第069話 多分、逢引きであってる
町に戻った俺達は昨日と同様にそのままギルドに寄り、依頼を報告した。
今日は昨日とは違い、他の冒険者もおらず、スムーズに精算をすることができた。
そして、精算を終え、ギルドを出た俺達は宿屋に戻り、昼食を食べる。
「殿下、午後からどうされます?」
昼食を食べ終え、食後のワインを飲んでいると、マリアが聞いてくる。
「買い物にいく。船旅になるし、色々買っておかないといけないだろ。それに夜目が利くようになる薬を魔法屋で買ってくるわ」
「空賊狩りの時にジャックさんからもらった薬ですか?」
「それ。夜の作戦だし、あったほうが良いだろ」
「確かに。私もついていっていいですか? 暇ですし」
さすがにここ数日はやることがないもんなー。
「いいぞ。リーシャ、お前はどうする?」
「私はパス。疲れたからお風呂に入って、寝る」
まあ、リーシャは午前中、ずっと動いてたしな。
朝も早かったし、寝させるか。
こいつは昼間にどれだけ寝ても夜に眠くならないということにはならないし。
「ララ、お前も留守番な。何かあってもリーシャは起きないからニコラを頼れ。あと、喉が渇いたら適当なもんを頼んでもいいけど、ちゃんとルシルにツケとけよ」
「わ、わかりました」
俺とマリアはワインを飲み終えると、部屋を出て、階段を降りた。
「あれ? 御二人だけですか? 逢引き?」
ニコラがニヤニヤしながら聞いてくる。
こいつはどんどんと下世話になるなー。
「買い物だよ。リーシャは疲れたから寝るんだと」
「ふーん……お客さん、出かけるなら注意してね。そろそろ人が増え始める頃だから」
ニコラが忠告してきた。
「増える? なんでだ?」
「明後日はいよいよ奴隷市が始まるからね。今日の午後から明日にかけては他所から人がどんどん集まってくるんだよ」
「今でも十分に活気があったが、さらに増えるのか……」
「今までいたのは遠くから来た人や滞在する余裕のある人ですね。これから来るのはリリスとかの近場の人達です」
うーん、まあ、人が増えた方が目を欺くという点では良いんだが、トラブルが増えそうだな。
「わかった。じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃいませー」
俺とマリアは宿屋を出ると、市場ではなく、商店が立ち並ぶ奴隷商の方に歩いていった。
少し歩くと、奴隷商の店が見えてくる。
「あれですか?」
マリアが明らかに嫌そうな顔をしながら聞いてくる。
「そうだ。お前が見ていい店じゃない。用件はあっちの店だ」
俺は奴隷商の店をスルーし、近くの魔法屋に入った。
魔法屋に入ると、気になる物を見ていくが、明らかにマリアがつまらなそうだったのでさっさと夜目が利くようになる薬を買い、店を出る。
そして、別の店に入り、旅に使えそうな物や携帯食料なんかを補充していった。
「かなり買いましたね?」
店を出ると、マリアが聞いてくる。
「あいつらのおかげで予算に余裕があるからな。あとで足りないって思うより買っておいた方が良いだろ」
「そうですね。魔法のカバンがあって良かったです」
ホント、ホント。
きったないカバンだが、ジェイミーには感謝だわ。
「これで買い物も終わったな。帰るか?」
「あ、海を見てもいいですか?」
どうせ船に乗るんだからいくらでも見えると思うが、マリアが見たいというなら仕方がない。
「あっちから行けるか?」
「多分、商船の港に出ると思います」
俺達が来た道を引き返さずに北に向かって歩いていく。
すると、潮の香りが強くなり、予想通り、港に出た。
「俺達が作った地図はあってたなー」
港では数隻の商船が停泊しており、屈強な船乗りが荷物の搬入をしている。
俺達は邪魔したら悪いと思い、この場を離れ、以前、港の全貌を見ていた灯台に向かった。
「海ですねー」
マリアは防波堤に腰を下ろし、魚を見ている。
