第229話 設定
シルヴィが出ていった後、俺達は昼食を食べ、シルヴィが戻ってくるのを待っていた。
そして、日が落ちてきたくらいでシルヴィが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
部屋に戻ってきたシルヴィは何もなかったかのようなすまし顔で頭を下げてくる。
「おかえり。マルコは何て?」
俺は触れないことにし、結果を聞くことにした。
「マルコさんも賛成のようでした。話し合いの結果、マリア様は私の下につくこととなります」
「まあ、お前がおらんと話にならないからそれでいいんだが、そもそも、お前の立ち位置はどうなっている?」
二重スパイと聞いたが、その辺のことがよくわかっていない。
「私は表向きは強硬派の所属です。裏では穏健派のスパイだけど、実は強硬派に寝返っているということになっています」
複雑だな。
ロクな死に方をしないパターンだ。
「マリアはどういう扱いになる?」
「マリア様は実家の都合で来るのが遅れたということにします。昨日、到着し、明日から仕事ということになりました。とはいえ、初心者ですので私が仕事を教えます」
「ということはマリアの所属は強硬派か?」
「一応はそうなりますね」
ふーん……
「でも、それだとマルコの影響力が及ばんだろ。マリアが不当な扱いを受けるかもしれんだろ」
「そこの話が長引いたんですが、マリア様は母国で結婚を控えた身ということになりました。かなりの家柄に嫁ぐので不当なことは控えるようにそこはかとなく、伝えるそうです」
どうせエーデルタルトのことを言って、脅しをかけるんだろうな。
いつものやつだわ。
「それで問題ないならそれでいい。その辺のことはマルコに任せる」
「そうしましょう。他にもマリア様が女に走るという案もあったんですが、やめました」
「どういうこと!?」
シルヴィの謎の案にマリアが大声を出した。
「いや、そのまんま。こういう閉鎖的な空間で禁欲生活が続くと、同性に走ることが稀にあります」
「ああ……うん、まあ…………」
マリアも身に覚えがあるらしい。
「え? 本当に?」
リーシャがそう聞きながら少し腰を浮かし、椅子ごとマリアから距離を取る。
「私じゃないですよ! そういう子もいたってことです! 私は女同士なんて嫌ですよ!」
でも、君、BLは好きだよね?
「まあまあ。そういう案もあったっていうことです。その案の場合は私もそう思われちゃうので却下しました。そういうわけで婚約案になりましたね」
「シルヴィ、仕事って具体的に何だ?」
マリアやシルヴィのレズビアン話は興味がないので話を続ける。
「旦那様は興味ないんですね…………世の中には女同士や男同士に興奮する人もいるというのに」
マジでどうでもいい。
貴族の中にもそういう人間がいることは知っているが、俺はどうでもいいと思っている。
「お前らが絡もうが、どうでもいいわ。それより、仕事の内容だ」
「仕事は主に雑務やヒーラーとしての修行ですね。なお、食事は出ますが、給金は出ません」
ここに来るヒーラーの気が知れん。
冒険者をやっているとわかるが、ヒーラーは貴重だし、いくらでも需要があるから稼げるだろうに……
「なんでそんなところに行く奴が多いんだ?」
「半分は身寄りがなくて教国に来た者の中に素質があった者達です。もう半分は修行ですね。要は自分のヒーラーとしての腕前を上げたいだけの腰掛けです」
そんなもんか……
「あ、私も腰掛けですね。ここで1、2年ほど修行したら国に戻り、どっかに嫁ぐ予定でした。教国で修業した有能なヒーラーって回復魔法も使えるうえに献身的そうで良さそうじゃないですか」
マリアはマリアで考えていたんだな。
「修行しなくても良いところに嫁げたぞ」
「ですねー。やっぱり殿下とリーシャ様を信じて良かったです」
信じてはいなかっただろうが、まあ、良かったな。
「仲が良くて何よりですねー…………早く10年後にならないかなー?」
シルヴィが不穏なことを言う。
「シルヴィ、大司教でもいいから上の者に賄賂を送れ」
俺はカバンからヒラリーからもらった金貨が入った袋を取り出し、テーブルに置く。
「なるほど……マリア様の嫁ぎ先からのということですね?」
「ああ。それでマリアに手を出そうとか不当な扱いをしようとは思わなくなる。貴族の恐ろしさを説いておけ」
要はマリアの嫁ぎ先はそれほどマリアを重視しているというアピールをするわけだ。
いくらバカでも大金を渡せば、喜びと同時にその重さを理解するだろう。
「かしこまりました。そういうことなら司教のパスカルがいいですね」
「誰だ?」
「強硬派の大司教であるレノーの腰ぎんちゃくと思って頂ければ結構です。立場や権力もあって、賄賂にも弱いですし、ちょうどいいでしょう」
どこの世界にもそういうのはいるんだな。
「そいつでいい。ついでにマリアの嫁ぎ先はフットワークが軽いということもさりげなくアピールしておけ」
「その辺りはお任せを。パスカルはよく知っている男でございます」
「愛人か何かか?」
「は? 旦那様。私はそういうのが嫌いです」
あざとい笑みを絶やさないシルヴィが真顔になった。
「冗談だ」
こいつもエーデルタルトの貴族女子だったわ。
エーデルタルトの高潔がどうのこうの言ってたし。
「そうですか…………まあ、そもそも男か女かわからない者に手を出す人はいませんよー」
シルヴィはそう言いながらカトリナモードに戻ったが、目は一切、笑っていなかった。
マジでキレてるわ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます