第186話 設立②
「そ、それは本当なんですか!?」
「はい、間違いはありません」
「リ、リン様が…」
「リン様が、商会を設立する!?」
「じゃ、じゃあおれ達…」
「胸を張ってリン様の商会の一員だって言えるってこと?」
「ええ」
リンが自分の商会を設立する。
当人となるリンの心が固まり、そのことが実現へと進み始め…
業績管理部隊の一人が、そのことを従業員達に伝えに、居住地へと訪れる。
そして、実際に商会設立の話を従業員に伝えると…
「や、やったああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
「あ、あたし達がリン様の商会の一員になれるのね!!!!!!!!!!」
「これからは、胸を張ってリン様の商会の職員って言えるんだ!!!!!」
「リン様!!リン様!!!!」
「リン様、万歳!!!!!!!!!!」
「万歳!!!!!!!!!!!!」
すでに二万人規模、いや、それ以上の大きな都市となっている居住地全体を揺らすかのような、従業員達の盛大な喜びの声が響き渡る。
その歓声の大きさが、まさに従業員達の喜びの大きさを表しているようだ。
「現在、リン様が所有されている施設、業種はこの一覧の通りとなっております」
業績管理部隊の一員が、そう言って現在あるリンの所有施設、業種を記した一覧を従業員達に見せる。
一覧の内容は、以下の通りとなっている。
商業施設
・大衆浴場
・宿屋(食堂としても運営)
・農場
・鍛冶・衣料品店(冒険者ギルドにも販売スペースあり)
・集合住宅
・診療所
・ジュリア商会(食料品専門販売)
・パン屋(店内飲食スペースあり)
・レストラン
・建築業者
・冒険者ギルド
・串焼き屋(チェスターに店舗を構えている)
・配送業者(冒険者ギルドに専用受付を設置)
・清掃業者(冒険者ギルドに専用受付を設置)
・洗濯屋(冒険者ギルドに専用受付を設置)
町の公共施設・設備(税収からリンに報酬が渡されている)
・公衆トイレ
・水供給設備
便利サービス
・貸倉庫サービス(冒険者ギルドにて運営・管理)
・ごみ処理事業(冒険者ギルドにて運営・管理)
生産・製造(全てリンの生活空間で実施)
・農業(スタトリン第二領地にも農場あり)
・畜産(スタトリン第二領地にも農場あり)
・糸、布生産
・養蜂(蜂蜜の生産)
・採掘(鉄、金、銀、宝石類、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトetc)※従魔が作業
・海産物(リンの生活空間にある海で食用となる魚介類の確保)※従魔が作業
・酒造
・製薬
・鍛冶
・裁縫
・塩生産(岩塩、海水から抽出)※リンと召喚獣で作業
・食品加工(ミソ、ショーユ、ニガリ、トウフ)※リンと召喚獣で作業
・食品加工(食肉、魚介類、包装)
・木材加工
防衛
・防衛部隊(防衛、偵察、調査)※リンの拠点、生活空間、各商業施設の防衛を担う
・守衛部隊(町の守衛、警ら)※冒険者ギルドにて依頼を掲示
・諜報部隊(町の諜報)※冒険者ギルドにて依頼を掲示
その他
・孤児院(ごみ収集場所を併設、孤児とスタッフでごみの収納を担当)
「お、おおお……」
「リン様は、これ程の施設と設備、そして生産や製造を…」
「そうです!これ程の商業施設をリン様はお一人で作られ…生産・製造に関しては今でも全てご自分でなされてます!そして、それらを先の見えない劣悪な環境に生きる誰かの為に、仕事として用意してくださり、さらにはこの生活空間に居住地までお作りくださったのです!」
「す、凄いなんてもんじゃない…」
「こんな凄い商会、絶対に潰れる未来なんか見えねえ…それどころか、もっともっと大きくなっていく未来しか見えねえよ!」
そう。
リンが作ることとなる商会の最大の強みは、種類も物量も豊富過ぎる程に豊富な商材をいくらでも生み出せること。
ましてや、それを商会のトップとなるリンが、日頃からたった一人でも行なえること。
日に日に生み出され、収納されていく商材の数々は、どの施設も営業時間中は客足が絶えることなく、飛ぶように売れているにも関わらず…
枯渇するどころか日に日に増えていっている。
加えて、それだけの物量となる商材の保管場所は、容量無限、時間経過無、詳細検索可能、収納も取出も容易なリンの収納空間である為、いくら作っても全く無駄にならず、いつでも好きな時に使ったり売ったりできてしまうのだ。
さらには、この生活空間があるおかげで従業員一同がいつでも交流し、意見交換や相談はもちろん、生産・製造拠点を全てここに集約することができる。
