第028話 安酒に慣れてきた高貴な俺
俺は依頼を終えると、昼前にはギルドに戻ってきた。
すると、ギルドにはリーシャとマリアがすでに戻ってきており、丸テーブルに座って何かを飲んでいた。
「お前ら、早いな……もう終わったのか?」
俺は2人が座っているテーブルに行くと、声をかけた。
なお、朝と違って他の冒険者の姿はない。
まだ昼前だし、仕事をしているのだろう。
「あ、ロイドさん、お帰りなさい。いやー、リーシャさんが即行でビッグボアを狩ったんですよ。しかも、オークを斬り殺しまくってました」
はやっ! ってか、怖いわ。
「ふーん、それで仕事終わりの一杯か?」
「はい。エールです。微妙な味です。ロイドさんは終わったんです?」
「終わった。俺もそれをくれ」
俺は座りながらマリアのエールを指差す。
「銅貨1枚だそうですよ」
安酒にも程があるな。
まあ、みすぼらしい俺にふさわしいか。
ふっ……
「ブレッドー。エールをくれ」
「はいはい」
ブレッドは俺の注文を聞くと、すぐにエールを用意して、持ってきてくれる。
「依頼は終えられましたか?」
ブレッドがテーブルにエールを置きながら聞いてくる。
「終わった。楽な仕事だったが、きったねー家だったわ」
「あの御方は変わった御方なんですよ」
「変人だろ。もしくは変態」
「まあ、そうとも言いますかね? とにかく、依頼を無事に終えられたのなら良かったです。今日はどうされますか? 他の仕事も回せますが?」
今日か……
「いや、今日はいい。明日にする。それまでに楽なのを用意してくれ」
「わかりました。では、また見繕っておきます」
ブレッドがそう言って、受付に戻っていったので、俺はエールを一口飲んでみる。
「確かに微妙だ……」
「ですよねー」
飲めないというほど不味くはないが、進んで飲もうとも思えない。
ただ酔うための酒って感じ。
「ロイド、そんなことより、そのカバンは何? 私、そんなカバンを持つ男の隣を歩きたくないわ。捨てなさい」
ほらね……
「私も思いましたけど、なんですか、それ? カバンならもっと良いものを買いましょうよ。せっかく、お金が入ったのに」
マリアもだよ……
「俺だって、こんな浮浪者漂うカバンなんか欲しくないわ! ただ、これは依頼主からもらった魔法のカバンだ。容量も結構あるっぽい」
「へー……え? 魔法のカバン?」
「そんなものをもらったんですか?」
2人が驚く。
「追加の仕事があったんだが、金がないから代わりにってさ。そういうわけだから嫌だろうが、我慢してくれ。俺だって、嫌なんだ。それともマリアに持ってもらうか?」
俺がそう言うと、リーシャがマリアを見た。
「……ないわね。マリアのローブは白いからより際立つ」
リーシャがそう言うと、マリアがほっと胸を撫で下ろす。
「だろ? 俺もお前やマリアがこんなのを持っているのは嫌だわ」
「まあ、そうね。私が嫌なようにあなたも嫌よね」
女が持つ方が嫌だわ。
「だから俺が持つ。そういうわけで午後から買い物に行こう。色々と買えるぞ」
「寝巻が欲しいわ」
「きれいなお皿とナイフとフォークが欲しいです」
それらを入れるカバンが汚いんだけどな。
「まあ、その辺だな。お前らはいくら儲かった?」
「全部で金貨22枚ね」
俺より多い……
「じゃあ、それらをお前らで分けて好きに買え」
「いいの?」
「長旅になる。安いものより長く使えるものを買え」
こういうのは最初が肝心だ。
特にこいつらは後で文句を言う。
「ロイドさんはどうされるんです?」
「俺は旅に使える物をブレッドに聞いて、揃えておく」
訳:女の買い物に付き合いたくない
「そう。じゃあ、マリア、私達は買い物に行きましょう」
リーシャは残っているエールを飲み干すと、フードを被った。
「はい。では、ロイドさん、宿屋で」
マリアもエールを飲み干す。
「ああ」
2人は立ち上がると、ギルドを出ていってしまった。
俺はまだ半分以上も残っているエールを飲む。
急に寂しくなったな……
「この店は女を隣につけるサービスはないのか?」
贅沢は言わんからそこの美人の受付嬢でいいぞ。
3人もいるから1人、2人寄こせ。
「私でよろしければ」
ブレッドが答えた……
「…………お前でいいわ。旅に必要なもんと売ってる場所を教えてくれ。1杯奢ってやるから」
「かしこまりました」
俺はおっさんと飲みながら色々なものを教えてもらった。
絶世のリーシャとかわいいマリアが恋しいね。
◆◇◆
俺はブレッドから旅に必要な物を聞くと、早速、市場や専門店に向かう。
そこで必要となりそうな物を購入し、自分用の寝巻なんかも買うと、まだ少し時間があったため、ジャックが言っていた魔法屋とやらに行ってみた。
魔法屋では杖を始めとする武器や色んなマジックアイテムが売っていたが、とてもではないが、俺の持っている金では買えそうになかった。
俺はよく魔法の研究をしていたが、そのほとんどは俺自身が買ったものではなく、用意してもらったものだ。
だから、まさか俺が湯水のごとく使っていた魔水や魔石があんなに高いとは思わなかった。
しかし、そうなると、あのおっさんは…………
俺の脳裏にはある懸念が生まれたが、まあ今さらかと思い、スルーすることにする。
そして、買い物と冷やかしを終えた俺は宿である小鳥亭に戻ることにした。
宿に戻ると、昨日の若い女がまたもや書き物をしながら受付に座っていた。
「俺の連れは戻っているか?」
俺は受付に座っている女に聞く。
「あ、おかえりなさい。奥様方ならすでに部屋にお戻りになられてますよ」
奥様方になってる……
「嫁に見えるか?」
「違いました? 少なくともあの美人の人は絶対にそうだと思いましたけど」
わかるのかね?
女の勘か?
「いや、合ってる。夕食はいつからだ?」
まだ早いが、あまり他の宿泊客と接触したくない。
「もう少しですね。準備が出来たらお声掛けしましょうか?」
「頼む」
俺は昨日と同じ3番の部屋の前まで来ると、一応、ドアをノックする。
「はーい?」
マリアの声だ。
「俺だ。入ってもいいか?」
「あ、ロイドさん。どうぞー」
俺は許可を得たので部屋に入ると、リーシャとマリアはベッドの上で買った荷物を広げ、整理していた。
「おかえり」
「おかえりなさーい」
「ああ。買い物は終わったか?」
俺は外套を脱ぐと、自分のベッドに腰かける。
「ええ。こんなものね。まとめ終わったらそのカバンに入れてちょうだい」
「わかった。明日仕事をして、ある程度の資金が貯まったら明後日の朝にはこの町を出よう」
「いいわよ。馬車?」
「いや、歩き。馬車は混むそうだ」
やはり他の人間と接触したくない。
この国では極力そうするべきだろう。
「歩きね……わかったわ。テントなんかは買った?」
「買った。その辺はブレッドに聞いて、一式買ったから大丈夫だ」
「それは良かった」
俺は荷物を整理する2人を眺めながらまったりすることにした。
そして、しばらくすると、夕食の準備ができたと宿屋の女が知らせに来たので食堂に向かう。
食事を堪能し、部屋に戻ると、3人で少し話をし、この日は早めに就寝した。
もちろん、ワインを飲んだ。
今日は初収入の日だから仕方がない……
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