第114話 無人島だなー


 マリアが淹れてくれたお茶を飲みながらまったりと過ごしていると、夕方になったので叔母上を起こした。

 そして、兵士が持ってきた夕食を食べ終えて、食後のワインを飲んでいると、ノックの音が聞こえてきた。


「船長、ブラントンです」

「んー? 入っていいぞ」

「失礼します」


 叔母上が入室を許可すると、ブランドンが部屋に入ってくる。


「どうした?」

「遺体の回収及びサハギンの討伐を完了したことを報告します」


 どうやら兵士の方も終わったらしい。


「そうか……ご苦労だった。では、明日の出航でいいか?」

「はい。早朝よりキャンプの撤去を致しますので昼前には船を出せると思います」

「わかった。皆にはゆっくり休むように言ってくれ」

「はっ! では、お休みのところを失礼いたしました!」


 ブランドンが敬礼をし、退室していった。


「そういうことだ。仕事は終わり。帰ったら依頼料とかを払おう」


 ブランドンが退室すると、叔母上が俺を見る。


「いつエイミルに行けます?」

「王への報告とかあるし、少し待て。一応、エイミル側に話を通しておかないといけないしな」


 まあ、他国だもんな。

 敵国ではないとしても勝手に行くのはマズいだろう。


「わかりました」

「ウチの子の相手でもしておいてくれ」

「そうします」


 暇だし、クリフとヘレナの魔法でも見てやろう。


「頼むわ…………うーん、眠い。お前に中途半端に眠らされたせいで眠い」

「風呂に入って寝ろ。普通に寝不足でしょ」

「そうするか……お前らも早く寝ろよ」


 叔母上はそう言って立ち上がると、風呂に向かう。

 そして、しばらくすると、叔母上が風呂から上がり、ベッドに倒れ込んだのでマリア、リーシャ、俺の順番で風呂に入り、俺達もさっさと寝ることにした。




 ◆◇◆




 翌朝、目が覚めると、叔母上がすでに起きており、テーブルにつきながらお茶を飲んでいた。

 俺はリーシャを跨いでベッドから降りると、叔母上のもとに向かう。


「おはようございます。早いですね」

「おはよう。まあな……おかげさんでぐっすり寝れた」


 叔母上は一日経って、調子を取り戻したらしく、余裕たっぷりにお茶を飲んでいる。


「いえいえ…………何かありました?」

「お前は本当に成長した。実に見事だ」

「どうも」


 叔母上に褒められてもあんまり嬉しくないな。


「外を見てこい。私はリーシャとマリアを起こす」


 俺は叔母上に言われた通りに部屋を出ると、階段を上り、甲板に出た。

 外は明るく、日差しと朝の涼しい風が気持ちいい。


 俺は気持ちよさを感じながら甲板を歩き、桟橋の先にあるベースキャンプを見る。


「だーれもいねー」


 ベースキャンプには柵こそあるものの、テントがなく、そして、人っ子一人いなかった。


「あら、こう来たの?」


 後ろから声が聞こえたと思ったら寝間着姿のリーシャが俺の隣に来て、同じようにベースキャンプ跡地を見た。


「ど、ど、どういうことです!?」


 髪の毛を跳ねさせ、リーシャと同じく寝間着姿のマリアがあたふたしながら聞いてくる。


「うーん、とりあえず、色々探ってみようか」

「そうね」


 まずは確認だろう。


「別にそんなもんはいらんぞ。私が朝早く起きて色々と確認した。この船はもう動かんし、食糧もない。ついでに言うと、王家の宝剣もない」


 叔母上がニヤニヤしながら俺達に告げる。


「ア、アシュリー様!? 私、ついていけてないんですけどー!?」

「こいつ、本当に貴族か?」


 叔母上が呆れたように聞いてくる。


「マリアは下級貴族なうえに田舎者ですから」

「そうですけどー! もうちょっとオブラートに包んでほしいです!」


 仕方がないな……


「俺達みたいに汚れていない素直な心を持った庶民の聖女様なんですよ」

「…………それだ」


 こいつは放っておこう。


「ふーん、まあいいか。お前らはいつから変だと思った?」


 叔母上が俺とリーシャを見てくる。


「最初から」

「この依頼の内容を聞いた時から」


 俺とリーシャは頷き合う。


「ほう? どの辺だ?」

「この仕事って王家の宝剣の回収ですよね? 伯爵であるトラヴィス殿が任せられるのはわかります。ですが、叔母上が任せられるのは変です。叔母上はよそ者でしょうが」

「そうね。いくら領主代理でも絶対に任せないわ。もし、任せるとしても王都から補助という名の見張りが来ているはず」


 王家の宝剣という戴冠式でも使われる大事な剣の回収をよそ者どころか他国の王族に任せるわけがない。


「そうだな。絶対に任せられないだろう」


 叔母上が素直に認める。


「あと、これはマリアも気付いていることですけど、トラヴィス様が亡くなられてから1年も何をしておられたんです?」


 同じエーデルタルトの女であるリーシャが聞く。


「あ、そうですね。普通はすぐに回収に行きます。誰が止めようと絶対に行きます。私は弱いから殿下の遺体を回収に行くことはできませんが、力があれば絶対に行きます。そして、アシュリー様は魔法という絶対的な力をお持ちです」


 どうでもいいが、俺を殺すなっての。


「行きたかったよ…………それは行きたかったさ」


 叔母上が天を見上げる。


「というか、よく部下の報告を信じましたね? 私は絶対に信じません」

「私も…………」

「そうだな。普通は信じない。もちろん、私も信じていない」


 これも叔母上は素直に認めた。


「王家の宝剣の回収とは別の任務があったんですね?」


 俺は叔母上に確認する。


「そうだな。あるな……」

「話してください」

「まあいいだろう。でも、その前に朝食にしようか。お前らも寝間着では格好がつかんぞ?」


 それもそうだな。

 腹減ったし、飯にしよう。

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