第226話 気のせい
俺はマリアの下にいる。
「シルヴィ、これ、マリアが動いたらどうなるんだ?」
「うーん、その前に旦那様、このままではマリア様が置いてけぼりです。念話を使いましょう」
まあ、今のままだとマリアからしたらシルヴィがひたすら独り言を言っている状態だもんな。
「どうやんの?」
『心の声に魔力を乗せ、愛する人に声をかけてください』
うぜー。
『マリアー』
俺がそう呼ぶと、マリアがキョロキョロしだす。
「あれ?」
「マリア様、心の中で旦那様に愛の言葉をささやいてください」
このバカは何を言っているんだ?
『このバカは何を言っているんだろう?』
あ、マリアだ。
『マリアー、聞こえる?』
『こっちは聞こえますけど、私のは聞こえてます?』
聞こえてる。
『マリアー? あれー?』
『聞こえてないのかな? 愛が足りない? 殿下ー、愛してまーす』
お、おう……
「旦那様、満足されましたか? 人間性の違いがよくわかったでしょう」
あー、傷つく。
『んー? どうなっているんです?』
マリアが念話で聞いてくる。
『あ、聞こえてきたぞ』
『いや、どう考えても最初から聞こえてましたよね?』
うん。
『念話って簡単にできるんだなー』
『すぐに話を逸らすし……』
ちょっとね……
旦那は嫁にばーかと言い、嫁は旦那に愛していると言った。
自分が悪いんだが、この差でへこむ。
『あまのじゃくは大変ですねー。素直になる魔法をかけてあげましょうか?』
シルヴィがクスクスと笑う。
『ほっとけ。それとその魔法は禁術になったぞ』
『そうでしたっけ?』
婆さんのせいでそうなったの!
『シルヴィ、そんなことより、こんなに簡単に念話が使えるようになるものか?』
俺は魔術師だが、マリアは魔術師じゃない。
『もちろん、私が繋げたんです』
愛はどうした?
『あっそ。それで、マリアが歩いても大丈夫なんだろうな? 俺だけここに取り残されるってことはないよな?』
『もちろんですよ。マリア様、歩いてみてください』
『わかりました』
あれ?
この念話ってシルヴィだけに伝わっているんじゃないの?
3人で共有?
俺が変なことを言ってないよなと思っていると、マリアが立ち上がった。
俺はふと、上を見上げると、ちょうどマリアの下にいるため、マリアのワンピースの寝間着の中が見えてしまった。
だが、何故か黒く、さっきのシルヴィと同じように何も見えない。
「あ、旦那様。そういうのはダメです。ちゃんと見えないようにしていますからね」
シルヴィがやったらしい。
でも、報告はいらない。
マリアの顔が赤くなっているじゃん。
『マリア、言っておくが、覗こうといたわけではないぞ。お前も下に来ればわかるが、自然に見えるものだ』
『いや、別にいいんですけどね。今さら隠すものでもないですし……』
そう言うマリアの顔はやはり赤い。
「いやー、マリア様。夫婦であろうと、家族であろうと、恥じらいは大事です。どっかのあたおか女みたいになっちゃいますよ。エーデルタルト女子の高潔を忘れてはいけません」
どうでもいいけど、傍から見たら独り言を言いまくっているメイドだな。
「なるほど……』
マリアはそうつぶやくと、ワンピースのスカートを抑える。
でも、どちらにせよ、見えないので意味がない。
むしろ、なんか……
「むむむ、ここにもカトリナさんアタックをする人がいるとは……」
「いや、これは別にそういうのでは……」
そうか……
これが天然と養殖の差か……
『どうでもいいから歩いてみてくれ』
俺は心の動揺を消し、マリアを急かす。
「あ、そうですね……じゃあ、歩いてみます」
マリアは頷くと、ゆっくりと数歩歩いた。
すると、まったく動いていない俺もマリアと同じように動く。
『すごいなー。これ、何の魔法だよ』
『空間魔法ですね。旦那様は本当にマリア様の下にいるわけはなく、マリア様の下に亜空間を作り、そこにいるわけです。理論的にはアイテム袋と同じですね』
俺はアイテムか……
というか、すごくないか?
こいつ、実はめちゃくちゃすごい魔術師なのでは?
『これでマリアと共に俺も潜入できるわけか?』
『はい。もちろん、リーシャ様も可能です。ただし、あくまでも魔法を使っているのは私ですので、私の魔力が尽きるか、死んだら魔法が切れますと吐き出されます』
まあ、そうなるわな。
閉じ込められるとか言われないで良かったわ。
『もし、マリアに何か危険なことが起きそうになれば、俺とリーシャが飛び出せばいいのか…………これ、どうやって出るんだ?』
『普通に出られますよ。手を上げてみてください』
シルヴィにそう言われたので手を上げてみる。
「怖っ! 足元に手が出てきました!」
マリアがビビっている。
『言っておくが、俺はこの状態でそいつに足を掴まれたことがあるぞ』
『ホラーじゃないですか……私には絶対にやらないでくださいね』
しねーわ。
『ちょっと出てみるわ』
俺は念話でそう伝えると、シルヴィがやっていたように顔だけを出す。
「殿下が断頭台で首をチョンパされたみたいなんで早く出てきてください」
それはちょっとリアルだから嫌だわ。
俺は顔だけでなく、腕を出すと、登り、外に出た。
「うーん、不思議な感覚だわ」
「私もですよ。殿下が下から出てきたんですからね」
まあ、そうだわな。
「どうです、旦那様? これなら楽に潜入できるでしょ?」
「お前の下に入れんか?」
俺達3人がお前の下に入り、お前が潜入すればいい。
「申し訳ないですが、それはできないんですよ」
ホントかよ……
「まあいい。明日、リーシャと相談してみる」
「さようですか。では、そのように…………旦那様、奥様、もう遅いですし、風邪を引いてしまいます。部屋に戻ってください」
「お前は?」
「私は見回りが残っていますのでそれが終わり次第、休みます」
働き者だな。
「そうか……じゃあ、明日な」
「はい。おやすみなさいませ……」
シルヴィは頭を下げると、そのまま消えていった。
まあ、本当は見えなくしただけでそこにいるんだろうけど、そこに触れるのは野暮だろう。
「マリア、寝よう」
「そうですね」
俺達は部屋に戻ると、窓を締め、自分達にベッドに行き、横になった。
「…………マリア、こっち来い」
「はい!」
俺がマリアを呼ぶと、マリアが自分のベッドから降り、俺のベッドに入ってくる。
そんなマリアを抱きしめると、マリアも抱きしめ返してきた。
「マリア、愛してるぞ」
「私もです…………さっき、本当は愛してるじゃなくて、悪口を言ってましたよね?」
なんのことやら……
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