第248話 外国②

「えへへ…コカトリスの素材が手に入ったから、解毒剤い~っぱい作れる…嬉しいなあ…」


ネイティア共和国の国境、兼防壁となる森の中を、引き続き楽しそうに歩いて行くリン。


森に入った途端に遭遇したコカトリスを難なく討伐し、その死体を流れ出た血液もろとも収納して…

コカトリスが移動してきたために充満していた毒素も、自身の【解毒】を使って分解し、後に毒による被害が出ないようにと、後始末もきっちりと済ませている。


コカトリスの素材からは、非常に効果の高い最高級の解毒剤を大量に生成できる為…

これで毒に苦しむ人をいっぱい助けてあげられると、リンはその幼く可愛らしい顔を綻ばせて喜んでいる。


「あ、また魔物」


そんな笑顔を浮かべながら、ネイティア共和国の方に向かってさらに森を歩いていたところに、またしても魔物の気配を探知してしまう。




「グ、グルルル……」




リンの正面に現れたのは、鷲の頭部と上半身、そして翼に、獅子の下半身を併せ持つ…

体長は6mをゆうに超え、体高も4mを超える魔物。

グリフォンと呼ばれ、竜族と並んで災厄級とまで称される程に脅威度の高い魔物である。


獅子の部分から生えている脚は非常にしなやかかつ強靭で、そこから繰り出される打撃は鋼すらやすやすと砕き、爪は鋼すらやすやすと引き裂く程の攻撃力を誇る。

加えて敏捷性も非常に高く、戦闘能力の低い者から見れば、グリフォンの移動はまるで煙のように消える、と称される程。

獣型の魔物ではあるが知能も非常に高く、他種族の魔物はもちろん、人族の言葉も話せないだけで理解することができる。

また、【風】属性の魔法に特化しており、制御能力も非常に高い為一対多の戦闘にも無類の強さを発揮する。

翼は見せかけのものではなく、高い飛行能力も有している他、それ自体を攻撃に使うこともできる。

種族そのものの個体数が少ないのもある為か、群れで行動することは極めてまれであり、遭遇する時はほぼ一体となる。

だが、竜族同様に遭遇した者には死が確定してしまう、と専らの評判であり…

神の宿り木商会系列の冒険者ギルドでも、グリフォンに遭遇したら戦闘を仕掛けずすぐに撤退するようにと、周知徹底がなされている。


その身体のどの部位も余すところなく素材となるのだが…

その中でも特に希少価値が高いのは爪と羽。

爪はその硬度と【風】属性の魔力を高濃度で保有する為、【風】属性の魔法を内包した魔法武器を始めとする魔導具の素材として重宝されており…

羽は視力障碍を始めとする目の病気への特効薬を作る素材となり、グリフォンの羽を素材とした薬品は非常に高い効果を持っている。

その他の臓器も【風】属性の魔力を大量に保有している為、魔導具の素材として重宝されるなど、捨てるところがないと言い切れる程に貴重な存在となる。

一体討伐するだけで、莫大な財産を築くことが確約される程となっている。


「?あれ?…」


そんなグリフォンと対峙するリンなのだが…

先程のコカトリスと違い、目の前のグリフォンに自分に対する殺意や敵意などが微塵も感じられないことに、疑問符を浮かべてしまう。


「…グルウ…」


きょとんとした表情を浮かべるリンに、グリフォンはゆっくりと近づき…

威嚇する目的ではなく、自分に敵意がないことを伝えようとするかのような、優し気な鳴き声を一つあげると…

なんとグリフォンは、リンがまるで自身が忠誠を誓うべき主人であるかのように、その大きな身体を四本の脚を曲げて低くし、頭を深く下げてくる。


「…もしかして、ぼくと友達になりたいの?」


まるで敵意を感じない、それどころか自分に懐いてくるようなグリフォンに、リンはこのグリフォンが自分と友達になりたいのかと思い、それを言葉にする。


「…グルル…」


その言葉に、グリフォンはそれを肯定するような鳴き声を一つあげると、深く下げたままの頭を一度縦に振る。


「嬉しいな…じゃあ、ぼくの友達になって」


そんなグリフォンに、リンは技能【従魔】を発動。

リンとグリフォンの心が、つながっていく。




(リン様…この度は吾輩と従魔契約を結んで下さり、誠にありがとうございます)




リンと従魔契約を交わすことのできたグリフォンは、それをとても喜んでいることが分かる声で、リンへの感謝の言葉を贈る。


(?ぼくのこと、知ってるの?)