レストラン、宿屋の食堂、冒険者ギルドの酒場・食堂はこの生活空間にある調理施設で受注した料理を作り、そこから各店舗に出すこともできるのだ。
もちろん、パン屋の工房も生活空間にある為、同様のことが可能となる。
加えて、この生活空間から各施設に直接移動することができ、在庫は全てリンが作る収納の魔導具で管理するので、これから展開していく店舗も販売・接客スペースがあればよく、店舗によっては受付窓口さえあれば商売ができてしまう。
その為、最低限の土地さえあれば店舗を作ることができてしまう。
また、スタトリンを本部としつつも、サンデル王国の至る所に一瞬で移動できるので、業績管理を一元化することができ、店舗スタッフも日替わりで、どの店舗にでも勤務することができる。
当然、防衛部隊も日替わりでどの店舗にでも任務に就くことができる。
現状唯一の懸念として、商会自前の販路が少ないところだが…
それはジュリア商会を食料品専門から、ジャスティン商会のような総合商会にして、サンデル王国に支店を展開していくのもいいし、他の既存の商会を買収し、傘下に置いて食料品以外の販路を拡大することもできる。
ただし、リンの力を知ってもらうこととなる為、他商会を引き込む場合は人格と信頼性が最優先となってくる。
現に他の商会や商人からの交渉は後を絶たないのだが、主の交渉窓口を担っているジュリアとイリスがOKを出すようなところは未だに現れていない。
最も、主の販路で卸先となるジャスティン商会があり、そちらではリンが保有する魔物の超高級素材を始めとする高級品も、商会が開催するオークションで安全に販売してくれているので、慌てて対処しなければならないようなことではないのだが。
「リン様はとても慈悲深く、温かな御心をお持ちのお方…種族の違う亜人も分け隔てなく受け入れ、こうして幸せを与えてくださる偉大なお方…」
「リン様は、我ら亜人の特性と力を存分に活かせる場所をお与えくださった!仕事をしていて楽しいなどと、これまで思うことなどなかった!」
「ああ…リン様…もしリン様が世界樹を復活させて下さらなかったら…あの夢のお告げがなかったら…あたしは心無い人族の慰み者になっていたかもしれません…こんな温かで幸せ一杯の場所を与えてくださったリン様…あたし…あたし…この身も心もリン様にお捧げしたくてたまりません…♡」
「リン様がお作り下さる商会…絶対に、絶対に繁盛させていきます!リン様にお仕えさせて頂けるのは、わたしにとってこれ以上ない幸せです♡」
この先もより大きくなり、繁盛する未来しか見えない商会が設立され…
しかもその一員となれることに、居住地で暮らす従業員達は誰もがその幸福感に笑顔を浮かべている。
「商会の会頭は当然ですがリン様、会頭となられるリン様の補佐役としてエイレーン様が就任することとなります!!」
「従業員の勤務状況、在庫状況、業績など運営全般の管理は従来通り我々業績管理部隊が担当致します!!」
「商会の雑事及び業務補助はリリム様、メイド部隊の皆様、フェリス様、ベリア様、コティ様に担当して頂きます!!」
「今後は、サンデル王国の至る場所にリン様の商会の支店を展開していきます!!」
「ひとまず、リン様の商会設立完了まで支店展開計画は一時中断、完了後に順次支店の展開を進めていきます!!」
「この商会は、以後スタトリンの神となるリン様、王となるシェリル様直轄の商会となります!!我々の仕事が直接、国として独立するスタトリンの運営を担うものとなります!!」
「いわば皆様は、スタトリンの王家直属の商会の従業員となります!!」
「皆様にはこれまでのように、どんどん楽しんで働いて頂ければ幸いです!!我々も、その為に全力で皆様をサポート致します!!」
「今後共、どうぞよろしくお願い致します!!」
喜びに沸き立つ従業員達をさらに鼓舞するかのように、業績管理部隊の面々から今後の展望について説明の声があがる。
「おおお!!!!」
「僕達が…僕達が国の運営に直接関わるような仕事をさせてもらえるなんて!!」
「こんなわたし達のことをお救いくださったリン様の為、そのリン様が神となられるスタトリンの為、これからもっともっと頑張らなきゃ!!」
リンの商会が、国となるスタトリン直属の商会となること…
リンとシェリルが中心となる国の為に働けること…
それらを聞かされて、従業員達はますます喜びが大きくなり、同時により一層業務に励んでいこうと言う気持ちが強くなる。
今、ここにいる誰もが今後のことを思うと…
