第166話 会合……そして、ウォルターへ
俺がコンラートに手紙を渡し、しばらくすると、ジャス陣営に動きが見えた。
「あれは……ジャス王だな」
王様がつぶやいたので遠見の魔法を使い、ジャス陣営を見てみる。
すると、ジャス陣営から王らしき人物とコンラート、そして、リーシャとマリアが歩いてきていた。
「陛下、話し合いの場っぽいぞ」
「みたいだな。オリヴィアは……連れていけんな。ラウラ、ロイド王子、共をせよ」
「陛下、護衛は?」
兵士がエイミル王に尋ねる。
「ジャス王が連れていないのにこちらが連れていけるものか。臆病者の誹りを受ける」
「しかし……」
「余を誰だと思っている。何も問題ないわ」
Bランクの冒険者だもんな。
「私がついてるから安心しな」
ラウラもまた兵士を説得する。
「ババアとジジイでウチのリーシャに勝てるかねー?」
「あんたは黙ってな」
はいはい。
「参るぞ」
エイミル王が陣を出て、歩いていったので俺とラウラも続く。
そして、お互いの王が歩き続けると、顔を合わせた。
「久しいな、エイミル王」
ジャス王がエイミル王に挨拶をする。
「うむ。なんだかんだで2、3年ぶりになるかな?」
「もうそんなに経つか…………さて、長々と話すのもなんだし、本題に入ろう。手紙は読んだ。我が子のコンラートの証言とも一致しているし、そうなのだろう」
「うむ。どうやら教国の手の者による計略のようだ」
「教国か……めんどうな。まあ、いい。とにかく、こちらとしても停戦に賛成だ。そもそも戦う意思はない」
すんなりいきそうだな。
さすがは平和な国同士だわ。
「では、お互い、直ちに兵を下げよう」
「そうだな。しかし、これをどう言い訳する? 実は国民に漏れ始めている」
まあ、長すぎたし、国民も勘付くだろう。
「そうだな…………」
エイミル王が悩み出す。
「大規模な合同演習ってことにしろ」
どうでもいいから早くしてくれ。
「合同演習? それで通るか?」
エイミル王が聞いてくる。
「そう発表した後にオリヴィアとコンラートの婚約を発表し、盛大に祝え。それでバカな国民は疑うこともなく、ただ浮かれるだけだ」
「婚約か…………オリヴィアは修道院に送るつもりだったが」
やっぱり修道院送りか……
「それはやめろ。自らエイミル側に不備がありましたって宣伝するようなものだぞ」
「うーむ…………ジャス王、どう思われるかな?」
エイミル王がジャス王に意見を求める。
「こちらとしても問題ない。これはコンラートが悪いからそちらの言う通りでよい」
男女の問題でどちらが悪いかというと、手を出した方が悪い。
ウチの女共はそう思わないけど……
「わかった。では、そのように進めよう。詳細は後日」
「うむ。こちらから正式に使者を送る」
「では、そのように」
話が纏まったか……
普通は賠償金やらなんやらで揉めるんだが、平和な国は楽でいいね。
「終わったか? じゃあ、俺からも一つ頼みがある。俺がここにいることはエーデルタルト王に言わないでもらいたい」
困るんだよー。
「それについてはギリス王から聞いている」
「こちらも聞いている」
あれ?
