第085話 アシュリー・ロンズデール
アシュリー・ロンズデールはエーデルタルトの現王の20歳も離れた妹である。
俺や弟のイアンとは10歳近くくらいしか離れておらず、叔母というよりも姉の方が感覚としては近かった。
叔母は魔術師であり、俺は叔母から魔法というものを知り、魔法にのめり込んだという経緯がある。
そして、そんな叔母は海が好きで自らの名前をつけたアシュリー号という船で回遊中に嵐に遭い、死亡というか、行方不明になっていた。
それが今から8年前の出来事である。
だが、叔母は目の前にいる。
意味がわからない。
リーシャとマリアはずっと跪き、何も言葉を発せずに頭を下げたままだ。
俺はじーっと叔母を見ており、叔母も何も言わずに俺を見返していた。
「えっと……船長、甥っ子なんすか?」
俺達の沈黙に耐えられなかったアンソニーとかいう海賊が静寂を破り、叔母に尋ねる。
「そうなる。最後に会ったのは何年も前でこいつらがガキの時だから兄の方か弟の方かが微妙だけどな……まあ、面影もあるし、スミュールの至宝がいるってことは兄のロイドの方だろう」
「スミュールの至宝?」
「そっちの金髪のことだ。子供の頃から神が産んだ最高傑作とか色々と言われてた」
大絶賛だな、ウチの1号さん。
最近はリーシャが自ら名乗った絶世と皆に名付けられた下水としか呼ばれんから神が産んだ最高傑作とかいう異名は知らんかった。
「まあ、美人っすね。俺らもそいつを見て、絶対に貴族階級って思いましたもん」
「口には気を付けろよ。こいつは公爵家の御令嬢でエーデルタルトの次期王妃だ」
「へー…………え? 王妃? なんでこんなところに?」
「知らん」
いや、俺もなんで叔母上がここにいるのか知りたい。
「…………叔母上、生きておられたのですね?」
俺は一番気になっていることを聞くことにした。
「見りゃわかんだろ。というか、死んでることになってるのか?」
「そりゃそうでしょうよ。叔母上の船が行方不明になってから8年も経っているんですよ。葬儀はしていませんし、書類上はまだ生きていることになってますが、皆、死んだと思っています」
王族や貴族は死体が上がらない限り、なかなか死亡扱いにはならない。
少なくとも10年程度ではまだ生きていることにする。
もっとも、地位や仕事なんかのことがあるからほぼ死亡と変わらないが……
「そうか……まあ、死亡でいいぞ。どうせ国に戻る気もないし」
まあ、そんな気はする。
戻る気があるならさっさと戻っているだろうし。
「一応、聞きますが、戻らない理由は?」
「私が何に見える?」
「海賊の船長」
「戻れるか?」
無理。
「何してんですか…………」
「いや、それはこっちのセリフだ。お前、こんなところで何してんだ?」
「海よりも深い理由がありましてね……」
リーシャが放火した。
「ふーん…………お前、王になったか?」
嫌な質問。
「陛下は健在ですよ」
「まだ生きてんのか……まあ、長生きしそうな兄だったしなー」
それは俺もちょっとわかる。
生にしがみついてそう(笑)
「あのー、お話し中にすんません。この甥っ子君は王子?」
またもやアンソニーが叔母上に確認する。
「そりゃ、次期王妃の旦那なんだからそうだろ。王太子だな」
「…………そうすると、船長も王族では?」
あ、言ってなかったみたい。
「どう見てもそうだろ。私からあふれ出る気品が見えんのか?」
見えない。
どう見ても輩な海賊だ。
「…………そっすね。なんとなく、そうじゃないかと思ってました」
すげー。
ここまで嘘だとわかるのがすげー。
「だろ? あー、でも、他の者には言うなよ。憧れるのは勝手だが、やりにくくなるからな」
「…………そっすね」
一切、憧れはしてないってさ。
「叔母上、積もる話もありますし、事情を聞きたいと思いますが、食料をわけていただけないでしょうか? 実はこの2日間は水以外何も口にしていません。私は我慢できますが、リーシャやマリアが辛そうなのです」
俺も辛いし、我慢はできないけどな。
「あー、そうだな…………ついてこい。わがままなお前達が満足するとは思えんが、飯をやろう」
叔母上はそう言いながら自分の船に乗り込んだ。
「大丈夫ですよ。俺達、狼を食ったんですよ?」
俺がそう言いながら叔母上に続くと、リーシャとマリアも立ち上がり、ついてくる。
「マジかよ……私でも狼はないわ……どんな人生を送ってんだ、お前らは?」
「そりゃ過酷でしたよー。色々ありましたけど、ついには海に漂流ですからねー」
「…………ホント、何があったんだよ」
色々あったなぁ……
まだ終わりそうにないけど……
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