楽しみ、喜び、幸せに心が躍ってどうしようもなくなってしまい、一刻も早く早くリンの商会設立が実現するのを願うのであった。
――――
「しょ、商会、め、名、で、ですか?」
「うむ…そうだよ、リン君」
すでに商会としての仕組み、そして内部統制は他の商会が羨む程に完成しており…
リンが会頭、エイレーンが会頭補佐となることも決定済。
そして、リリム、メイド部隊、フェリス達獣人娘が商会の雑事や作業補助で動くことも決定し、業績管理部隊も今のままで機能するので特に変更なし。
そして、スタトリンの神となるリン、王となるシェリル直属の商会となる為、今後の証明となる必要書類の発行、そしてシェリルがつい最近作ったばかりの、天に駆け上る古竜のイメージを象った証印を必要書類に押印するだけの段階まで来ている。
のだが、商会の名前をまだ決めていないと言うことで、それを決めようとジャスティンがリンに進言する。
「しょ、商会、の、な、名前…」
「私は特に商会名にこだわりはなく、名付けも苦手だったんでね…何のひねりもない、自分の名前をそのまま使っているだけの商会名になってしまっているよ」
「リン様、私も安直に自分の名前を商会名に使っちゃったクチです…」
ジャスティンは名付けが苦手だった為、安直に自身の名前を商会名としてしまったことを苦笑いを浮かべながら明かしてくる。
それに便乗するように、ジュリアもジャスティンと同様の理由で、自身の名前を商会名に使ってしまったことを、苦笑いを浮かべながら明かしてくる。
だが、会頭の立場となってからも自らの足で営業活動を行ない、その顔と人柄を多くの人々に見てもらったこともあって、ジャスティン商会の名前は瞬く間にして広がることとなる。
そして、ジャスティン商会はサンデル王国でもトップの規模と資産を持つ商会にまで成長を遂げることとなったのだ。
ジュリア商会に関しては、会頭であるジュリアが、今となっては人口三万人を超える都市となったスタトリンでも誰もが知っている、評判の美女であることが一番の要因となっている。
そんなジュリアが、会頭でありながら頻繁に現場となる店舗で、客と接していたのだから、人気が出るのも当然と言える。
リンにオーナーになってもらったことで、業務の仕組みも取り扱う商品も劇的な進歩を遂げ、スタトリンにある三つの店舗のいずれも販売スペースを重視しているおかげで客が買い物にも訪れやすくなっている。
会頭であるジュリアは筆頭となるのだが、現場となる支店で働く従業員の数も劇的に増加し、見目麗しい美人な女性店員に、精悍で整った容姿の男性店員が多く働いてくれていることもあって、ジュリア商会は規模こそスタトリン限定となっているものの、非常に根強い人気の優良商会として評判となっている。
なので、ジャスティン商会もジュリア商会も、商会名こそ安直ではあるものの…
結果として会頭である自身の名前を使ったおかげで、現場主義であるジャスティンとジュリアの人柄が認知されたこともあって、商会が成長できた大きな要因となっている。
「ははは…まあ、リン君は私やジュリア君のように好んで人前に出る性格ではないから、自身の名前をそのまま商会名に使うことはしないだろうがね」
「そうですよね!でもリン様はそんな奥ゆかしいところが、とても素敵で可愛らしくて、私…♡」
「ははは…ジュリア君は本当にリン君が好きで好きでたまらないのだな」
「当然です!私は自分の商会はもちろん、私自身の全てをリン様にお捧げしてますから!リン様、このジュリアは、いついかなる時もリン様を心から愛しております…♡」
今、リンの拠点に住んでいる女性陣は誰もがそうなのだが…
このジュリアのように、リンを見かけてはリンのことをどれ程愛しているかを積極的にアピールするようになっている。
そして、そのアピールでリンがその顔を赤らめて恥ずかしがっている姿を見て、蕩けるかのような恍惚の表情を浮かべてしまっている。
ひどい時はそれだけで終わらず、リンの幼く華奢な身体を包み込むように抱きしめ、これでもかと言う程に可愛がってしまうので、それでリンがあっさり気絶してしまうこと…
さらには、気絶したリンを手近なベッドに寝かせて、自分もリンを抱きしめながら添い寝してしまうことももはや日常茶飯事となってしまっている。
「あ、う、う……」
案の定、ジュリアに熱烈な愛してるアピールをされたリンは、その顔を赤らめてあわあわとしながら、恥ずかしがってしまっている。
そんなリンが可愛すぎて、愛おし過ぎてたまらないのか…
ジュリアはもうとろっとろに蕩けた恍惚の表情を浮かべてしまっている。