(はい…世界樹からのお告げを、吾輩も頂きましたので)

(!世界樹さんの…)

(世界樹の復活は、吾輩のような魔物にとっても喜ばしいこと。特に知能の高い名持ちの魔物であれば、なおのことでございます)

(そうなんだ…)

(この世に世界樹を復活させてくださったリン様は、まさにこの世の救世主…この吾輩、グリフが、リン様にお仕えさせて頂き…リン様を狙う輩…リン様を利用しようとする輩からお護りさせて頂く所存でございます)




名前:グリフ

種族:グリフォン

性別:雄

年齢:968

HP:7306

MP:2105

筋力:3101

敏捷:3678

防御:4011

知力:2050

器用:1654

称号:名持ちの魔物、勇者リンの従魔

技能:魔法・5(風)

   魔力・5(詠唱、回復、耐性)

   飛翔・5

※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。




この度、リンの従魔となったグリフォンのグリフ。

名持ちの魔物である為、通常のグリフォンよりも遥かに戦闘能力が高い個体となっている。

その戦闘能力が、称号【勇者リンの従魔】によってさらに向上することもあり…

グリフは言葉通りリンを護る為の露払い役として、リンに付き従うことを自らの心に定めている。


(ありがとう、グリフ!でもぼくもグリフのこと、護るから安心してね!)

(!なんと…吾輩を護るとおっしゃって頂けるのですか…)

(?だって、もうグリフはぼくのだもん。家族なんだから、護らなきゃ)

(!!…これが…これが今代の救世主…なんと、なんと大きく温かなお方…)


すでに従魔契約を結んでいるとはいえ、この時初めて顔を会わせただけの自分のことを、すぐに家族と呼んでくれるリンの器の大きさ、純粋な温かさと優しさに、グリフは感激してしまう。

従魔契約でつながっていることもあり、よりリンの純粋に優しい心が伝わってくる為…

なおのことグリフは、リンと従魔契約を結ぶことができて幸せだと、心から思えてしまう。


(ぼく、今はネイティア共和国がどんなところなのか見てみたくて、一人で旅してるんだ)

(!それはまた…どのような目的で、でしょうか?)

(ぼくの商会…神の宿り木商会って言うんだけど、ぼくの商会で何か、ネイティア共和国の人達のお役に立てること、ないかなあって思って)

(!なんと…人族の商会を、リン様が…それも、商会のトップとなるリン様が自ら、ネイティア共和国を視察する為にわざわざこの地まで…)

(うん。ぼく、ネイティア共和国の人達にも幸せになってほしいから…何かお手伝いできたら嬉しいなあ、って思ってて…)

(…なんと…なんと純粋で尊い御心…まさに、まさに救世主の御心…リン様、その為の露払いはもちろんのこと、リン様のお役に立たせて頂けることでしたら、この吾輩の力を存分にお使いください!!このグリフ、主となるリン様の侍従として全力を尽くさせて頂く所存でございます!!)

(!えへへ…グリフがお手伝いしてくれるなんて、ぼくすっごく嬉しいな)


リンがネイティア共和国の国境となるこの森を一人で徘徊している理由を聞かされ、グリフはリンはまさに今代の救世主だと確信してしまう。


人の幸せを我が幸せとし、人の喜びを我が喜びとする。

それも、ただただ純粋にそれだけを願う。


そんなリンが主であることを、グリフは誇りに思うと同時にこれ以上ない幸せに感じてしまう。

そして、自分がその為に付き従うと言ったら、ぱあっと天使のように眩く愛らしい笑顔を浮かべて喜んでくれるリンのその姿に、グリフはその心を撃ち抜かれてしまう。


(リン様!!このグリフ、生涯リン様の従魔としてお傍に仕えさせて頂きます!!)

(グリフがぼくのになってくれて、すっごく嬉しい!よろしくね、グリフ)

(!ああ…なんと、なんと素晴らしいお方なのだ…ではこれよりは、この吾輩がリン様のお傍にお付きし、リン様にご同行させて頂きます!!)


人族でありながら、魔物の自分を家族、と呼んでくれるリンの心があまりにも温かく、尊く…

グリフはリンを生涯の主と心に定め、リンの傍付きとしてリンを護る覚悟を定める。


こうして温かな従魔契約を交わしたリンとグリフは、ネイティア共和国の国境となる森の中を、さらに歩いて行くのであった。




――――




「ああ…リン様…」

「リン様…いったいどちらへ…」


場所は変わり、リンがスタトリンのすぐ近くに作り上げた地下拠点の一階。


一昨日、一通りの業務を終えてから姿を消してしまい…

それから帰ってこなくなってしまったリンのことが心配で心配でたまらず、神の宿り木商会の関係者は誰もが気が気でならなくなってしまっている。


「あんなにも天使のようにお可愛らしいリン様が、お一人で外になんて…」

「スタトリンなら、どこにいてもすぐに分かるはずなのに…」

「リン様はとても純粋で、お優しいお方…もし、よからぬ者に騙されたりしてしまったら…」


特に普段から傍付として仕えているメイド部隊のメイド達に専属秘書の女性達は、リンがいないことで心にぽっかりと穴が空いてしまったような寂しさに襲われてしまい…

さらには、とても純粋で優しいリンがよからぬ者に騙されたり、などと考えておたおたしてしまっている。


「…業務の管理はきちんとされているし、リンちゃんが普段から生産してくれている農作物や加工食品、鍛冶素材や錬金素材、薬品なども全て新たに収納されている…リンちゃん、いったいどこにいるの?」