「落ちるなよ」
「大丈夫ですよ。まさか本当に買うとは思いませんでしたけど、ロープがあるじゃないですか」
ロープは真っ先に買った。
「一応な。俺とリーシャも泳げないし、お前に限ったことではない」
「絶対に私用って思ってますね」
うん。
「そんなことはない」
俺は嘘をつきながら魔力を目に込め、軍船の方を見る。
「どうですかー? いけそうです?」
「多分、大丈夫だと思う。大変なのは俺らよりかあいつらだろうな」
「ですかー……」
俺は遠見の魔法をやめると、海を見る。
「いい天気だな」
「ですねー。風が気持ちいいです」
後でべたつくんだろうが、風呂に入ればいい。
風呂は良い。
汚れは魔法でどうにかできるが、精神的な疲れも取れる気がする。
うーん、やはり今後も風呂がある宿屋に泊まった方が良いな。
「そろそろ帰るかー」
「そうですね。デートは終わりです」
「これ、デートか?」
「男女が二人きりで海に行く……デートです」
言葉にするとデートっぽいな。
「リーシャが怒りそう」
「怒りませんよ」
「そうかー?」
少なくともお前は睨まれると思う。
「大丈夫ですよ。ちゃんとリーシャ様とは話をしていますので……」
「ふーん、お前はこういうのが上手だなー」
「こういうのとは?」
マリアが首を傾げた。
「取り入るの」
「処世術ってやつですかね? まあ、敵意がないことを示せばいいだけです。田舎の貧乏貴族を真面目に相手する貴族はいませんから」
マリアがぼーっと海を見つめる。
「お前、妾の誘いがあったって言ってたな。誰だ?」
「相手に悪いから言えるわけないじゃないですか……」
マリアは俺を見上げ、苦笑する。
「いっぱいいただろ」
「いえいえ、そんなことないですよ」
絶対に多かったな。
こいつはモテるわ。
特に上流の貴族達が好きそうだ。
こいつは良い意味で貴族らしさがないのだ。
「ケビン、アラン、クライヴ辺りか?」
「詮索はやめましょうって……」
マリアが本当に困った顔をする。
こりゃ、当たりだわ。
「マジか……妾とはいえ、家柄は最高だぞ」
ケビンに至っては大領地だ。
「嫌ですよー。小領地でも正室や側室がいいです。妾なんて歳を取って愛されなくなったら終わりですよ? 空しいだけです」
「ふーん……」
「だから全部断りました。殿下が探るから言いますけど、王家からの誘いもありましたよ」
王家……
「陛下じゃないだろうな?」
歳を考えろ、ジジイ!
「陛下じゃないです。そもそも接点がありませんしね」
じゃあ、イアンか。
「イアンがねー……よく断れたな」
「私はリーシャ様の傘下ですから。殿下に弓は引けません。イアン様もそれはよくわかっているのでそれほど強くは言われておりません」
皆、色んな所で誘ってるんだなー。
「俺、誰も誘ったことがないし、誘われたこともないなー……」
青春を間違えたか?
「そりゃ、殿下はそうでしょうよ。魔術の研究ばかりですし、他の令嬢もリーシャ様が怖くて色目を使えません。あの人、扇を折ってましたよ?」
それは俺も見た。
2、3回くらい……
「ハァ……めんどくさい奴。まあいい。あいつが言うように俺が選んだわけだしな。帰るぞ」
「めんどくさい云々は聞かなかったことにします」
マリアはそう言うと、立ち上がった。
「絶対言うなよ」
「もちろんですよ。私は口が堅いのです」
さっきイアンの誘いのことをバラしてなかったか?
絶対に言ってはいけないことだと思うぞ。
「まあいい。ララがリーシャと2人きりで気まずいだろうからさっさと帰ろう」
「ですねー」
俺達は帰ることにし、灯台を歩く。
「妾は嫌かー」
「側室ですよ、側室! 心が異常に小さい下水さんと上手くやれる貴重な側室です! あと尽くすタイプです!」
アピール上手なポテトフライだなー。
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