには大金がいります。そんな大金を支払ってまでも殺そうと思うくらいには本気でしょう」


 エイミル、ジャスの離間の策を止めた……伯父上の病を治そうとした……確かに邪魔はしているが、そこまで恨まれているのかね?


 まあ、どうでもいいか。

 宗教家の連中が何を考えているかのなんかわからんし、興味もない。

 ただ、俺に害意を向けているのならば始末するだけだ。


「わかった。元々、教国嫌いだし、逆に殺してやるわ」

「さすがは旦那様ー」


 シルヴィが笑顔で拍手をする。


「ロイド……そいつに乗せられているようにしか見えんぞ?」

「どうでもいい。どちらにせよ、俺のやることは変わらん」


 俺に刃向かった時点で死刑だ。


「教国に乗り込む気か? もし、本当にお前が狙われているとしたら危険だぞ?」

「ここで何もしない方が危険だわ」

「私は反対だ。お前がそこまでする必要がない」


 ほうほう。


「つまりお前が動いてくれるわけか? 伯父上と一族の俺を殺そうとしたという大義名分で教国に攻め入るんだな?」

「それはしない」


 即答かい……


「なんで?」

「わかってるのに聞くな。教国は世界各国に影響力があり、信者も多い。そんなところに攻め入れば世界から孤立するどころか、ウォルターの国民からの信も失うわ」


 まあね。

 だから教国はたいして軍事力もないのに隣国のテールに攻められていないのだ。


「何もしないなら黙ってろ。俺は自分の身は自分で守る」

「城にいれば問題ないだろう」

「問題ありありだろ! さっきのメイドやシルヴィが簡単に潜入できてるじゃん! それに俺は城に閉じこもりの生活はごめんだわ」


 遊びに行きたい!


「うーん、そんなに緩かったかなー?」


 ヒラリーが悩み始めた。


「緩々でしたよー」


 シルヴィがニコニコ顔で頷く。


「ヒラリー、ジャックが帰ったら相談してもみろ。あいつはそういうのに詳しい」


 本業は密偵だし。


「そうしてみるか……」


 ヒラリーが考え込み始めると、ガンガンと強めのノックの音が部屋に響いた。


「なんだ? うるさいぞ」


 ヒラリーが眉をひそめながら扉に向かって声をかける。


「失礼します! 閣下、先程のメイドが死にました!」


 慌てて部屋に入ってきた兵士が敬礼をしながら告げた。


「何!? どういうことだ!?」

「独房に運んでいる道中に急に震えだすと、血を吐いて動かなくなりました」

「毒か?」

「おそらくはそう思われます。今、ジェフリー先生に診てもらっています」


 ジェフリー?

 ああ、あの医者の爺さんか……


「わかった。死因が判明したら報告しろ。下がれ」

「はっ!」


 兵士は敬礼をすると、部屋から出ていき、扉を閉じた。


「シルヴィとやら、どう思う?」


 ヒラリーがシルヴィに聞く。


「自害でしょう。まあ、どうせ拷問の末に死刑ですからね。それにしても私の幻術をこんなに早く破るとは…………そこまで素人というわけではなかったようですね」


 ふーん……


「お前が前に教国も一枚岩ではないという意味が少しわかった。お前、さっきのメイドと所属というか、命令機関が違うな?」


 協力しているなら味方の能力を知らないのはおかしい。


「その通りです。というか、私はエイミル担当でしたからね。旦那様がこちらに参られるのはわかっていたので適当な嘘を言って、応援に来たと説明したんです」

「それで裏切ったわけね」

「裏切っていません。最初から敵です」


 そう言ってたな。


「まあいい。この件は一旦保留だ。シルヴィ、お前は他に間者や暗殺者がいないか確認しろ。お前が知っている者だけかはわからん」


 ヒラリーはダメだ。

 こいつ、優秀だが、警戒心がなさすぎる。


「かしこまりました」

「あ、例の件も頼むぞ」

「……一応、言っておきますが、ご自分で聞くのが早いと思いますよ」


 そりゃそうだろうよ。


「お前らの誕生日っていつだっけって聞くのか? 結婚式を控えた今に? 白い目で見られるわ」

「いや、すでに…………いえ、かしこまりました。すぐに調べます」

「そうしろ。なるべく早くな。リーシャは冬だが、マリアはまったくわからん。明日とか言われたら焦るわ」

「そうですね…………」


 シルヴィがすごく可哀想な人を見る目をしながら頷いた。


「ロイド…………お前、自分の婚約者の誕生日を知らんのか?」


 この場にいるもう1人がドン引きしながら聞いてくる。


「知らん。お前も伯父上も知らんし、当然、伯母上もマイルズも知らん。さらに弟のイアンも知らんし、もっと言えば、両親も知らん」


 まったく興味ない。

 覚えているのは母上の命日だけだ。


「うわー……」

「ひえー……」


 え?

 そこまで引く?

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