商会の関係者の中で唯一、リンの収納空間を全て閲覧、管理できる権限をリン以外で与えられているエイレーンは、リンが普段の生産と商会全体の管理をこなしてくれていることを確認し、リンが行動不能な状態に陥っているわけではないと、ひとまずは安堵する。


だが、ほぼ二日も地下拠点はおろか、生活空間にある自宅にすら帰ってこないことには、さすがに不安げな表情を隠せないでいる。


「お兄ちゃん…寂しいよお…」

「おにいちゃん…」

「リンお兄様…」


リンのことを実の兄としてとても慕い、懐いているリーファ、ミリア、アルストも、リンがいないのがとても寂しくてたまらず、その可愛らしい顔に暗い表情を浮かべてしまっている。


「ああ…リン様…」

「リン様がお傍にいて下さるだけで、わたし達は幸せなのに…」

「やはりこの私が、この身をお捧げする覚悟でリン様に添い遂げさせて頂かないと…」

「!それは私の役目!リン様に添い遂げさせて頂くのは私!」

「だめです!リン様に女性をお教えさせて頂くのは、このわたしの役目です!」


リンのおかげで、今の幸せ過ぎる生活を与えられたこともあり、リンのことが大好きすぎてたまらない業績管理部門の女性達も、リンがいないことでその美貌に暗い表情を浮かべてしまっている。


特に、リンを異性としても過剰に愛していることもあり、誰がリンにその身を捧げて添い遂げるのかでわいわいと可愛らしい言い争いが始まってしまっている。

リンとの添い寝はメイド部隊のみならず、拠点と生活空間で暮らす、商会関係者となる女性達の誰もが志願すれば実施可能な役目となっている為…

それがあまりにも心地よくて幸せだと、その身に完全に覚えこまされてしまっている女性達は、リンと添い遂げたいと言う願望が日に日に強くなってしまっている。


「リン……妾はリンがいないと寂しくてたまらないのじゃ……」


スタトリンの王となるシェリルも、リンが傍にいないことでその絶世の美貌に暗い表情が浮かんでしまっている。

リンが傍にいるのが当然となっているシェリルは特に、リンがいないことで心に穴が空いてしまったかのような喪失感まで感じてしまっており…

この二日間はリンが暮らす、生活空間の自宅にある、リンが普段使っているベッドに潜り込んで、少しでもリンが傍にいる感覚に浸ろうとしてしまっている。


「リンちゃん…お姉さん寂しいよお…」

「旦那様……」

「旦那様…早く、早く帰ってきてよお…」

「旦那様がいないの、寂しすぎるよお…」


早くからリンに救われ、同じ空間で生活するようになったリリム、獣人として人族に追われるように生きていたところをリンに救われて今の生活を与えてもらうことのできたフェリス、ベリア、コティも…

リンが傍にいないことで、心に穴が空いてしまったかのような喪失感を感じてしまっている。


大好きで大好きでたまらないリンが傍にいないことがとても苦しくて、その美貌には暗い表情が浮かんでしまっている。


「リン様…いったいどちらにいらっしゃるのですか…」

「リン様…わたくしリン様がおられないのが、寂しくてたまりません…」

「リン様…アンは…アンは…リン様のお傍に…」


リリーシア、エリーゼ、アンの三人も、リンがいないことで寂しさが募ってしまっており…

もう一秒でも早くリンに帰ってきてほしくてたまらなくなってしまっている。


その戦闘能力はもはや疑う余地もない程なので、魔物や山賊などに襲われても何の問題もないのは分かり切っているのだが…

リンがそばにいるだけで得られる幸福感が、どれ程に得難いものだったのかを痛感してしまっている。


反面、リンの強さを何よりも信じている男性の関係者達は、むしろ何も心配などしていないのだが、それでも自分達の守護神となるリンが、地下拠点や生活空間の自宅と言う聖域にいないことに空虚な思いを多少なりとも抱くこととなってしまっている。

その為、従業員の中に浮かない表情を浮かべる者が増えることとなってしまっている。


この状況を危惧したロクサルが、気を利かせてすかさず諜報部隊の隊員にリンの捜索を指示する程となってしまい…

それを指示された諜報部隊の隊員達も、自分達が崇拝してやまない守護神を探し出す為に鼻息荒く意気込んでいくのであった。

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