第063話 暴君ロイド様


 翌朝、俺は起きると、横で寝ているリーシャを起こし、すでに起きていたマリアとララと共に朝食を食べた。

 朝食を食べ終えると、準備をし、ララの首輪に鎖を取り付け、鎖を持つ。


「あー、やだやだ。これで町中を歩くんだぜ?」


 俺は鎖を持ったままリーシャとマリアを見る。


「あなたには悪いけど、近づきたくないタイプの人ね」

「暴君にしか見えませんね」


 ホントだわ。


「離れて歩いてもいいぞ」

「嫌よ。私はあなたのそばから離れないわ」

「…………じゃあ、私も」


 いい言葉だとは思うんだけど、今はまったく嬉しくないな。


「ハァ……行くか。町を出れば離せるし」


 まあ、そこまでが嫌なんだけどな。


「とにかくさっさと行きましょう。今はまだ朝だし、人も少ないと思うわ」


 帰ってきた後の昼間か夕方が嫌だなー。


「ララ、悪いが、我慢しろよ」

「いえ、私は問題ありません。むしろ、ご主人様にご負担をかけて申し訳ありません」


 いっそ、睨んでくれた方が良かったわ。


 俺は嫌だなーと思いながら部屋を出る。

 そして、何故かニヤニヤしているニコラに挨拶をして、宿を出た。


 宿を出ると、そこそこいる通行人を気にしながらも早足で町の南門に向かう。

 南門に着くと、門番と目を合わさないように門をくぐろうとした。


「ちょっと待て」


 俺が門をくぐろうとすると、案の定、門番に止められてしまった。


「なんだ? 急いでいるんだが……」

「いや、あまりにも怪しかったんでな」


 怪しかったらしい。


「どの辺が?」

「俯いて早足で門を抜けようとしている男は誰が見ても怪しいだろう」


 確かに怪しい。

 不審すぎる。


「悪い……見ての通り、奴隷を買ったんだが、慣れてなくてな……」

「あー、あんた外国の人か……たまにいるんだよな。でも、堂々としろよ。好きで買ったんだし、自分に正直になれっての…………まあ、気持ちはわからんでもないがな」


 門番はそう言って、どう見ても子供なララを見る。

 確実にそっちの人と思われていると思う。


「……いや、そういう趣味じゃないぞ?」

「まあ、お前さんの連れを見ればなんとなくわかるが、たまにはそういうのを欲しくなることもあるさ」


 ねーよ!


「ほら、荷物持ちとかでさ」

「それでこんなガキを買うか? お前、下手に隠さない方がいいぞ。ものすごいかっこわるい」


 なんで俺がこんな目で見られているんだろう?

 いっそ、開き直った方が良いか?


「…………嫁の前で余計なことを言うな」


 俺は門番にしか聞こえない声量で言う。


「あー……すまん。まあ、そいつらは見た目より力もあるし、役に立つんじゃないかなー……通っていいぞ」


 俺は通行の許可を得たので門を抜けると、森に向かって歩いていく。

 そして、町からある程度離れると、鎖から手を離した。


「あー、最悪」

「…………お疲れ様」

「…………心中お察しします」

「…………私のせいで申し訳ありません」


 3人が慰めてくれるが、1つも俺の心に響かない。

 何故なら、帰りもあるから。


「いっそ逃げたってことであいつらの基地に置いていくのはどうだ?」

「罰金がいくらかは知らないけど、作戦の前に目立つ行為はやめた方が良いわ。というか、ルシルに私が殺したって思われるから却下」


 まあ、ルシルは絶対にそう思うわな。

 俺が奴隷商のことを聞いたら引いてたし。


「まあいい。さっさとあいつらの森に…………って、まーた、タイガーキャットか」


 俺達の目の前にはタイガーキャットが現れた。

 タイガーキャットは完全に俺達を視認し、牙を剥いている。


「本当に多いわね……」


 リーシャがそう言いながら剣を抜いた。


「下がってろ」


 俺はリーシャにそう言い、杖をタイガーキャットに向ける。


「ブラッドドレイン!」


 俺が魔法を放つと、タイガーキャットがその場でのたうち回り始めた。

 そして、タイガーキャットの全身から血が噴き出し、タイガーキャットがばたりと倒れる。

 その場には血で染まったタイガーキャットのみが残された。


「血抜き魔法を考えたんだが、猟奇的だったな」


 いちいちウサギの喉を切るのが面倒だったから研究していた魔法だが、ちょっと刺激が強い。

 その証拠にララの顔が真っ青だ。


「私、魔法のことには詳しくないけど、血を操作する魔法ってダメじゃなかったかしら?」

「ダメですよ! 神への冒涜です! やっぱり黒魔術師じゃないですかー!」


 マリアが怒り始めた。


「ただの血抜き魔法だ。生活魔法みたいなもんだろ」

「人には使えないんです?」

「なんでだよ。使えるに決まってるだろ」

「攻撃魔法じゃないですか! あわわ……背信者だ」


 そもそも最初から信者じゃねーよ。

 祈ったこともなければ、教会に行ったことすら数える程度だ。


「お前を使い捨てにしようとするような宗教だぞ」

「…………どうでもいいか」


 そうそう。


「神様は皆の心にいる。俺の心の神様はこれは生活魔法だよって言っている」

「私の心の神様は何も見てないことにしろって言ってます」


 良い神様だな。

 マリアらしい。


 俺は倒れてピクリともしないタイガーキャットに近づくと、魔石を回収するために腰を下ろした。


「御二人の神様は何て言ってます?」


 マリアがリーシャとララに聞く。


「どうでもいいって言ってるわね。あと獲物を取られた」


 リーシャの神様はヴァルキリーか何かか?


「…………す、素晴らしい魔術師様だと思います」


 絶対に嘘だな。

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