第128話 オーク釣り
バルバラから袋を受け取った俺達はギルドを出ると、教えてもらった北門に向かう。
そして、北門を抜け、町を出た。
町の外は平原が広がっており、先には薄っすらとだが、森のようなものが見えている。
「あれですかね?」
マリアが視線の先を指差しながら聞いてきた。
「バルバラが町を出たらすぐにわかるって言ってたし、あれだろう」
「そうね。じゃあ、行きましょうか」
リーシャがそう言って歩いていったので俺とマリアも続く。
平原を歩いていると、特にモンスターが出ることもなく、平和だ。
「タイガーキャットもサハギンもいなくて平和だな」
「そうですねー。空賊も海賊もいません。何もない国って言ってましたけど、脅威もないのは良いことです」
ホント、ホント。
「完全にピクニック気分な気になってくるわね」
リーシャが歩きながら腕を伸ばす。
「これだけは平地が広がっていると、敵の心配もないですしねー。リーシャ様は不満でしょうけど」
「別にそんなことはないわよ。天気も良いし、歩くだけでも気持ちいいじゃないの」
エーデルタルトの王都を出た時は足が痛いだの、魔法のじゅうたんを出せだの、不満ばっかりだったのになー。
俺達が気持ちよく歩いていると、徐々に森に近づいてきた。
「エサとやらはどの辺に置く?」
リーシャが聞いてくる。
「そうだなー。森に近づきすぎると逃げるかもだし、ちょっと離すか……」
俺はそう言いながら森から少し離れた地点まで行く。
「この辺で良いんじゃない?」
「だなー。じゃあ、エサとやらを置くか……」
俺はカバンからバルバラにもらった袋を取り出した。
そして、袋を開ける。
「……臭いなー」
微妙な刺激臭というか、腐敗した匂いがする。
「ホントね。嫌だわー」
「水をかけたら匂いが出るって言ってましたけど、すでに臭いです」
女性陣も不満顔だ。
「まあ、やってみよう」
俺は袋から四角い小さなエサを取り出すと、地面に置いた。
そして、水魔法を使い、エサに水をかける。
「…………別に匂いは……って臭っ!」
大丈夫かなと思っていたら急にとんでもない匂いが漂ってきた。
「臭すぎ!」
「ひえー!」
俺達は慌てて距離を取る。
「きっつー……」
なんだあれ?
「ひどいわね……」
「リーシャ様の性格のようでした……あいたっ!」
マリアがひどいことを言うと、リーシャに頭をはたかれた。
「あんなもんに反応するのか?」
「さあ? って、ここまで匂ってくるわね……もうちょっと距離を取りましょう」
俺達はさらに下がり、エサを置いた場所を見る。
「冒険者って大変だなー」
「まあ、これでも森に入るよりかは安全なんでしょう……って出てきたわね」
リーシャがそう言うと、森の木が揺れ、森の中から1匹の二足歩行で歩く豚が出てきた。
そして、俺達には目もくれず、俺が置いたエサの方にまっすぐ歩いていく。
「あれがオークか? でかいなー」
俺より身長が高いし、太い。
腕なんて丸太のようだ。
リーシャはよくあんなもんを大量に瞬殺しまくれたなー。
「大きいだけよ。スピードはまるでないし、意外と防御力もないわ。見てなさい!」
リーシャは自信満々でそう言うと、剣を抜き、オークに向かって勢いよく駆け出した。
相変わらずのものすごいスピードで走っていったリーシャだったが、半分くらいの距離になると、くるりと反転して俺達のもとに戻ってくる。
「ロイド! 任せるわ!」
臭いのが我慢できなかったのね……
俺は仕方がないと思い、杖をオークに向ける。
「エアカッター!」
魔法を唱えると、杖の先から風の刃が現れ、飛んでいく。
エサを見ていたオークもさすがに気が付いたようだが、すぐには避けることができなかったようで、なすすべもなく、風の刃に両断された。
「確かに強くはないな」
サハギンやゴブリンよりかは上なんだろうが、距離を取れば、さほど変わらない。
「でしょ? って、また来たわよ」
リーシャが言うように森からまたオークが1匹出てきた。
「すごい効果だな……」
オークにとってはいい匂いなんだろうか?
「頼んだわ!」
「殿下、頑張れー」
俺は女性陣の絶対に近づかないという強い意志を感じながら杖をオークに向ける。
「エアカッター!」
俺が魔法を放つと、さっきと同じようにオークが両断された。
「ロイド……」
リーシャが俺の名前を呼んだ意味はわかっている。
今度は森から2匹のオークが出てきたからだ。
「すげーな」
「頑張って!」
リーシャは剣を納め、完全にやる気がない。
「剣も魔法も使えず、お力になれずにすみません……悔しいです」
嘘つけ。
めちゃくちゃよかったーって顔をしてんじゃん。
「まあ、やるか……こんな楽な作業で金貨だもんな……」
俺は渋々、オークに杖を向けた。
すぐに2匹を魔法で倒した俺はその後も出てくるオークを倒し続け、エサの匂いが切れたら魔石を回収し、再び、エサを置き、水をかけた。
それを4回ほど繰り返すと、エサがなくなったため、オーク釣りを終了にすることにした。
「お疲れ様。何匹狩った?」
最後の魔石回収を終えると、リーシャが聞いてくる。
「22匹かな?」
最後の方はあまり出てこなかった。
まあ、浅い森らしいし、そんなに数がいないんだろう。
「良い稼ぎにはなったわね」
「そうだな」
俺とリーシャが話していると、マリアが腕を組みながら悩んでいるのが気になった。
「マリア、どうしたの?」
リーシャも気になったらしく、マリアに聞く。
「いや、殿下に解体をお任せしてますけど、やっぱり私もした方が良いのかなと……」
「せんでいい。というか、するな。汚れたらどうする?」
「でも、冒険者ですし」
「そりゃ、汚れることはあるだろう。でも、進んでモンスターの血なんかで汚れるな。そういうのは男の仕事だ」
誰かさんは返り血を浴びる絶世の蛮族だけど……
「大変では?」
「別に。モンスターだろうが人間だろうが解体できるぞ」
まあ、人間を解体する意味はないからしないけども。
「嫌じゃないんです? ほら、道徳とか倫理とか」
教会勤めだったマリアはそういうのを気にするんだろうな。
「そんなもんを気にする奴が黒魔術なんかに手を出すかよ。それに解体の手間よりかお前が汚れる方が嫌なの。どこの世界に自分の女を血で汚す男がいるんだよ」
しかも、貴族令嬢だぞ。
ないない。
「そうですかー。では、お任せします。回復魔法なら任せといてください!」
うんうん。
頑張れ。
「私にはそういう言葉をかけてくれたことがないわね」
リーシャが話に入ってくる。
こいつ、ホント、すぐに嫉妬するな……
「お前は解体をするなんて言ったことないだろ」
「しようか? 別に私も気にしないし」
リーシャが解体……
すごいな……何故か猟奇的な絵が浮かぶ。
「怖いからやめろ」
「そうですよー。リーシャ様がすることじゃないです。殿下に任せましょう。ね? ね?」
マリアも俺と同じことを思ったらしく、必死にリーシャを止める。
「何、その顔? 今晩、あなた達の夢にお邪魔しようか?」
やめろ。
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