第084話 ありえない再会
俺達が身構えていると、どんどんと船が近づいてきて、ついには俺達の船の前で止まった。
「あ……ありゃ、魔導船だな」
船が急にピタッと止まるのは魔導船の特徴である。
あのドクロマークはどうやら魔法陣を兼ねていたようだ。
「えっ……ということは魔術師が乗ってるってこと?」
「マズくないです?」
さすがにこれは想定していなかった。
「大丈夫。さすがにそこまでの魔術師は乗っていないと思う」
優秀な魔術師は船乗りなんかしない。
他に儲ける方法はいっぱいあるからだ。
ましてや、海賊なんかにはならない。
「――そこの船に告ぐー! 何をしているーー!?」
海賊船から大きな声が聞こえてきた。
「お前らは絶対にしゃべるな。あと、俺の前に出るな」
「わかってるわ」
「お願いしますぅ……」
2人は俺の後ろに下がり、隠れた。
「こちらは漂流者だ! 陸までの航路を教えて欲しいのと食料をわけてほしい!」
俺は2人を下げると、海賊船に向かって叫ぶ。
「テールの軍船のようだが、何者だー!?」
「冒険者だー! 軍船を奪って別の国に行こうと思ったら遭難したー!」
俺は正直に言うことにした。
別に海賊にどう思われようが、関係ないからだ。
「そっちに確認に行く! 抵抗はするなー!」
「わかったー!」
俺が返事をすると、海賊船から大量の鉤縄が投げ込まれる。
鉤縄はあちこちに引っかかっていくが、非常に不安定だ。
「結んだ方が良いかー!?」
「今から投げるロープをマストにくくれー!」
海賊船からそういう指示が飛んでくると、他のロープよりも太いロープが投げ込まれた。
俺はそのロープを掴むと、指示された通り、マストに結んでいく。
俺がそうこうしているうちに海賊船は俺達の船を引き寄せ、完全に自分達の船にくっつけた。
すると、数人の剣を持った男が乗り込んでくる。
「へっへっへ。大人しくしな」
一人の海賊がいかにもな笑い方で剣を向けてくる。
「しているだろう。それより、食料を寄こせ。あと陸までの航路を教えろ」
「…………なんでそんなに偉そうなんだ?」
男が拍子抜けし、聞いてくる。
「偉いからだ」
「俺達が海賊ってわかっているか?」
「わかっているとも。お前らが海賊だろうが、軍だろうが、商人だろうが関係ない。下賎の者はただ俺達に必要な物を献上すればいい」
賊は即処刑だが、命までは助けてやろう。
「…………おい、こいつ、貴族じゃないか?」
「…………どう見てもそうだな」
海賊が小声でひそひそと話をしている。
「今ならそれ相応の金も払ってやろう」
喜べ。
「奪えばいいだろ。貴族みたいだが、俺達、海賊だぜ?」
「そうだな。実にその通りだ。お前は賢い。相手が誰であろうと殺して奪えばいい。さらに死体は海に捨てれば証拠も残らない。うん、ものすごく良い手だ」
海賊のくせに実に賢い男だな。
「…………こいつ、ヤバくないか?」
「…………どう考えても俺らを脅しているよな?」
「…………というか、こいつら、海賊じゃね? 白旗上げて襲うって俺らの常套手段だろ」
「…………その場合、俺らが罠にかかったってことか?」
長いヒソヒソ話だな。
「うむ。お前達は実に賢いな! 世界最高の魔術師である俺の次に賢いかもしれん!」
「「「「………………………………」」」」
海賊達が黙った。
「…………なあ、なんでテールの軍船に乗ってんだ?」
黙っていた海賊の1人が聞いてくる。
「さっき言っただろう。軍船を奪って別の国に行こうと思っただけだ」
「いや、なんで奪う? 冒険者は賊ではないだろ」
「俺から見たら似たようなもんだがな。テールはちょっとマズかっただけだ」
ちょーとね。
「…………おい、こいつら、エーデルタルトの貴族だ。船長に報告して、指示を仰いでこい」
「へい」
男は俺達がエーデルタルトの貴族だということに気付いたらしい。
「早くしろよ。俺は腹が減っているんだ。食事の用意もしろ」
「…………厨房に行って、簡単なもんを作るように指示しろ」
「…………へい」
指示をする男も指示をされた男もめんどくさいっていう顔をしている。
「ワインもな」
「ねーよ!」
知ってる。
「使えない賊だ……」
「逆に使える賊って何だよ…………それよりか、待っている間に話を聞かせてくれ」
「構わんが、男が多いな。減らせ。俺の妻に触れるのも見るのも許さん」
こいつらは信用ならん。
「チッ! エーデルタルトのイカレ…………独特の風習か…………おい、お前らは戻れ」
男が指示をすると、3人の男が海賊船に戻り、ここにはこの男だけが残った。
「よろしい。話って何だ?」
俺は男の数が減ったので話を戻す。
「テールって言ったな? どこの町だ?」
「アムールだな」
「ハァ? アムール? お前ら、そんなところから来たのか?」
「というか、ここはどこだ? 俺達は1週間も漂流している」
マジでわからん。
「えーっと、ギリスって国だが、知っているか?」
「ギリス…………」
俺達の目的地だったエイミルよりも遥かに南だ。
めちゃくちゃ通り過ぎている。
「そこまで流されたか……」
「航海士もいないのにこの辺の海を渡るもんじゃないぜ? この辺りは海流がすごいんだ」
ジャックめ!
