第193話 エルフ


 俺達はその後もジャックから様々な薬草なんかの話を聞きながら道を進んでいた。

 ジャックは薬草を始め、毒に効く草、食べられる野草なんかを教えてくれるが、正直、差がまったくわからなかった。


「ジャック、無理だ。全然わからん」


 俺は草を教えてくれているジャックに言う。


「まあ、そんな気がするな……やはりお前らには採取の仕事は無理だ」

「魔法があるしなー。討伐の方が楽に感じる」

「普通は逆なんだがな。薬草はこのくらいでいいか」


 ジャックはレクチャーしながら一人で薬草を採取していた。

 俺達はそれをすごーいって言いながら見ていただけだ。


「もういいだろ。それよりエルフの集落とやらはまだか?」

「俺も集落に行ったこと自体はないんだ。でも、相当、奥だな」


 行ったことはないけど、場所は知っているらしい。


「まあ、歩くか……幸い、モンスターが出てこないし」

「モンスターはエルフが狩っているんだろうな。とはいえ、狼や熊は出るかもしれんから気を付けろよ」


 どっちも良い記憶がないなー。

 まあ、熊の方はジャイアントベアっていうモンスターだったけど。


 俺達はその後も道を進んでいく。


「何か来るわね……」


 俺達が進んでいくと、リーシャがポツリとつぶやいた。


「ジャック、何かを感じるか?」

「何も。お前さんは?」

「何も」


 魔力は感じない。

 まあ、リーシャの異常性は今さらだから何も言うまい。


「リーシャ、人か?」

「多分ね。木の上を移動している……1人……いや、私達の後ろにもう1人回ったわ」


 異常……


「ジャック、エルフか?」

「だと思う。木の上を巧みに移動するのがエルフの特徴だ」

「猿か?」

「怒るぜ?」


 だろうな。

 しかし、木の上を巧みに移動するなんて、ラウラの婆さんからは想像がつかんな……


 俺達は上を見上げながらその場で待つことにした。

 すると、木を移動する人影が見えてくる。

 その人影は木々の枝を人とは思えないスピードで移動しているのだが、音も揺れも起きていない。


 俺がすごいなーと思いながら観察していると、木々を移動する男のエルフと目が合った。

 すると、エルフの動きが止まり、そのエルフは信じられないものを見る目で俺達を見てきた。


「何故、わかった?」


 木の上の男はすぐに我に返り、睨んでくる。


「誰だ、お前? 何か用か?」


 俺は逆に睨み返した。


「こっちが聞いている」

「賊に言うことなんてない」

「誰が賊だ!」


 男が怒る。


「音もなく忍び寄ってきて何を言う? 後ろにも一人回ったな? 俺の国ではこういうことをする奴は暗殺者か賊だ。当然、どっちも死刑だ」

「ッ!」


 男が顔を歪めた。

 さすがにエルフなだけあって、歪めた顔も絵になっている。


「死ぬか跪いて命乞いのどちらかを選ばせてやる。人の妻を襲おうとした強姦魔め」

「ちょっと待て! 賊だの強姦魔だの言われる筋合いはない!」

「なら、暗殺者か。このエーデルタルトのロイド・ロンズデールの首を取ろうとはいい度胸だ。エーデルタルト一の魔術を見せてやろう」


 俺はそう言いながら手のひらを上に掲げ、火の玉を浮かせる。


「や、やめろ! そんな魔法を森で使うな! 森を燃やす気か!?」


 火の玉を見ただけでこれがどんな魔法かわかったのか……

 確かに魔法に優れている。


「そのつもりだ。俺のフレアで森ごと暗殺者を一掃してやるわ」

「くっ! わかった! 降りる! …………おい! お前も下がれ! エーデルタルトのクソ貴族だ!!」


 男は俺達の奥に向かって叫んだ。

 そして、すぐに降りてくる。


「リーシャ」


 俺は男が降りてくると、リーシャを見た。


「後ろの気配は消えたわ」


 本当に下がったか……


「くそっ……エーデルタルトの貴族がこの森に何の用だ?」


 俺は男から殺気が消えたため、魔法を止める。


「ラウラっていうエルフを知っているか?」

「ラウラ? ラウラ・アンテスか?」


 男が意外そうな顔で聞いてくる。


「んー? そういえば、苗字を聞いていなかったわ。ジャック、知ってる?」

「知らん。あいつ、苗字を名乗ったことがないし」


 名乗っとけよな……


「えーっと、100年以上生きてるエルフだ。変わり者で泣き虫な女」

「ふむ……ラウラ・アンテスで合ってると思う。かなり前に自分の偉大な魔法を世界に知らしめてくるって言って、森を出た」


 あ、ラウラの黒歴史っぽいぞ。


「多分、そいつだわ」

「そうか……ラウラがどうかしたのか? 迷惑をかけられたって言われても知らんぞ」

「いや、これを親に渡すように言われた」


 俺はカバンからラウラからもらった髪の束を取り出す。


「髪……ラウラの、か…………あいつは死んだのか?」


 男は一瞬、驚いたような顔をすると、悲し気な顔で聞いてくる。


「ああ」

「そうか…………何故、お前がこれを?」

「実は冒険者だったラウラに命を助けられてな。ラウラから死に間際にこれを家族のもとに届けてほしいと頼まれた。命の恩人だし、恩に報いるのがエーデルタルトの教えだから家族に渡しにきたんだ」


 こんなもんでいいだろ。


「感謝する。また、こちらの無礼を詫びよう」


 男は素直に礼と謝罪をしてくる。


「気にするな。奴隷狩りがどうたらこうたらって町で聞いたし」

「……そこまでわかっていて、あの態度か?」

「それはそれ。これはこれ。この俺に不敬を働くものはそれだけで死罪なのだ」


 王子様だし。


「なるほど。噂通りのエーデルタルト貴族だ…………まあいい。ついてきてくれ。ラウラの母親に会ってほしい」

「はいはい」


 俺達はエルフの男の後についていくことにした。


 うーん、こんな森の中にエルフ共にまで悪い噂が広まっている……

 どうにかせんといかんな、これ。

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