第132話 ウチの絶世さんに敵う者なし


 俺は朝起きると、まだ寝ているリーシャとマリアをそのままにしておき、昨夜に仕掛けた罠を見にいくことにした。

 すると、ウサギはかかっていなかったが、何故か鳥がかかっていたので回収する。

 そして、焚火のところまで戻ったのだが、婆さんがすでに起きて、焚火に当たっていた。


「早いんだな」


 俺は焚火に腰かけ、婆さんに声をかける。


「私くらいの年齢になると、暗いうちに目が覚めちまうんだよ。あんたが起きて、どっかに行ったからこうして焚火を用意してやったんだ」

「どうも。罠を見てきた」


 俺は捕まえた鳥を見せた。


「ふーん、よく獲れるね」

「パライズの魔方陣の上にエサを置くだけだ」

「なるほどね……エルフがよくやるやつだ」


 エルフ?


「エルフっていんの? 見たことがない」


 エルフは森に住む耳がとんがった人間だ。

 魔力に優れ、一説によると1000歳まで生きるらしい。


「いるよ。それにお前さんはエルフを見たことがあるよ」

「は? どこで?」

「ここで」


 ……ここには一人しかいないな。


「お前、エルフなん?」

「ほら」


 婆さんはそう言って、フードを取った。

 俺はフードで微妙に隠れていた婆さんの顔をまじまじと見るが、ババアだ。

 耳がとがっている気もするもするが、しおしおでわかりづらい。


「そういう風に見えないこともないなー」

「まあ、私も歳だからね。わかりづらいだろう。でも、若い頃はぴちぴちだった」


 今はしわしわだな。


「エルフねー。何歳なん?」

「さあね。100歳を超えてから数えてない」

「1000歳まで生きるって本当?」

「さすがにそこまでは生きないねー。せいぜい200か300ってところだよ」


 それでも長生きだ。

 すごい。


「エルフってこの辺にいるのか?」

「いないね。この辺だとウォルターのさらに東にあるミレーって国の森にいるくらいだ」


 ミレーはさすがに知っている。

 微妙にウォルターと仲の悪い隣国だ。


「へー。やっぱり森なんだな」


 昔、書物で読んだとおりだ。


「エルフは森を信仰しているからね」

「お前はなんでこんなところにいるんだ?」


 信仰は?


「どこの世界にも変わり者はいるものさ」


 なるほど。

 確かに変わり者っぽい。


「鳥食う?」


 肉食はするのかな?


「エルフは植物しか食べないって書いてあったかい? あれは間違いだ。普通に食べるよ」


 そういえば、昨夜も魚を食べてたな。


「じゃあ、焼くか」

「嫁さんはいいのかい?」

「焼けた頃に起きてくる」


 絶対にそう。


 俺は焚火の上に網を置くと、鳥をさばき、乗せていく。

 すると、良い匂いがしだし、リーシャとマリアがテントから出てきた。

 そして、マリアが眠たそうなリーシャの手を引っ張りながらこちらにやってくる。


「おー! 獲れたんですねー」


 マリアが網の肉を見て、嬉しそうに言う。


「今日はウサギじゃなくて鳥だけどな」

「鳥も好きですよー」


 俺も好き。

 狼じゃなかったらなんでも好き。


「いつも悪いわねー……あら、お婆さん、フードは?」


 眠そうなリーシャが婆さんを見る。


「ちょっとね……」

「この婆さん、エルフなんだとさ」


 婆さんが言い淀むが、無視して教える。


「エルフ? あの?」

「そうなんですか? 私達とあまり変わりませんね」


 正直、微妙だよな。


「獣人族とかは見てすぐにわかったんだけどなー」

「あいつらは耳と尻尾が特徴的だからね。私達も耳が特徴といえば特徴だけど、人族にも耳がとがっている奴がいる」


 そうなんだよね。

 さすがにここまで尖っている奴は見たことはないが、多分、エルフと名乗られなかったら変わった耳をしたババアだなとしか思わなかった。


「他に特徴はないのか?」

「寿命、魔法適正が高いってところかねー? あと、これは言いたかないけど、美形が多いよ」


 美形?

 ババアじゃん。


「うーん、まあ、確かに顔は整っているような気もするなー。でも、リーシャ以下だな」


 俺は再び、婆さんの顔をまじまじと見た。


「だから言いたくなかったんだ…………私も若い頃はモテたって自慢したいのに自信がなくなった。なんだい、その娘……」

「ふっ……」


 リーシャが自信満々な顔で髪を払う。


「絶世さんなんだ」

「神様が顔だけに祝福を与えたのです。おかげで性格が下水になりました」

「ふっ……女は顔よ。ロイドもそう言っていた」


 言ったかなー?

 言ったような気がするなー。

 だって、外見しか褒めるところが……


「…………あんたらはきっと長生きするよ。100年以上も生きている私が言うんだから間違いない」


 そのつもりだよ。


 俺達は朝食の鳥を食べ終えると、準備をし、馬車に乗り込んだ。

 そして、今日もまた、何もない平和な道を行く。


「なあ、ラウラ、俺達って必要だったか?」

「ちっちゃい嬢ちゃんの回復魔法がありがたいから必要だね」


 俺とリーシャはいらないらしい。


「モンスターも盗賊も出ないけど、この国ってそんなに平和なんか?」

「平和だよ。戦争もないしねー」

「北が悪しきテールじゃん」


 侵略されるぞ。


「その北に悪しきエーデルタルトがあるからだよ。テールが南征なんかしたら攻めるだろ。ただでさえ、テールがこの国に来るには山脈と大森林で時間がかかるっていうのに」


 ウチを悪しきって言うな。


「空軍や海軍は?」


 海路か空路なら山脈だろうが、大森林だろうが越えられる。


「この辺の国は大国に対抗するためにそっちに力を入れているんだよ。それにジャスと同盟を結んでいるし、ちょっとやそっとじゃ落ちないんだ」


 時間稼ぎさえできれば、エーデルタルトが勝手にテールを攻めるからテールが撤退するのを待てばいいわけか。


「へー、小国同士が組んだわけね」

「どっちかが落とされたら次は自国っていうのはどっちもわかっているからね」


 だろうなー。


「それで平和なわけかー」

「まあ、攻めてこない一番の理由はそんなに苦労しても得るものが微妙ってところだね」


 なーんもないらしいからなー。


「ふーん……俺ら、ジャスにも行くんだが、こんな感じの旅になるか?」

「なるねー。のんびり行きな、逆に言うと、冒険者としては儲かりにくい国だよ。たいした依頼もないし」

「レイルではオーク狩りで結構儲かったぞ」

「そりゃ、バルバラが良い仕事を回してくれたんだよ」


 マジかー。


「すげー良い奴だな、あいつ」

「もっと言うと、この仕事も良い仕事だからね。何もしないどころか、完全にお客様気分のあんたらに金貨5枚もくれてやるんだ」

「この恩にはいつか報いてやろう」

「すんごい偉そうだね。まあ、恩は忘れるな。絶対に忘れるなよ」


 あれ?

 デジャブだ。

 どっかで似たようなことを言われた気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る