第014話 もうちょっと学んでおくべきだったなー
俺達は敵国にいるため、冒険者となって身分を隠すことにした。
「もういいだろうな……」
ジャックはそう言うと、網で焼いている肉を掴み、ナイフで切り分けていく。
「食えるのか?」
「ああ、好きに食え。ナイフとフォークは俺の分しかない…………使いたくはないだろ?」
ジャックがそう言って、リーシャとマリアを見る。
2人は頷くと、手を伸ばし、熱せられた網の上の肉を掴んだ。
「熱っ」
「熱いですー!」
そりゃな。
「ジャック、俺は気にしないからどっちか貸してくれ」
実にどうでもいい。
「ほらよ」
ジャックがフォークを貸してくれたので俺は肉に刺し、皿に置いた。
すると、リーシャとマリアが恨めし気に俺を見てくる。
「ハンカチくらい持ってるだろ。それで掴め」
なお、俺は持ってない。
「仕方がないか」
「私のお気に入りのハンカチがー」
2人は文句を言いつつもハンカチで肉を掴んで皿に乗せた。
「クソ高そうな布だな、おい」
こいつらのハンカチは職人が作ったものでそこそこの値段がする。
俺も持っていたが、王宮のトイレに忘れた。
「いいから食おうぜ。腹減ったわ」
俺はそう言って、皿に取った肉にフォークを刺し、口に入れる。
「うん、美味いな」
「ホントね。多少固いけど、塩胡椒は偉大だわ」
「美味しいですぅ。昨日のせいでより美味しく感じます」
確かに昨日の狼肉とは天と地だ。
「まあ、熊肉は高級食材だしな」
「そうなのか?」
「味はともかく、滅多に取れないから希少価値がある」
熊って強いもんな。
猪や鳥よりは獲れないか。
「村で売れるか?」
「売れる、売れる。近くの村は小さい村だからそこまでの金は出せないだろうが、お前らの服や装備を整えることくらいはできるだろ」
まあ、それでいいか。
大きな町に行く前に腐りそうだし。
「ふーん、じゃあ、それでいくか」
「ああ、それとこれを渡しておく」
ジャックがそう言って、何かを投げてくる。
俺はそれをキャッチし、見てみると、赤い石だった。
「なんだこれ? 魔石か?」
「そうだ。ジャイアントベアの魔石だな」
「へー……質が良いな」
獣とモンスターの差はこの魔石があるかどうかだ。
もちろん、魔石があるのがモンスター。
「Cランク級のモンスターの魔石だからな……それは倒したお前達のものだ。村では売らずに大きな町のギルドか魔法屋で売れ」
魔石は色んなことに使える。
魔法の触媒になるし、魔法自体の燃料にもなるのだ。
俺も魔法の研究で使っていた。
「いくらくらいになる?」
「そのサイズなら金貨20枚から30枚だろう」
「うーん、安い。でもまあ、魔石なんてそんなものか……」
「もう一個、アドバイスを追加だ。お前らはその金銭感覚をどうにかしろ。金貨30枚もあれば平民が数ヶ月は暮らせる大金だぞ」
そうなの?
俺はよくわからないので貧乏のマリアを見た。
「私が配ってたワインがそれくらいですー」
「ふーん」
わからん。
「…………お前ら、ヤバいぞ。パンがいくらで買えるか知ってるか?」
「金貨……はないか。銀貨くらいか?」
「そのくらいじゃない?」
「そう思います」
うんうん。
そんなものだろう。
「銅貨一枚だ」
やっす!
「そんなに安いのか?」
「平民が食べるパンはそれくらいだ」
マジかー。
「ということは金貨30枚でパンが3000個買えるわけだな?」
銅貨10枚で銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚だ。
さすがに知っている。
「これで飢えることはなくなったわね」
「助かりましたー」
「…………お前ら、金持ちなのか貧乏なのかどっちだよ」
元金持ちの現貧乏だよ。
「肉代もあるし、なんとかなりそうだな」
「いや、宿代やらなんやらで3人だとすぐになくなるぞ」
マジかよ……
「金を手っ取り早く手に入れる方法は?」
「んなもんあったら皆、そうするよ。まあ、お前らは強そうだし、こんな感じでモンスターを狩れ。解体はできないだろうが、魔石だけでも十分に儲かる。あとは血抜きさえしておけば、ギルドで有料の出張解体があるし、他の冒険者に頼んでもいい。そういうのを活用しろ」
「あのー、ジャックさんが助けてくれません?」
よく言った、マリア!
「無理だ。俺も仕事があるし、何よりも俺にメリットがない」
「家に帰ったらお礼をしますし」
「保証がないだろ」
「ですよねー……」
もっと粘れよ。
庇護欲をくすぐれ。
お前、得意だろ。
リーシャはプライドが高いからそういうのができないんだ。
「まあ、村までは付き合ってやるし、ギルドに素直に初心者ですって相談しろ」
それがいいか……
見栄を張ることでもない。
「そうするわ」
「よし! じゃあ、そろそろ出発するぞ。道中でも色々と教えてやるよ」
「頼む」
俺達は熊肉を食べ終えると、出発することにし、立ち上がった。
そして、元は熊だった塊のところに行く。
元は熊だったものは肉、毛皮、骨にきれいに解体されていた。
「上手いもんだな」
「何十年もやってきたことだからな」
「何十年?」
「俺は自分でも詳細な年齢は知らないが、少なくとも40歳を超えている。冒険者も30年近くやってるんだ」
10歳くらいから冒険者をやっていることになる。
すごいな。
「それだけやれば冒険記も伝記も書けるわな」
「実は文字を覚えるのが一番苦労した」
平民、それも孤児ではロクな教育も受けていないんだろう。
だから大人になってから勉強したんだ。
素直に尊敬できるな。
「伝説の冒険者も苦労したんだな」
「苦労の方が多い。冒険記には良いところしか書いてないがな」
まあ、苦労した話なんてつまらないしな。
「しかし、肉が多いな……」
とてもではないが、ジャック1人では持てない。
貧弱なマリアや戦闘を任せているリーシャに持たせるわけにはいかないから俺が持つかね。
「ジャック、カバンの予備はないか?」
「いや、大丈夫だ。俺が持つ」
ジャックはそう言うと、肉をカバンに収納していく。
俺がその量は入らないだろと思いながら見ていくと、ジャックがどんどんとカバンに肉を収納していった。
明らかにカバンの容量を超えている。
「魔法のカバンか?」
「そうだ。知り合いの魔法使いに頼んで魔法のカバンにしてもらった」
魔法のカバンは空間魔法を付与し、実際の容量以上の容量にしたカバンだ。
要は見た目以上にいっぱい入るカバン。
「へー……便利だな」
「冒険者はこれがあるのとないとでは大きく差が開く」
色んなものを持っていけるし、色んなものを持って帰れるからか……
「ロイド、あなたは使えない?」
リーシャが聞いてくる。
「うーん、空間魔法は覚えてない」
俺が大荷物を持つことなんかなかったし、これまで必要性がなかった。
こんなことなら覚えておけば良かったな。
「覚えてない? ということは覚えられるの?」
「あれは中級魔法だし、そんなに難しくはない。魔導書があればすぐに覚えられる。だが、魔導書は高いんだよなー」
多分、買えない。
「そう。じゃあ、しょうがないわね」
うーん、誰かが教えてくれないもんかねー?
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