第223話 庇護欲を感じるか感じないか


 マルコのおっさんは穏健派の代表らしい。


「それで争いはどういう感じになっているんだ?」

「膠着状態だ。このまま猊下が亡くなれば、このファベールで内乱だな」


 良いと思う。

 そのまま消えてくれ。


「どっちが勝つ?」


 シルヴィに聞いてみる。


「7体3で強硬派でしょうね。もちろん、7が強硬派です」

「私は8対2だと思っている。もちろん、2が私だ」


 ダメじゃん。

 せめて、6対4にしてもらわないと。


「人徳の差か?」

「戦力の差だ。強硬派はその名の通り、物事を強硬的に進めるから無駄に武力が大きい」


 レナルド・アーネットみたいな奴を集めてるのかね?


「ふーん、俺がそのもう一人の大司教を殺せば、お前は万々歳か?」

「そうなるな。だからいくらでも手助けをしよう。強硬派の教えを広めるというのはどうしても許容できない。ただでさえ、周辺国や大国から疎まれているのにこれ以上はマズい。そもそも信仰とは押しつけるものでなく、自分で見つけるものだ」


 穏健だなー。


「ふむふむ。じゃあ、そのもう1人の大司教に会わせろ。火刑に処してやる」

「そう簡単には会えん。会えるなら私がシルヴィを使って殺している」


 ふーん……


「じゃあ、どうするんだ?」

「……どうするんだ?」


 マルコがシルヴィを見る。

 どうやらマルコには策がないらしい。


「方法はいくつかあります。一番簡単なのは旦那様の火魔法でこのファベールの町を火の海することです」

「それだな」


 一掃してしまえ。

 ついでにテールの貴族のふりをしよう。


「やめてくれ」


 冗談だよ。


「他にないか?」

「うーん、どうでしょう? 少し考えたいですね」


 シルヴィはチラッとマリアを見た後に考え込み出した。


「良い案を思いつけよ」

「かしこまりました。今日はこの辺にしましょう。旦那様も奥様も長旅で疲れたでしょうし、今日は休んでください」

「ここに泊まるのか?」


 俺がそう聞くと、シルヴィがマルコを見る。


「すまんが、そんな広さはないし、ベッドもない。この町にも宿屋はあるからそっちに泊まるといい」


 まあ、狭いし、無理か。


「シルヴィ、案内しろ」

「かしこまりました。では、マルコさん、また来ます」


 シルヴィが一礼すると、俺達は屋敷から出た。


「おーっと、旦那様、奥様! あそこに珍しい鳥が飛んでいますよ」


 屋敷から出ると、シルヴィがわざとらしく、空を指差す。


「めんどくせーなー……」


 そう言いつつもちゃんと上を見上げた。

 もちろん、鳥なんかいない。


「あ、雲でしたね」


 そう言うシルヴィを見ると、メイド服から修道服に変わってた。


「はいはい。宿屋に行け」

「かしこまりました。では、案内しますので馬車にどうぞー」


 シルヴィが明るくそう言いながら荷台に乗ったので俺達も馬車に乗り込む。

 俺達が馬車に乗り込むと、すぐに馬車が動き出した。


「シルヴィ、俺達はどういう立ち位置で行けばいいんだ? 冒険者でいいのか?」


 俺は馬車の前の方に行き、シルヴィに聞く。


「あー、実は教国にはギルドがないんですよ。だから仕事目的の冒険者はマズいですね。聖地巡礼に来たということにしてください」

「俺らに信者になれと?」


 嫌だわ。


「フリだけでいいですので。まあ、観光客みたいなものですよ」

「まあ、わがままを言うところでもないか。しかし、ギルドがないんだな……」


 いくら教国が国ではないとはいえ、あっても良さそうなもんだが……


「ないですねー。教国とギルドは相性が悪いんですよ。どこの国にも所属していない組織というのは同じなのに、片や貧乏で片や儲けてますからね。ぶっちゃけて言えば、教国側が冒険者ギルドを嫌っているんです。だからこの町にはギルドがないんです。まあ、ここは教会の兵士がいますし、そんなに強いモンスターも出ませんので冒険者がいなくても特に問題がないんです」


 貧乏だから報酬も少なそうだしな。

 教国もギルドに来てほしくないが、冒険者が集まらなさそうな教国にギルドも来たくないか……

 だからギルドはいまいち教国の情報を掴めていなかったんだな。


「確かに冒険者を名乗るより、巡礼の方がいいな……」

「でしょー」

「今回は貴族設定はやめて、下賎な者設定でいくか……うん、無理だな」


 俺はリーシャを見て、すぐに諦めた。

 どう見ても、リーシャは下賎に見えない。


「言っておきますけど、旦那様もマリア様も無理ですよ。そんなきれいな手をした平民はいません。というか、顔を見れば一発で裕福なのはわかります」


 お前もだな。


「駆け落ちした商人の坊ちゃんにするか……」

「それがいいでしょうね。旦那様、宿屋に着きましたよ」


 シルヴィがそう言うと、馬車がとある建物の前で止まった。


「宿屋に見えんな」


 ただの民家にしか見えない。


「この町で一番まともな宿屋ですよ。あとは雑魚寝の宿屋しかありません」


 それは絶対に嫌だ。


「旦那様はともかく、奥様様方は絶対に無理です。では、私が宿屋に話してきますので少々お待ちを」


 シルヴィはそう言って荷台を降りると、宿屋の中に入っていった。

 俺は顔を引っ込め、馬車の中に戻る。

 すると、リーシャは剣を眺めており、マリアは何か考え事をしているようだった。


「どうした、マリア?」

「いえ、ちょっと……」

「ふーん……」


 俺はマリアのそばに近づくと、隣に座る。


「私、教皇がそんな状態なのも知りませんでしたよ」


 教会から聞いてなかったのか……

 いや、エーデルタルトの教会の連中が知っているかどうかも怪しいな。


「ここはお前が来るべき場所ではなかっただけだ」

「ですねー。殿下とリーシャ様がハイジャックをした時は最悪と思いましたが、ついてきて良かったです」


 マリアが左手をかかげて、指輪を見る。


「お前は絶対に守るからな」

「はい」


 マリアは頷くと、抱きついてきた。


「…………私は?」


 リーシャはその剣を持っていれば大丈夫。

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