「おいおい、ジュリア君…リン君が恥ずかしすぎて困ってしまってるではないか」
「はあ…♡…リン様…リン様あ……♡」
「ははは……で、リン君」
「う、うう……?は、はい?」
「君の商会の名前だが、どうする?思いつかないようなら、この拠点にいる誰かに相談してみるのも手ではあると思うのだが…」
リンのことが大好きすぎて、もうとろっとろに蕩けてしまっているジュリアに苦笑を浮かべながら、ジャスティンはリンの商会の名前について、改めてリンに問いかける。
リンがどうしても決められなくて困るようなら、いざとなればジャスティン商会の職員も巻き込んで聞いてみることも視野に入れて、リンの反応を伺う。
「…そ、それ、だ、った、ら、ぼ、ぼく…」
少しの間、ジャスティンの言葉に考え込む様子を見せていたリンだったが、何かを思いついたのか…
収納空間から一枚の紙とペンを取り出し、近くに会ったテーブルの上ですらすらと何かを書き始める。
ジャスティンはそんなリンに少々驚かされながらも、その様子を静かに見守っている。
「…で、できた」
その幼く小さな右手に持ったペンをすらすらと動かすこと数分。
リンは、そのペンを置いて自身が書いたものを見返し、満足そうな笑顔を浮かべる。
「ぼ、ぼく、の、しょ、商会、の、な、名前、こ、これ、が、い、いい、と、思い、ます」
自身が書いたものを見返し終わると、テーブルに置いたペンを収納空間に収納し…
リンは、再びジャスティンのそばまで寄ってきて、自身が書いたものをジャスティンに広げて見せる。
「…『神の宿り木商会』?」
見た目十歳くらいにしか見えないような幼いリンが書いたとは思えない、見やすく綺麗な字で書かれていた名称を、ジャスティンは声にする。
その名称の下に描かれているイラストは、やはりリンのような子供が描いたとは思えない程の出来栄えで…
草原の中に雄々しく聳え立つ一本の巨木に様々な種族が集い、その中の誰もがとても幸せそうに手を取り合っている様子がとても精密に、そして今にも動き出しそうな程の躍動感を持って描かれている。
「ぼ、ぼく、ふ、ふと、お、思い、ついて、こ、これ、が、い、いい、って、お、思って……」
「…ほお…これは…」
リンが自ら提唱した、『神の宿り木商会』と言う名称もそうだが…
その下に描かれた、おそらく商会のイメージを表すイラストにも、ジャスティンは感嘆の表情を浮かべながら声をあげる。
そんなジャスティンに、リンは『神の宿り木商会』と言う商会名に込めた思いを、たどたどしくも説明していく。
今、自分の生活空間に世界樹がいて、そこに集うように家族と多くの従業員がいてくれること。
その中に、シェリルやフェルのような神に近い存在もいてくれること。
フェルが、神々が自分のことを溺愛し、とても気にかけてくれていると言っていたこと。
そんな、神様がすぐそばにいてくれるような商会。
神様が与えてくれる恵みを手に入れられる商会。
神様の温かで優しい慈愛の心に触れられる商会。
この世の理不尽に虐げられるすべての存在に、手を差し伸べられる商会。
この商会を、そんな商会にしていきたい。
その思いを込めて、この名前にした。
そして、商会の看板のイメージイラストとして、このイラストにした。
それらを、リンは一生懸命にジャスティンに説明していく。
「…なるほど…」
「ど、どう、で、でしょう、か?…」
「いや、本当に素晴らしいよリン君。この世の英雄であり、神となる君のその尊く優しい心をそのまま表したであろうその名称…私は素晴らしいと思う」
「!ほ、ほんと、で、です、か?」
「ああ、本当だとも。リン君、君の商会の名前は『神の宿り木商会』…これ以外にないだろう」
「あ、あり、が、がとう、ご、ござい、ます。う、嬉しい、です」
神の宿り木商会。
その名称に込められたリンの思い。
それらを聞かされて、ジャスティンはその心が震わされるのを感じた。
リンの商会は、まさにリンと言う宿り木の元に、この拠点に暮らす者を始め、現在では二万人超と言う人々が集い、それぞれの個性を活かして働いている。
そこに、シェリルのような古竜、フェルのような神獣、リム達のような従魔もいて、種族の壁など一切なく、誰に対しても分け隔てなく、リンはその全員を本当の家族のように思い、扱い、幸せにしている。
この『神の宿り木商会』は今後、間違いなく多くの人々の救いとなる。
ジャスティンの心に、そんな確信が生まれてくるのであった。
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