第233話 隠す気ないだろ
俺達はテーブルにつき、リーシャが淹れてくれたお茶を飲み始めた。
「とりあえずは潜入成功だな」
「そうね。シルヴィ、マリアの明日の仕事は何?」
リーシャがシルヴィに聞く。
「明日はまず、マリア様の回復魔法の腕を確認します。そこでマリア様の腕に合った仕事場に行きます。まあ、マリア様は優れていますので兵士の治療の方でしょうね」
マリアって優れているのか?
よく考えたらマリア以外のヒーラーを知らんわ。
「兵士の治療? ケガでもしてるのか?」
「兵士は治安維持のために日々訓練を積んでいます。ですので、ケガはしょっちゅうなんですよ。まあ、ここにはヒーラーが多いから多少の無茶もできるからですね」
なるほどね。
そう考えると、教国の兵士は練度が高そうだな。
「ふーん」
「さて、リーシャ様、お茶をありがとうございました。私はパスカルのもとに行ってまいります」
シルヴィが飲み終えたカップを置き、立ち上がった。
そういえば、呼び出されてたな。
「シルヴィ、俺も連れていけ」
「旦那様をですか? かしこまりました。とはいえ、さすがに旦那様だけにしてください。私も魔力を温存したいので」
さすがに使いすぎか……
「リーシャ、マリア、お前らは待ってろ」
「いってらっしゃい」
「待ってます」
2人がお茶を飲みながら手を振ってくれる。
「シルヴィ、頼む」
「はーい。どうぞー」
シルヴィが魔法を使うと、俺の身体がシルヴィの影に沈んでいった。
そして、完全に沈み終えると、シルヴィが部屋を出る。
『旦那様、申し訳ありませんが、旦那様が好きなカトリナさんはここまでです』
シルヴィが念話でそう言うと、ばっと身を翻した。
すると、さっきまでは修道服を着ていたカトリナだったのに黒づくめの男に姿が変わる。
『ここ女子寮だぞ?』
『ふふふ』
女の声のままで笑うと、シルヴィが動き出した。
シルヴィは近くの窓を開け、そのまま飛ぶと、地面に着地する。
これを音もなく、流れるように行ったのだ。
誰もいない寮の裏に着地したシルヴィはそのまま何事もなかったように歩き出し、大聖堂の裏に回った。
そして、1つの窓を開けると、またもや、音もなく流れるように入っていく。
そこはさっきも来たパスカルの部屋であり、シルヴィはちょうどパスカルの後ろに立っていた。
「パスカル」
「――うおっ! ス、スタンリーか!? 驚かせるな!」
急に声をかけられたパスカルはビクッとして振り向くと、文句を言う。
どうでもいいが、スタンリーはシルヴィの親父であるイーストン公爵の名前である。
「お前が呼んだんだろう」
「だからと言って、急に後ろに現れる奴があるか! 寿命が縮むわ! 普通に扉から入ってこい!」
至極、真っ当な意見であり、怒るのも当然である。
でも、そこでうろたえずに堂々とするのがかっこいい権力者なのだ。
そういう意味ではこいつは二流だな。
「それで用件は?」
「チッ! 相変わらず、不気味な奴よ。用件はさっきのマリア嬢についてだ。どんな感じだった?」
文句を言っていたパスカルが本題に入る。
「見たまんま素直な子だな。とはいえ、馬鹿ではないし、したたかさも持っている。エーデルタルトの貴族が好きそうな女だ」
『ね? 殿下』
うっさい。
「そうか…………エーデルタルトからの密偵かと思っていたのだが……」
「そういう感じではないな。こちらでも調べてみたが、確かにフランドル家の者だった。それに結婚話も本当のようだ」
「ふむ……となると、下手なことはしない方が良いな?」
「ああ、それがいい。マリアの嫁ぎ先は過激なことで有名な家だ。その一方で手を広げることでも有名だな」
俺が言えって指示したことだ。
「なるほど……ならば、上手く取り入るための橋渡しを頼む方が良いか……」
「かもな。大司教様は?」
「私に任せるとのことだ。今は忙しいらしい」
「そうか。では、どうする? 言っておくが、閨に呼ぶのはやめた方が良いぞ。調べてみたが、エーデルタルトの女は本当に自害するらしい。実際にマリアもナイフを携帯していた」
自害する前に処刑だけどな。
「あの噂は本当だったのか…………まあ、やめておこう。とにかく、少し様子を見てくれ。話が通じそうなら例の件をエーデルタルトの……えーっと、何と言う家だったか?」
「マリアの嫁ぎ先か?」
「そうだ」
それすらも調べてないのかよ……
『殿下ー。どこの家です?』
シルヴィが念話で聞いてくる。
『スコールズ伯爵家だ。嫡子のケビン・スコールズの側室という設定』
『どうもでーす』
どうでもいいけど、上の男がしゃべっていると思うと、不気味だわ。
「スコールズだ。スコールズ伯爵の嫡子が側室に迎えるそうだ」
「そうか。そのスコールズに例の件を売り込もう」
例の件って何だろ?
「それがいいかもな。それとだが、ウォルターのリナリーは死んだぞ」
誰?
あ、いや、あの暗殺メイドか。
「やはりか……定時連絡がないと思ったから何かあったのあろうと思っていたが…………ミレーに送った刺客も連絡がないし、エーデルタルトのバカ王子はそんなに優秀なのか?」
バカって言うな。
絶対にお前より頭は良い。
「優れた魔術師ではあった。だが、それ以上に人脈だな。Aランク冒険者のラウラやジャックがついていた」
「チッ! 金に物を言わせたか……」
人徳だよ!
金ねーもん。
「その辺はわからん。だが、ひとまずはウォルターからは手を引いた方が良い」
「Aランク冒険者がいるわけだからな…………わかった。とりあえずは撤退だ。今はまず、足元を固めないといけない。マルコ大司教はどうだ?」
これでひとまずはウォルターに刺客がいくことはない。
だが、こいつの言い方だと、足元を固めたらまた刺客を送るってことだ。
やはり処分だな。
「相変わらずだ。なんとか派閥の拡大を図っているようだが、今さらだな」
「ふむ……このまま順調に行けばいいが……一応、張っておけ」
「わかっている。話は以上か?」
「ああ。随時、連絡を寄こせ」
「わかった。ではな」
シルヴィはそう言うと、姿を消した。
「チッ! 本当に不気味な奴…………ったく、窓くらい閉めていけよ」
パスカルが立ち上がって、窓の方に行くと、シルヴィの影に潜んでいる俺の身体が扉の方に動く。
そして、音もなく扉が開くと、廊下に出て、扉が閉まった。
こうやっているのね……
『かっこいいでしょ?』
『見ちゃいけない舞台の裏側を見た気分だ』
『ではではー、旦那様が大好きなカトリナさんに戻りまーす』
シルヴィがそう言うと、修道服を着たカトリナ顔のシルヴィが姿を現した。
『やはり修道服は好きになれんな』
マリアもシルヴィも普段の格好の方が良い。
『私も好きじゃないですよー。じゃあ、寮に戻りますねー』
シルヴィが歩き出す。
『しかし、スタンリーねー……』
『たまたまですよー。全然、知らない人です』
何も言っていないんだが?
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