そういうことは教えとけ!
「そうか…………まあ、テールを出られたことだけで満足しよう」
「お前達はエーデルタルトの貴族でいいな?」
「まあ、それでいいぞ」
「ふーん…………」
男はチラッと俺の後ろのリーシャとマリアを見る。
「死にたいか?」
「いや、なんで女連れ? というか、エーデルタルトの貴族がなんでテールなんかにいるんだよ」
「それはこの偉大な海より広い理由があるのだ」
リーシャが放火した。
「うーん、まあ、その辺はウチの船長に報告してくれ」
「なんでお前らの船長に報告せねばならんのだ?」
知るか。
食料と航路を教えてもらったらおさらばだ。
「いや、ウチの船長は元々エーデルタルトの貴族だったらしい」
は?
「え? そんなアホな……栄えあるエーデルタルトの貴族が海賊なんかをするわけないだろう」
「ふっ……」
しゃべるなと指示をしていたのにマリアが鼻で笑った。
「俺もそっちの嬢ちゃんと同じ気持ちだが…………」
うるせーわ。
「――アンソニー!」
海賊船の方から女の声が聞こえた。
「あ、船長、こいつらです!」
え?
「船長?」
海賊船から聞こえてきたのは女の声だった。
俺がどういうことだろうと思っていると、海賊船から女の姿が見えてくる。
その女は長い黒髪を一本に結び、軍服を着ていた。
女は海賊船から俺達の船に飛び乗ると、俺達を見てくる。
「ふーん……確かに貴族っぽいな」
女は俺を見ると、あごに手を持っていき、思案顔をする。
「でしょ。特に後ろの金髪です。あれは絶対に庶民ではないですよ」
リーシャのことだろう。
「金髪…………」
女はリーシャをまじまじと見る。
「無礼だぞ。エーデルタルトの貴族を語る賊」
「礼もクソもあるか…………ふーん、こいつは見たことがあるね」
女がリーシャを見て、うんうんと頷く。
「船長、マジですかい?」
「見たのはだいぶ昔だけど、この顔は忘れない。当時は5歳とかだったけどな…………スミュールの至宝だろ」
…………リーシャは確かに子供の頃にスミュールの至宝と呼ばれていた。
「どうやら本物のウチの貴族らしいな。どこの家か知らんが、栄えあるエーデルタルトの貴族が海賊に落ちるとはな」
嘆かわしい。
「うーん、スミュールの至宝…………ということは、お前は…………えーっと、兄の方だから……イアンだったか?」
「ロイドだ、ボケ!」
誰がイアンだ!
「あー、そうだったな。懐かしい、懐かしい。私はお前を抱いて寝かせてやったこともあるんだぞ」
は?
「何を言っているんだ、お前は?」
抱くって……
こっちは王子だぞ。
「で、殿下……わたくし、この御方をどこかで見たことがある気がします」
リーシャが俺の腕を引っ張りながら言う。
「え? そうなの?」
「はい…………」
「薄情な男に育ったなー。兄上の教育が悪かったか」
女がそう言った瞬間、リーシャとマリアがその場に跪いた。
「…………ん?」
どうした?
「ロイド、寝かしつけてやった私を忘れたか? というか、その時におねしょをなかったことにしてやった私を忘れるな」
………………………………。
「…………叔母上ぇー!? 何してんだ、あんた!? というか、生きてたんかい!!」
海賊の船長は俺の父の妹であるアシュリー・ロンズデールだった。
俺の叔母であり、もちろんエーデルタルトの王族である。
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