第208話 帰国
報告を終えた俺達はギルドを出ると、ギルド前でジャックを待つ。
しばらく待っていると、馬車に乗ったジャックがやってきたので馬車に乗り込み、町を出た。
「ジャック、領主は何て?」
「感謝してたぜ。奴隷狩り問題が解決したからな。あ、そうだ。報奨金をもらったからやるぞ」
「いらん。お前にやる」
「いいのか? 安くはないぜ? お前さんと絶世の嬢ちゃんがやったって言ったら金貨300枚も出してきた」
高いなー……
というか、脅しみたいになってるし。
「今回の仕事の報酬だよ。ウォルターに戻れば金に困ることはないし、それくらいやる」
「ありがとよー。じゃあ、問題事も片付いたし、寄り道せずにまっすぐ帰るぜ」
「頼むわ」
俺達は行きと同様に変わらない風景を眺める旅を再開した。
帰りは特に問題事は起こらなかった。
ウォルターの関所はもちろんのこと、ミレーの関所でも問題はなかった。
というか、ミレーの関所に至っては声をかけてこないどころか近づいてもこなかったのだ。
おそらく、スミスの町の領主から連絡が来ていたのだと思う。
俺達はウォルターの領地に戻ってからも順調に旅を続け、ついにウォルターの王都に戻ってきた。
王都に着くと、帰ってきたなーと思いながら久しぶりの水の都を眺める。
そして、城の前まで来ると、馬車が止まった。
「着いたー」
「ようやくね」
「なんでかジャスからここまで来るよりも長く感じました」
ホント、ホント。
「殿下、俺は馬車をラウラに返しに行くついでにラウラに城に行くように伝えてくるわ」
「ああ、頼んだ」
「おう。じゃあ、また何かあったら呼べ。俺はちょっとエイミルまで行ってくるからよ」
ん?
「エイミル王のところか?」
「そうそう。一声かけてくるわ」
ふーん、結局、会いに行くのか……
「わかった。ご苦労だったな。助かったわ」
「良いってことよ。こんな楽な旅で金貨300枚ももらえたしなー」
ジャックはははっと笑うと、馬車を動かし、去っていった。
俺達はジャックを見送ると、城に入る。
すると、城に入ってすぐのところにシルヴィアが立っていた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
シルヴィアは恭しく、頭を下げる。
「ああ。俺達の部屋にヒラリーを呼んできてくれ」
「かしこました」
俺達はシルヴィアに任せ、部屋に戻った。
部屋に戻ると、マリアが淹れてくれたお茶を飲みながらまったりする。
「あー、疲れた」
「本当ね」
「当分はゆっくりできますねー」
ゆっくりできるといいなー……
俺がどうなるかなーと思いながらお茶を飲んでいると、ノックの音がし、すぐにヒラリーが部屋に入ってきた。
「ロイド、戻ったか!?」
ヒラリーはずかずかと速足で俺達のもとに来る。
「戻ったぞ。もちろん、ケアラルの花も採ってきた」
俺はカバンから花を取り出し、テーブルに置いた。
「おー! これがケアラルの花かー! でかしたぞ、ロイド!」
ヒラリーが俺の肩をバンバンと叩いてくる。
「痛いわ。あと、ジャックがラウラを呼んできてくれる。ラウラを待とう」
「そうか、そうか」
ヒラリーが嬉しそうに座ると、マリアがお茶を用意する。
「こっちは何かあったか?」
「後で鬼ババから説教を受けろ」
伯母上か……
というか、鬼ババって浸透してるのか?
