第008話 そうなんです


 俺とマリアはリーシャが戻ってくるまでの間にボロボロの船から使えそうなものを探すことにした。


「何かありましたかー?」


 マリアが聞いてくる。


「使えそうなものはほとんどないな…………」


 地図も燃えカスしかないし、使えるのは方位磁針くらいだろう。


「ですよねー」


 元々、ロクな積み荷もなかったし、武器になりそうな物もない。

 しいて言うなら焚火に仕えそうな木材はいっぱいある。

 だが、そんなものは森の中ならたくさんある。


「何がマズいって水も食料もないことだな」


 まあ、水は魔法で出せないこともないが、食料はどうしようない。


「ここがどこかもわからないんですよね?」

「ああ。ウォルターに向かっていたからそっち方向だとは思うが、空賊から逃げるのにジグザグで動いてたし、さっぱりわからん」

「殿下、空を飛べませんでしたっけ? 飛んで場所を確認できません?」

「飛べるが、今は完全に魔力が尽きている。墜落……いや、不時着時に防御障壁のために全魔力を使った。だからこの程度で済んだんだよ」


 じゃなきゃ、あの高度、スピードで着陸したら即死だ。


「言い直さなくてもあれは墜落ですよ」


 いや、着陸だ。


「そろそろ日が暮れそうだし、早めに出発したいんだがなー。リーシャはどこに行ったんだ?」


 空賊に追われていた時は昼過ぎだった。

 まだ日が沈む時間ではないが、暗くなったら動けなくなるし、早めに出発したい。


「さあ? あの人の考えていることはわかりませんし…………ところで、殿下」

「なんだ?」

「殿下、魔力が尽きてるんですよね?」

「そうだな…………」


 回復には時間がかかる。


「剣もリーシャ様が奪っていった」

「そうだな」

「つまり、ここに残っているのは武器もなく、魔法も使えない魔術師と雑魚ですか?」


 マリアはヒーラーだし、身体も小さく、力も強くない。

 当然、弱い。

 俺は魔力が尽き、武器もない。


「…………モンスターが出たらマリアを囮にして逃げるしかないな」

「何故に!? 守ってくれるって言ったじゃないですか!」


 記憶にないな。

 不時着時の衝撃のせいかな?


「王族を守れ」

「男子が女子を守るんですよ! リーシャ様ー! 帰ってきてくださーい!」


 マリアが大声で叫ぶ。

 すると、近くの草むらがガサゴソと動いた。


「あ、戻ってきました!」


 マリアは嬉しそうに言うが、俺はそうは思えない。

 何故なら動いている草むらは俺の腰程度しか高さがなく、とても人が出てくる感じではないからだ。


「リーシャ様ー…………え?」


 嬉しそうな顔をしていたマリアが固まった。

 何故なら草むらから出てきたのはリーシャには似ても似つかない醜悪な顔をした小鬼だったからだ。


「リーシャ様……?」


 マリアは現実逃避をしたようで首を傾げた。


「どこがリーシャなんだよ。絶世のぜの字もねーわ」

「げ、下水の本性が具現化したのかも…………」


 ひっど。


「どう見てもゴブリンだろ」

「で、でで、殿下! お願いします!」


 マリアはそう言って俺の後ろに隠れた。


「うーん、勝てるかなー?」


 ゴブリンはそんなに強いモンスターではない。

 とはいえ、魔法も剣もない俺が勝てるかはわからない。

 何故なら、王子である俺はモンスターと戦うことなんかないからだ。


「いけますって! 最悪は私の回復魔法でどうにかなります! ケガを怖れずに体当たりです!! 体格差を生かしましょう! 男の子でしょ!」


 まあ、ゴブリンと俺では2倍くらいの差があるし、それでどうにかなる気はする。

 しかし、こいつは不敬だなー……


 俺は仕方がないので腰を下ろし、いつでも体当たりできるように構える。

 ゴブリンはそんな俺達を見ていると、にやーっと醜悪に笑った。


「ひっ!」


 後ろからおびえた声が聞こえたと同時にゴブリンが駆けてきた。


「よし! って、バカぶどう! 離せ!」


 俺が向かってきたゴブリンに体当たりをしようとすると、マリアが恐怖のあまりに俺の服を掴んだのだ。


「ごめんなさーい!」


 マリアは謝ると、握っていた服をパッと離した。

 すると、前のめりの状態で急に離されたので俺の身体がつんのめった。


「ぎゃー! 殿下がー!」


 お前のせいだ!

 後で覚えとけ!


 俺は両手を地についたまま見上げると、目の前にはゴブリンが迫っていた。


 クソッ!

 こうなったらプリンス頭突きを食らわせてやるぜ!


 俺は頭突きをしようと思い、足に力を込めると、急にゴブリンの醜悪な顔が見えなくなった。

 というよりも、ゴブリンが倒れ、上空にゴブリンの頭が飛んでいるのだ。

 そして、そんなゴブリンの後ろには綺麗な金髪をなびかせた絶世の美女が立っていた。


「リーシャ様ー!!」


 マリアが嬉しそうな声をあげる。


「ふっ! この絶世のリーシャ様に勝てるものはない」


 リーシャがかっこつけて剣を振り、血を飛ばした。


「ゴブリンでよくイキれるな……」

「助けてあげたのにその言い草は何?」


 いや、お前が剣を奪わなかったらこんなことにはなっていない。


「あっ! 殿下ー! ご無事ですかー!?」


 マリアが慌てて俺の顔を覗き込んでくる。


「お前、体当たりしろって言ったくせになんで服を掴むんだよ……」

「ご、ごめんなさい! ヒール!」


 マリアは謝り、俺にヒールをかけてきた。


「ハァ……まあいい。それよりもリーシャ、どこに行っていた?」


 俺は立ち上がると、リーシャに聞く。


「周辺を探ってた」

「どうだった?」

「森ね」


 見ればわかるな…………


「モンスターは?」

「ゴブリンを何体か倒したし、狼もいたわね」


 そんなところに俺らを置いていくなっての。


「道のようなものはなかったか?」

「ないわね。ここどこよ?」


 知らん!


「手がかりはなしか…………どうする? 動くか、俺の魔力が回復するまで待つか……」

「動きましょう。動いていても魔力は回復するでしょうし、じっとしてても救援なんかは来ないわ。だったら動くべき」


 俺も同意見だ。


「マリア、あっちとあっちだったらどっちがいい?」


 俺はマリアにボロボロの飛空艇がある方向と逆の方向を指差しながら聞く。


「え? あっちですかねー?」


 マリアが飛空艇の方を指差した。


「じゃあ、あっちね」

「だな」


 俺とリーシャはマリアが指差した方向とは逆の方向に向かって歩き出した。


「なんでぇー!?」


 そりゃねー……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る