第274話 王都へ出発


 カークランドと話し終えた俺はシルヴィと共に宿屋に戻った。

 宿に戻ると、別室のシルヴィと別れ、部屋に入る。

 そして、風呂に入り、就寝した。


 翌朝、寝不足で眠い中、何とか起きた俺はマリアと共に俺の倍以上は寝ているのに駄々をこねるリーシャを起こす。

 正直、叩きたくなったが、それをすると、間接をきめられるのでやらなかった。


 そんなこんなでなんとか起きた俺達は朝食を食べ、出発の準備をする。

 そして、準備を終えると、宿屋を出た。


 宿屋を出ると、宿屋の前に馬車が止まっており、荷台にはシルヴィではなく、ティーナが座っていた。


「シルヴィはどうした?」


 俺は馬車の荷台まで行くと、ティーナに聞く。


「中で寝てる。眠いんだってさ。昨夜、ロイドが寝させてくれなかったって言ってた」


 面白くない冗談だ。


「そうか。お前、道はわかるか?」


 大丈夫かね?


「一応聞いてる。北門からまっすぐ行けばいいんでしょ?」

「まあ、そうだな。わからなくなったら言え」


 迷子になられたら困る。


「うん。乗って。急いでるんでしょ」

「そうだな」


 俺は馬車の後ろに回ると、馬車に乗り込む。

 すると、馬車の右端には毛布にくるまったシルヴィが寝ており、左端にはリーシャがシルヴィから距離を置くようにして横になっていた。

 そして、その2人の間に挟まるようにマリアが座っている。


「マリア、こっち来い。一緒に外を見ようぜ」


 俺は馬車の後ろに腰かけ、ギスギスとは縁のないマリアを誘った。


「はい!」


 マリアは腰を上げると、すぐに俺の隣にやってきて、身体を預けてくる。


「ティーナ、いいぞー」

「わかった。出発するねー」


 ティーナがそう言うと、馬車が動き出す。


「あいつ、御者ができるんだな」

「みたいですね」


 御者って簡単なのかね?


 馬車が進み、賑やかな都会の町をマリアと眺めながら進んでいく。

 すると、徐々に商店街がなくなり始めた。


「ロイドー、門の前にでっかいおじさんが立っているんだけどー」


 ティーナが報告してくる。


「無視しろ」

「でも、門の前に立ちはだかってる。暗殺者? 斬った方が良いの?」

「それを斬ったらお前の首が飛ぶな。悪いが、俺もリーシャも庇えない」


 さすがに侯爵は無理だ。


「え? 誰?」

「多分、カークランドだろ。侯爵でエーデルタルトの大貴族様だ」

「ひえっ!」


 ティーナがビビッて馬車を止めた。


「情けない奴だなー。そんな奴は轢けばいいんだよ」


 俺を誰だと思ってんだ。


「………………」

「ん?」


 ティーナから返事が来ないなーと思って、後ろを見ていると、横目にでかい影が見える。

 何だろうと思って、目で追うと、目の前にカークランドが立っていた。


「何か用か?」


 何を見下ろしているんだ。


「…………誰だ?」

「はい?」


 何を言ってんだ、こいつ?


「…………殿下、殿下。今はシルヴィさんの魔法で殿下は違う人に見えているんです」


 あ、なるほど。


「カークランド、今はシルヴィの魔法で姿を誤魔化しているが、ロイドだ。姿を晒すわけにはいかんだろ」

「なるほど。やはり殿下でしたか……」


 おや?


「わかったのか?」

「私に対して『そんな奴は轢けばいい』なんてことを言うのは殿下だけです」


 そりゃそうだわな。

 貴族にそんなことを言ったら確実に投獄か打ち首だ。


「俺の馬車を止めるからだ」

「それは申し訳ございません。ところで、そちらは?」


 カークランドが俺に身体を預けて、べったりくっついているマリアを見る。


「側室のマリアだ。フランドルから奪ってきた。ほら、ワインのところ」

「フランドルはもちろん存じています。長女のマリア嬢でしたか……しかし、側室ですか?」

「何か問題でもあるのか? なお、言ったら火刑に処す」


 死ね。

 灰も残さん。


「ありません。ですが、フランドルは大変ですな」

「だから奪ってきたって言ったんだよ。マリアは同級生なんだ」

「なるほど……まあ、私がどうこう言うことではありません。ご結婚おめでございます」


 カークランドはその場に跪くと、マリアに向かって頭を下げた。


「ありがとうございます」


 マリアがそのままの体勢で答え、頷く。


「どうでもいいが、何か用があったんじゃないのか? それとも見送りに来たのか?」

「そうでした。殿下にこれを渡そうと思ったのです」


 カークランドがそう言いながら立ち上がると、何かの紙を渡してくる。

 紙を見てみると、それはカークランドの名前が入った通行証だった。


「何だこれ?」

「実は王都で検問をしております」

「検問? 王都だぞ」


 滅多なことではそんなことにはならない。

 たとえば、王宮が燃えるとか……


「どうも王都はきな臭いです。その理由も昨日でなんとなくわかりましたが……」


 何してんだよ……

 父上にはさっさと退場してもらった方が良いな。


「わかった。助かる」


 受け取った通行証をカバンにしまう。


「ご武運を」

「運なんかいらんわ。実力がものを言う。俺の偉大な魔法に敵はおらん」


 すべてを焼き尽くしてやるわ。


「さようですか。では、問題ないですね。さすがにここと王都を繋ぐ街道にモンスターも賊も出ないでしょうがお気をつけて」


 さすがにエーデルタルトの中枢都市同士を繋ぐ道にはおらんわな。


「はいはい。お前はテールとかいう賊を倒せ」

「お任せを」

「頑張れ。ティーナ、出せ」


 俺がティーナに命じると、馬車が動き出す。

 そして、カークランドに見送られ、門を抜けた。


「カークランドは怖くなかったか?」


 門から少し離れ、カークランドが見えなくなったのでマリアに聞いてみる。


「いやー、怖かったですねー。侯爵なんか雲の上ですもん」

「ちゃんと臣下の礼を取っていただろ」


 エーデルタルトの男子は女子に強く出ないからたとえ、身分差があっても頭を下げたり、丁寧な対応をすることはある。

 だが、侯爵が男爵令嬢に跪くことは絶対にない。


「それが怖いんですよ」

「そうか……王都に行って会うことになるスミュールもだぞ」

「嫌だなー……公爵以前にリーシャ様の父親じゃないですか」

「まあな。正直、俺も会いたくない。リーシャのバカが余計なことをしたらしいから」


 父親からもらった装飾品を例のあの日に返している。

 顔を合わせたくないわ。


「それは自業自得な気がしますね」


 いやー、あれは仕方がない。

 絶対に口に出して言えないが、仕方がない。

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