第055話 誰かさんは国家予算
俺達がそのまま待っていると、ベンが戻ってきた。
「悪い、待たせたな」
ベンが俺達のもとに戻ってくると、謝ってくる。
「ロイド、後ろを取られたわよ」
リーシャが背後をチラッと見ながら教えてくれた。
「放っておけ。俺達の後ろに誰かがいないかの確認だろ」
「…………まあ、あの程度ならどうとでもなるか」
獣人族の気持ちもわからんでもない。
あれだけ教えてやったんだから俺達がこいつらの基地の場所を探るためにいると思うだろうし。
「ベン、案内しろ」
「ああ…………ついてきてくれ」
俺達は前を歩くベンについていく。
そのまま歩いていくと、広場があり、簡易というかボロボロの布でできたテントがちらほらと見えている。
だが、獣人族の姿は見当たらない。
「ぼろいなー」
「この森を西に行くと、海岸に出る。そこに漂流した物で作ったんだ」
大変だねー。
こいつらを見ていると、本当に墜落……不時着した時を思い出す。
「さっさとお仲間を回収して、こんなところを離れな」
「そうするつもりだ…………あそこに我々の代表がいる」
ベンがそう言って指差した方向には木材でできた小屋がある。
他の住処はボロボロのテントなのに代表とやらの住処だけは小屋……
「ロイド」
リーシャが俺の名前を呼ぶ。
「わかってる」
こんなところに小屋が建っていたわけではない。
こいつらが木を切り、わざわざ小屋を作ったんだ。
俺達はベンを先頭に広場を歩いていき、小屋の前まで来た。
「メルヴィン殿、例の者達を連れてきた」
ベンが小屋に入る前に声をかける。
「ああ、入ってくれ」
小屋の中からそこそこの年齢の男の声が聞こえた。
ベンが許可を得て小屋に入っていったため、俺達も小屋に入る。
小屋の中には初老の獣人族の男が座っており、その横には2人の若い女性が座っていた。
しかも、2人とも着ているものはぼろいが、美しく品があった。
この3人はパッと見では権力者とその妻か妾のように見える。
「よく来てくれた。私がメルヴィンだ。見ての通り、歓迎ができる状況ではないため、歓迎は省かせてもらう」
メルヴィンとやらが座ったまま俺を見上げる。
「お前がこいつらの代表でいいのか?」
「ああ。私は犬族の長であり、ここをまとめている」
そういや、ベンやティーナと同じ犬耳だな。
「ふーん……」
俺はメルヴィンから目を切り、メルヴィンの左隣に座っている女を見る。
メルヴィンの両隣に座っている女は両方とも美人だと思う。
だが、左隣のキツネ耳の女はちょっと雰囲気が違う。
「早速だが、町の地図を作りたい」
俺がキツネ女をじーっと見ていると、メルヴィンが本題に入った。
「いいぞ。紙は…………なさそうだな」
漂流物に紙があるわけがない。
「すまん。ないな」
俺は仕方がないのでカバンから紙とペンを取り出し、紙を床に置く。
「えーっと、町の南に門があってー、近くにギルドか……」
俺は紙に町の地図を描いていく。
「町の中央が広場よね」
「ですねー。その先が海というか港です」
リーシャとマリアも加わり、町の地図を描いていった。
「東の住居区は行ってないからわからんな」
「別にいいでしょ」
まあ、奴隷救出には関係ないか。
ぼやの火を仕掛けるくらいだし。
「ってか、肝心の奴隷商の店がわからん」
「そういえば、どこかしら?」
「一度、町に戻って調べてみますか? 奴隷市開催まで時間はありますし」
まあ、それでもいいかなー。
「奴隷商の店なら私がわかる。私はそこから逃げてきたからね」
ティーナがそう言って、腰を下ろし、俺が描いた地図を覗く。
「どこだ?」
「えーっと、港から降りてすぐだったからこの辺かな?」
ティーナが指差した場所は商船が停泊する港の先であり、俺らの宿からも割かし近かった。
「後で確認してみるか……」
「いっそ、一人くらい買うのはどうです? そうしたら奴隷商の店の中がわかりますよ」
マリアが提案してくる。
「うーん、良い手ではあるが……奴隷っていくらだ?」
俺はリーシャとマリアを見る。
「知らない」
「奴隷を買うことなんてないですもんね」
あるわけがない。
「お前のところは農業奴隷とかいないのか? ぶどう園は大変だろ」
マリアの領地のぶどう園はかなり広いはずだ。
「大変ですけど、奴隷に任せていい仕事ではないです。高級品ですし、奴隷が踏んだぶどうのワインを飲みたいですか?」
飲みたくない…………ん?
