第056話 身分


「とにかく、ララとかいうティーナの妹を買えばいいんだな? 特徴は?」

「かわいい妹ね」


 黙れ、金貨20枚。


「メルヴィン、詳細な特徴を教えろ。間違って変なのを買ってきて困るのはお前達だ」


 俺は妹バカな姉を無視し、メルヴィンに聞く。


「まあ、可愛らしいというのは合っている。まだ10歳で身長はそっちの黒髪の子よりも小さい。髪は肩にかからないくらいだな。あと、顔つきがティーナにそっくりだ」


 まあ、姉妹だしな。


「体つきは? デブか?」

「肥満体型ではない。むしろ、痩せすぎなくらいだな」


 ふーん、それに加えて犬族という情報があればいけるかな……?


「いいだろう。とりあえず、奴隷商のところに行って、値段なんかを確認してくる。買えそうなら買う」

「頼む。こちらも魔石を用意しておく」

「よし、では、早速、帰って奴隷商のところに行ってくる」


 早い方が良いだろう。


「あ、ねえ、例の罠をもうちょっとくれない?」


 ティーナが要求してくる。


「痺れ罠か?」

「それそれ。タイガーキャットで食いつないでいるけど、やっぱり肉食動物より草食動物の方が美味しい」


 まあ、気持ちはわからんでもない。

 なにせ、俺らも狼を食べたし。


「いいぞ。このくらいならいくらでもやる」


 俺はカバンから痺れ罠の護符の束を取り出した。


「…………多くない? なんでこんなにあるの?」

「逃げる時に便利なんだ。走りながらこれを後ろにばら撒けば追手が痺れる。そういう風に使ってもいいぞ」


 どうせ奴隷を救出した後に逃げるわけだし。


「…………ありがとう。恩に着るわ」


 ティーナがしみじみと礼を言う。


「そう思うならせいぜい派手に暴れてくれ、金貨20枚」

「あー、殴りたい……」

「殴ってもいいぞ。その分、買った妹をかわいがってやるから」

「私の中のエーデルタルトがゴミクズに変わっていくんだけど……」


 リーシャのせいだな。


「テールよりかはマシだ。さて、リーシャ、マリア、戻ろう」


 俺は立ち上がると、リーシャとマリアに声をかける。


「そうね」

「早く戻りましょう。お腹が空きました」


 もう昼を跨いだかな?


「先に宿に戻って、何か作ってもらうか。携帯食料より、そっちが良いだろ」

「そうしましょう」

「せっかくですしね」


 携帯食料はいつでも食べれる。

 だが、魚料理はこういう時でないと、食べられないのだ。


「じゃあな。美人キツネと犬っころのどっちかはわからんが、連れて戻ってくるから」

「あなた達って、素で差別するよね……」

「知るか。差別されたくなかったら礼儀作法をしっかりしろ」


 まったく……

 本当に茶も出さんとは……

 あの二流貴族でも出したというのに。


 俺は最後にチラッとキツネ美人を見て、小屋を出た。

 そして、広場を抜けると、森を抜け、町に向かって、広野を歩いていく。


「一番偉いのはあのキツネさんですよね?」


 広野を歩いていると、マリアが確認してきた。


「そうだな。あれが本当の代表でメルヴィンはその護衛だな」


 小屋を建てたのは代表が女性だったから。

 メルヴィンだったら小屋は必要ない。

 まあ、侍らしている女を抱くためとも考えられるが、そんな状況ではない。


「普通に考えれば、怪しい人族との会合に自分の妻や妾を同行させないからね」


 リーシャが言うように失礼だし、何より危険だ。


「ということは最初に頼んできたキツネ族のジュリーさんはお偉いさんということですね?」

「妹って言ってたし、そうだろう。多分だが、あいつらが逃げずに奴隷を救出しようとしているのはジュリーのためだな」


 普通はこの状況なら仲間を置いて逃げる。

 それほどまでに救出作戦というのはリスクが大きい。

 だが、あいつらにはそれができない理由がある。

 それがジュリーなのだろう。


「ただのお偉いさんではないですね…………」

「相当、上の階級だろう。下手をすると、王族も考えられる」


 それほどまでにあのキツネ女は他の者とは違っていた。


「隠す気もなかったわね。私達が気付いたことも気付いている。それどころか私達が貴族の中でも上な身分なことにも気付いているわね」


 俺もそう思う。


「実際にどうかはわかりませんが、恩を売っておく価値はありますね」


 さすがは人に取り入るのは得意なマリアだ。


「そういうことだ。よくわからない種族ではあるが、コネクションができたし、恩を売れる。しかも、俺達は楽に脱出できるときたもんだ。メリットしかないな」


 本当は値段にもよるが、奴隷の1人や2人なら自費で買っても良かった。

 だが、向こうが魔石で払ってくれるということなのでこっちに損がまったくない。


「ただ、殿下。買った奴隷を可愛がってはいけませんよ」


 マリアが忠告してくる。


「殺すか?」


 俺はマリアの忠告を受け、婚約者に聞いてみる。


「殺して市場にさらすわね」


 怖っ……


「…………ちなみにだが、マリア。もし、お前の旦那が女奴隷を買ったらどうする?」

「殺します。この世に必要のない者です」


 即答だよ…………

 そら、イカレ女って言われるわ。


「側室や妾がよくて、奴隷がダメな理由がわからん」


 同じとは言わんが、似たようなものだろ。


「側室や妾はそれなりの身分ですので上下関係がわかっています。ですから正室を尊重し、分をわきまえます。ですが、汚らわしい娼婦はそういうのを無視して、夫を奪おうとします。そんな売女は不要な存在でしょう」


 温厚なマリアですらこの発言……


「正室には正室の、側室には側室の役割というのがあるわ。それを破るのは死罪以外にありえない」


 めんどくせー……


「いっそ、正室だけにすりゃいいんだろ?」

「そういうわけにもいきません。跡取りを産めるかの問題もありますし、貴族ならば政略的な意味もあります。それに殿下がどうしてもと望んだ場合、これを拒めば裏でこっそりということがありえます。そうなって、惨劇が起こすくらいなら側室や妾とし、正室の支配下に置いた方が良いのです」


 惨劇は嫌だなー……


「お前の旦那が側室を持ったらお前の支配下か?」

「そうはなりません。これは上流階級の話です。私達みたいな下流貴族は普通に一夫一妻です。たまーに町の豪族の娘を妾にする程度ですね。どちらかというと、私みたいなのは上流貴族の側室か妾です」

「それでいいん?」

「田舎の正室より都会の側室です。自分の子も優遇されますしね」


 それで王都の貴族学校に通ったわけか。


「良い人は見つからなかったのか?」

「妾の誘いはありましたけど、妾は嫌です。妾の子はその家の子と認められませんから」


 誘いがあったんかい……

 誰だ?

 ちょっと気になる。

 エーデルタルトに帰ったら聞きに回ろうかな?


「お前は器量が良いから良い旦那が見つかるよ」

「そうだと良いんですけどねー。最悪はリーシャ様の侍女か殿下の妾です」


 最悪言うな。

 これまでの献身を評価して側室くらいにはしてやるわい。

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