ヒラリーの方が年上なのに……
まあ、マイルズがそう呼んでいるからだろうな……
俺達がお茶を飲みながら旅の話をしていると、部屋にノックの音が響いた。
「入れ」
俺はどうせシルヴィアだろうと思い、入室を許可する。
「失礼します。ラウラ様が参られましたのでお通ししました」
予想通り、シルヴィアが扉を開け、報告してきた。
「ご苦労。ラウラ、入れ」
「はいはい。おかえり」
婆さんが部屋に入ってくる。
「ただいま」
「ただいまですー」
リーシャとマリアが挨拶を返した。
「ラウラ、この花でいいな?」
俺はテーブルに置いた花を指差しながら確認する。
「ああ、いいよ。これで薬が作れる」
ほっ……
間違えてなくて良かった。
「薬はいつできる?」
「準備はほとんどできてるから明日にはできるよ。じゃあ、私は急いで残りの作業をする」
婆さんはケアラルの花を取ると、部屋を出ていこうとする。
「あ、待て。お前に手紙を預かってきた」
「手紙?」
婆さんがこちらを振り返った。
「カサンドラから」
「…………そうかい」
婆さんは嫌そうな顔をしながらも踵を返して近づいてきたのでカバンから手紙を取り出す。
「ほれ。あと、ヴィリーからの伝言。元気でやれってよ」
「はいはい」
「それとさー、お前、マジでそのババアの姿をやめろよ。カサンドラを見ていたら脳が混乱したわ」
親子なんだろうが、カサンドラとヴィリーの方が子供と思ってしまう。
「気が向いたらね。とにかく、ありがとう。薬を作り終えたら読んでみるよ」
婆さんは手紙をしまうと、部屋を出ていった。
「あー、後は待つだけだな」
「そうなるな。よくやったぞ、ロイド。それにリーシャとマリアも」
ヒラリーが褒めてきた。
すると、またもや、ノックの音が部屋に響く。
「シルヴィア、なんだ?」
俺が声をかけると、そーっと、扉が開かれ、申し訳なさそうな顔をしたシルヴィアと表情を一切変えていない真顔の伯母上が立っていた。
「3人共、お帰りなさい」
伯母上は歩いて俺達のもとに来る。
「どうも……」
「ロイド、あなたは何をしているのですか?」
伯母上が俺の前に立ち、見下ろしながら聞いてきた。
「ケアラルの花を採りにいった」
「ええ。ヒラリーから聞きました。私が聞いているのはエーデルタルトの第一王子ともあろう者が何故、そのようなことをしたのかです」
でしょうね。
「伯父上を救うためです。他に理由は要らないでしょう」
「それはあなたの仕事ではありません」
「伯母上……では、私に見捨てろと? 私はエーデルタルトの王族に生まれ、エーデルタルトの次期王として育ちました。そして、苦しんでいる身内を見捨てろとは教わっておりません。身内すら救えない者がどうして民を救えましょう」
「王は時に身内を切り捨ててでも国のために動くのです」
正論だ。
実に正論だ。
「それはウォルターの理論です。我がエーデルタルトは違います。どちらかなどという選択はありません。すべてを得るのです。たとえ、傲慢と言われようが、世界に嫌われようが、欲しいものはすべて得るのです。これがエーデルタルトの栄光であり、高潔なのです。我らの生き方は何人たりとも否定できない」
強者はすべてを得るのだ。
「ハァ……リーシャ、マリア。あなた達は何故、ロイドについていきました? あなた方は嫁入りを控えています。危険なことがあったらどうするのですか?」
「お言葉ですが、王妃様。危険なことが起きるということは殿下が危険ということです。そうなれば、わたくしに未来はありません。どちらかが助かるなどというものはないのです。2人共生きるか、2人共死ぬかの二択です」
伯母上が眉をひそめて、額に手を持っていく。
頭が痛そうだ。
「マリア、あなたも同意見ですか?」
「式も挙げてないのに未亡人は嫌です」
「まだ式を挙げてないのなら未亡人ではないでしょう…………いえ、いいです。ハァ……」
伯母上が何かを察した。
「伯母上、黙って城を出たことは謝罪します。ですが、私達は間違ったことをしておりません」
「わかっています…………ご苦労でした。長旅でしたでしょうし、少しの間、休みなさい」
伯母上はそう言うと、額に手を当てたまま、部屋から出ていった。
「頭が痛そうだなー」
「だろうな」
ヒラリーがうんうんと頷く。
「相変わらず、苦労する人だねー」
「こう言ってはなんだが、陛下がああいう人だからな。自然とリネットがこの役割になる」
伯母上は別に俺達を責めているわけではないし、むしろ、夫を救ってもらって、感謝しているだろう。
だが、誰かが言わないといけない。
そして、それを言える人が伯母上しかないのだ。
だって、伯父上は隠れてお小遣いをくれるような人だし……
「優しい人なんだが、優しすぎて、夫選びを間違ったな」
「お前、それを絶対に他所で言うなよ」
言わんわ。
――――――――――――
明日も投稿します。
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