「え? ぶどうを踏むの?」
「踏みます」
「マジ?」
えー……
「お前、どこぞの奴が踏んだワインを俺達に配ったん?」
「いや、ワインはどこもそうしてますよ。ロイドさんの分はちゃんと私と妹が踏みました」
……………………。
「……マジでいらん報告だったわ」
「ちゃんと洗って清潔ですよ」
当たり前だ!
「なんかお前に足踏みされた気分になるな」
「そういうものなんですから仕方がないですよー。陛下だって飲んでますよ」
うーん、あんまり考えないようにしておこう。
考えすぎると今後、ワインが飲めなくなる。
「まあいいや。金貨10枚くらいで買えるかな?」
「さすがに安すぎない?」
「そうかー? マリア、お前、ティーナをいくらで買う?」
俺がそう言って、ティーナを見ると、マリアもティーナを見る。
「えーっと、金貨20枚?」
安くね?
「お前、ティーナの価値を自分の家のワイン以下の値段にしたか」
「そんなこと言われてもわかりませんよー」
マリアが困った顔をした。
「ティーナは容姿もそこそこだし、運動神経がいいわ。教育すれば護衛を兼ねた侍女にできるでしょうし、もうちょっと高いと思うわね」
容姿はそこそこらしい。
まあ、リーシャは絶対に女の容姿を褒めることはないから結構な評価だ。
「じゃあ、いくらだ?」
「金貨50枚かな……」
「そんなもんかねー」
まあ、所持金的には払えんこともない。
「ねえ……本人を前にして、値段をつけるのをやめてくれないかな?」
ティーナはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
「参考だよ、参考。しかし、金貨50枚だとなると、所持金がかなり減るな……」
「そこまでして買うメリットがないわよね」
こいつらの作戦が成功しようが失敗しようが俺達への影響は少ない。
要は兵士の目を逸らしてくれればいいわけだし。
「金は払うから買ってきてくれんか? 私達的には同胞を救えるし、作戦面でも内部情報を知っている者が欲しい」
俺とリーシャが相談していると、メルヴィンが要望を出してきた。
「金? 持ってんの?」
あるようには見えんが?
「金はないが、タイガーキャットの魔石がある。それで払おう」
うーん、まあ、銀貨5枚で売れるしな。
「ふーん、それでいいけど、数は買えんぞ。そんなに買ったら怪しまれるし」
獣人族の奴隷をぞろぞろ連れて歩くなんて怪しすぎる。
「わかっている。こちらもそこまで魔石を所持しているわけではないし、1人でいい」
「じゃあ、買ってやるよ。どんなのを買えばいいんだ? 強そうなのか? 逃げ切れそうにない弱そうな奴か?」
強い奴を買えば戦力になるし、弱そう奴は救出後に足手まといになるから早めに確保するという考えもある。
「…………ジュリーという少女を頼みたい」
少女…………弱そうなのかね?
「名前を言われても店主にそう伝えるわけにはいかん。特徴を教えろ」
「キツネ族の子だ」
キツネ……
俺とリーシャとマリアの3人はメルヴィンの隣に座っているキツネ耳の女を見る。
「この者の妹だ」
へー……
「買えるか? この女を見る限り、高そうなんだが……」
このキツネ女は普通じゃない。
美人なのはもちろんだが、明らかに庶民ではないのだ。
「…………買えたらでいい」
「ふーん……買えなかったらどうする? こっちで適当に選んでいいか?」
「いや、ララという犬族の娘を頼む。ティーナの妹だ」
俺とリーシャとマリアの3人はメルヴィンにそう言われて、ティーナを見る。
「まあ、買えそうだな」
「ええ、そこまで高くはないでしょうね」
「そんな気がします」
うんうん。
「助けてもらったことには感謝しているけど、はっきり言う。私はあなた達が人族とかを抜きにしても大っ嫌いだ」
だって、キツネ女を見た後だとねー……
俺はなんとなくリーシャを見る。
リーシャは俺と目が合うと、いつものようにかっこつけて髪を手で払った。
「ふむ…………」
俺は次にキツネ女を見る。
すると、キツネ女がウィンクをしてきた。
「金貨100枚程度か?」
「いやー、200枚はしますって」
そんなにするかね?
「あー、こいつら、殺したいのう」
キツネ女が初めてしゃべった。
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