第154話 コンラート王子
「アポなしは悪かったな。本当は挨拶をするつもりもなく、そのまま抜けるつもりだったんだ」
「ウォルターに行きたいんだって? なんでまた?」
「実は廃嫡になってなー」
「え? 君が?」
笑みを絶やさない優男が驚く。
「理由はまあ、よくわからん。だから今の王太子はお前の友達だ」
「まあ、君が廃嫡になればイアンだろうけど…………それでウォルターかい?」
「色々あってそうなったな。しかも、色々あって徒歩の旅だ」
リーシャが放火した。
マリアが高所恐怖症になった。
だから仕方がない。
「色々あったんだね」
「そうそう。さて、コンラート。カジノの件だが……」
「それについては謝罪する。君が勝った金貨は私が責任を持って支払おう」
「太っ腹だな」
俺ならイチャモンをつける。
「このカジノの責任者は私なんだよ」
「それが気になった。よくカジノなんて作ろうと思ったな。治安を悪くする原因になるぞ」
カジノは世界中にいくつもあるが、カジノがある町はどこも治安が悪い。
「そこまで大規模なものにする気はないよ。ちょっとした名物になればいいなって思った程度さ」
それで済めばいいが、どんどんと大規模になるぞ。
まあ、俺が忠告することでもないか……
「そうか。まあ、楽しかったな。それと金はいらんぞ」
「いらない? 金貨12228枚と聞いているが?」
すげー量。
さすがは不運のマリアだわ。
「そんなもんはいらん。それが目的ではないからな。だからあのディーラーの腕も支配人の首もいらんぞ」
「そうか……目的は私か?」
「お前が素直に会ってくれれば、ここまでバカ勝ちするつもりはなかった。適当に遊んで軍資金を手に入れたらそのままアダムに行くつもりだったわ」
豪遊できるくらいの金があればいい。
ウォルターはもうすぐなのだ。
「それなのにこんなことをしてまで私に用があるのか? そこまで話した記憶はないのだがね」
「学年も違うし、俺は社交的な方ではないからな」
「エーデルタルトでは珍しい魔術師だったね。イアンが真面目に剣術をやればいいのにって愚痴っていたよ」
うっさい。
「剣術なんて意味がない。俺の魔法はそれだけ偉大なんだ」
「へー……すごいんだねー」
コンラートが思案顔をする。
「さて、俺がお前に会いたい理由だったな。それを話すためには宰相殿に席を外してもらいたい。それと扉の向こうにいる兵士もだ」
魔術師がいるからわかる。
「それはなりません」
宰相が即答で拒否した。
「と言っているが?」
俺はコンラートを見る。
「申し訳ないが、宰相の言う通りだ」
「ふむ。では、仕方がない。いてもいいぞ」
俺はそう言いながらカバンから手紙を取り出した。
「手紙?」
コンラートが手紙を見て、首を傾げる。
「バカな男だな…………お前は高潔の国エーデルタルトで何を習ったんだ? ほれ、浮気相手からの手紙だ。俺達はそれを渡すように頼まれたんだよ」
俺がそう言って、手紙を渡すと、コンラートの顔面が蒼白になった。
「…………宰相、兵と共に下がれ」
「え? なりませんぞ! 殿下に何かあったら!?」
「下がれ! その物言いはロイド王子に無礼であるぞ!」
こいつ、キレて誤魔化したぞ。
「しかし……」
「エーデルタルトの王子が私に何かをすると思うか?」
「それはないでしょうが…………ならば、御二人で話すのはどうでしょう?」
この宰相はウチの国を知っているのか知らないのかわからんな。
「俺に妻と離れろと? 他国で妻を一人にしろと?」
二人だけどね。
「い、いえ! そうは言っておりません!!」
宰相は自分の失言に気付いたようだ。
「まあまあ……宰相様は私のことを言っているんだよ。ほら、私はこの部屋から出るから宰相様も出ましょう」
婆さんは宰相に助け舟を出すと、宰相と共に部屋を出ていった。
「悪いな。宰相は悪気があるわけじゃないんだ。父上に私を見張れと言われているんだよ」
コンラートが釈明をする。
「まあ、そうだろうな。宰相は職務を全うしようとしただけだ」
ちなみに、ウチの宰相だったら首を刎ねられても絶対に出ていかないと思う。
あいつ、頑固でうるせーし。
「ハァ…………確認なんだが、この手紙は誰からのものだい?」
「だからお前の浮気相手。娼婦かな?」
「娼婦って……」
「ウチの嫁共は嫌悪してたぞ」
売女呼ばわりだったし。
「そうだね……エーデルタルトは怖かったなー。ちょっと遊びに行こうって誘っただけで親が出てくるわ、国を捨てようとするわ、ホント……」
「女遊びがしたいならちゃんとリサーチしてから来いよ」
「失敗したよ。でも、おかげさまで男友達は本当に増えたね」
男共と愚痴ってたな……
「王子なら女遊びは控えろよ」
「君は窮屈に感じたことはないのかい? 決められた相手を嫌になることはないのかい?」
それを決められた相手の前で聞くかね?
「別に何も問題ない。リーシャは子供のことから知っているし、ずっと一緒だった。不満はあるが、それは長く一緒にいれば誰だって思う程度のものだ。多少の不満を持っても好意の方が勝る」
というか、絶世と名高い女と一緒になって嫌なんて言ったら他の男共から石を投げられるわ。
「…………痛っ!」
リーシャが真顔でマリアの頭を叩いた。
マリアは頭を押さえながら不満そうにリーシャを見上げるが、何も言わない。
「そう。仲が良いのは良いことだね」
「お前は悪いのか?」
「そういうわけではないよ。ただ、良くもない」
うーん……
「リーシャ、マリア、お前らもやっぱり外に出てろ」
「そうするわ。男同士、くだらない話をしてなさい」
リーシャはプイッと顔を背けると、扉の方に歩いていく。
「ぷぷ。めっちゃ照れてますよ」
マリアがこそっと笑う。
「マリア」
「あ、行きまーす」
リーシャはマリアを連れて部屋を出ていった。
この部屋に俺とコンラートの2人だけになると、コンラートが俺を見てくる。
「さっき、妻を一人にするのかとかなんとか言ってなかった?」
言ってたね。
「リーシャならすぐに血の海にできるから大丈夫だ。ラウラもいるし」
「あれが神が作った最高傑作にして最大の失敗作、下水令嬢か……」
あいつ、あだ名が多いなー……
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