エイミルだけでなく、ジャスにも通達が行っていたのか……
ギリス王、ありがとう。
「ならいい。後は両国でやってくれ。俺達はウォルターに向かう」
「それも聞いている。しかし、どうだ、少しの間、滞在せんか? 歓迎するぞ」
ジャス王が魅力的な提案をしてきた。
「ご厚意には感謝する。だが、すぐに発つ。実は今回の首謀者からさっさとウォルターに行くべきと助言を受けた。何かありそうなので急ぐ」
「うーむ……ウォルターか……特に情報は入っていないが…………まあ、わかった。急ぐならば止めはせん。こちらからアダム王に通達しておこう。それで特に問題なく進めると思う」
「感謝する」
ジャス王、良い奴。
「ラウラ、送っていけ。徒歩は時間がかかろう」
「そうだね。あまり近づきたくない国だけど、送るくらいはしよう」
エイミル王、良い奴。
ついでに婆さんも。
「悪いな。では、俺達はここで失礼する。両国の平和を祈ろう。じゃあな、コンラート。婚約者に殴られてこい」
「…………私なら売女共々、斬り殺すわ」
「…………私も毒酒を贈ります」
リーシャとマリアがコンラートに物騒なことを言いながらこちらに来る。
「君達はお幸せに……」
コンラートが暗い顔で別れの挨拶をした。
「バカ息子が! お前も幸せになるんだ! 帰るぞ!」
ジャス王はコンラートの失言を聞き逃さず怒鳴ると、自分の陣営に引き返していく。
それを見た俺達もエイミル陣営に戻っていった。
俺達はエイミル陣営に戻ると、エイミル王に別れの挨拶をし、ラウラの馬車に乗り込んだ。
「さて、行くか。ラウラ、頼むわ」
「はいよ」
馬車はアダムに向けて動き出す。
「そっちはどうだった?」
リーシャとマリアに聞いてみる。
「なーんもなかった。暇ね」
「陣に着いてからもやることがなかったですしねー。殿下達はどうでした?」
マリアが聞き返してきた。
「色々あったな……」
「敵の魔術師が教国の隠密って本当ですか?」
「だったな。ほれ、宿屋のカトリナだよ。メイド服を着てた奴」
「あー、あの子でしたかー……どおりで殿下に色目を使っていたわけです」
使ってないって。
あれは営業だって。
「やはりあの媚び女は斬るべきだったわね」
「物騒だなー」
「あなたが好きそうな子だったもの」
そんなことないってー。
「顔で見逃してたね……」
婆さんが油を注いできた。
「ほらー! やっぱりだー!」
「やはり私がそっちに行くべきだったわ…………今度会ったら殺す」
うーん、シルヴィがあたおか女と呼ぶわけだわ。
宿屋でもすげー睨んでたもんなー……
「あんな女なんかどうでもいいだろ。それよりもようやくウォルターだぞ。ウォルターは水がきれいな国だから見どころもたくさんある」
話を逸らすことにした。
「おー! 楽しみですねー。やっぱり水の神殿が見たいです」
「確かに一度は見てみたいわね」
水の神殿は水の上に浮かぶ幻想的な建物だ。
まあ、見るも何もそこで式を挙げるんだがな……
「ラウラ、急ぎで頼むぞ」
「はいはい。それより、オリヴィア様のことをありがとうね」
婆さんがお礼を言ってくる。
「何がだ?」
「コンラート王子との婚約のことだよ。あの子は相当、熱を入れてたからね」
まあ、そんな感じはした。
コンラートは遊びって感じだったけど。
「気にするな。エイミル王もジャス王も考えていたことだろうが、お互いに言い出せない感じだった。だから第三者の俺が言ってやったんだ」
「そうかい。とにかく助かったよ」
「どうでもいいけど、お前、指輪を返せよ」
ローンの村でオリヴィアを探すために指輪を渡したんだが、返してもらってない。
「はいよ」
婆さんが指輪を投げてくる。
俺はそれを受け取ると、指輪をじーっと見る。
そういえば、結婚するなら指輪を買わないといけない。
どうしよう…………
絶対にこの指輪を売った金で買うと、嫌がるだろうし……
伯父上にたかるか……
――――――――――――
ここまでが第4章となります。
おかげさまでここまで書くことができました。
引き続き、第5章もよろしくお願いいたします。
ちょっと宣伝です。
また改めてお知らせしますが、本作の2巻が来月(6/10)に発売します。
書影も公開され、予約受付中なので是非ともお買い求めください。
https://kadokawabooks.jp/product/haichakuouji/322402000476.html
2巻では改稿により、現在の謎の一つがわかります。
是非とも買って読んで頂けると幸いです。
他作品も含めて今後ともよろしくお願いいたします。
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