第209話 策謀

「ふふふ…そのスタトリンとか言う小さな町が大きく発展して、国として独立までしているというのなら、この妾が奪い取り、その国の女王として君臨すればいいこと!」

「そうそう!そうすれば、そこの民も作物に生産物全てが僕達のもの!」

「そうよ~、妾のロデナンは本当にいい子ね~」


サンデル王国の王城にある、数十人規模の会議を行なう為に作られた、大型の会議室。

そこで、第二王妃および第一王子派の貴族が結集し、その貴族達の目的の為に担がれる御輿となる、第二王妃ジャクリーヌと第一王子ロデナンを盛り立てている。


「(ふん…ただ我らに担がれているだけの傀儡が…)」

「(貴様らは我らの悲願を成就する為の御輿に過ぎん…)」

「(貴様らが王政の実権を握ることが叶えば、即座にその座から追い落してやるわ!)」


自己顕示欲、物欲、性欲…

ありとあらゆる欲望を、オークの方が実用性があるであろう醜く肥え太った体躯に詰め込んだ者達の集まりとなっている。

それは、第二王妃となるジャクリーヌ、第一王子となるロデナンも同様で、まさにサンデル王国の膿をその身にため込んでいる、と言っても過言ではない。


そんな、傍から見れば魔物の群れのような集団が、醜い腹の探り合い、騙し合いに興じている。

その騙し合いに真っ先に騙され、乗せられ…

ジャクリーヌとロデナンは、今この世の天国とまで称される程に発展し、ついに小国として独立を果たしたスタトリンを、武力行使による略奪を行なおうとしている。


正確には、それをする為の御輿として担がれているのだが。


キーデン伯爵領に長年巣くっていた癌のような存在…

ドグサレ商会とグドン名誉子爵が、つい最近その悪事を徹底的に明るみにされてしまい、ドグサレ商会は取り潰し、グドン名誉子爵は死刑となり、その悪事に加担していた一族郎党は全て労働奴隷として無期限の労働を義務付けられることとなった。


それをきっかけに、サンデル王国内での悪徳貴族の悪事が徹底的に暴かれ…

その派閥となる第二王妃・第一王子派の貴族はことごとく爵位の剥奪、一族郎党全ての労働奴隷化、当主の死刑が言い渡されることとなっている。

もちろん、その悪徳貴族に深く癒着する悪徳商会や騎士団なども例外ではなく、動かぬ証拠を容赦なく突き付けられ、徹底的に国の膿を吐き出すように悪事を働く商会や騎士団の取り潰し、労働奴隷化が進められている。


当然悪徳貴族や商会側もしらを切ろうとするのだが…

神の宿り木商会直属の諜報部隊所属と言う、非常に優秀な諜報員達が国王直接の依頼によって調査しているおかげか、言い逃れのできない証拠を全て突き付けられ、王命による監査も入って容赦なく悪事の全貌を暴かれてしまう為、どうすることもできず、お縄に着くこととなってしまっている。


それにより、第二王妃・第一王子派は急速にその勢力を削がれることとなってしまっており…

もはや国内においても身の置き場がなくなってきてしまっている。


焦りに焦った悪徳貴族達が懸命に考えた起死回生の策が、小国として独立したばかりのスタトリンを、武力制圧により略奪する、というもの。

聞いた話によれば、スタトリンは貴族と言う存在もおらず、しかも人族のみならず亜人も普通に受け入れ、その全てがお互いを認め合って平和に暮らしており…

そのうえ、王都チェスターですら存在しないような、非常に利便性の高い魔導具による公共施設や設備があり、生活面でも非常に水準が高くなっている、とのこと。


であれば、それらを根こそぎ奪うことができれば、自分達の再興の地として使えるし、そこに住む民を糧として使い潰してやれば贅の限りを尽くすこともできるだろうと企んでいるし、そこをサンデル王国の植民地として略奪できたとなれば、自分達の功績にできるだろうと言う目論見もある。


「(正直、今の我らではかき集められる戦力としては…)」

「(二万、がいいところか)」

「(だが、聞いた話ではスタトリンはまだ総人口が一万を超えた程度の、吹けば飛ぶような小国…)」

「(資金はこの傀儡共からいくらでも引っ張ってこれるしのう…それで傭兵や戦闘能力のある奴隷を買うのも一つの手か)」


独立したばかりの小国であり、王以外は平民しかいないと言うのも悪徳貴族達がこのような考えに至らせてしまった要因となっている。

今の時点で人口は五万人超となっているものの、そこまでの詳細な事実までは知らず、ただ少し聞きかじった程度の情報で負けることはないだろうと高をくくってしまっている。

ジャクリーヌとロデナンを御輿として担ぎ上げるのも、いざと言う時の責任を全てそちらに丸投げする目的もあるからだ。


そうして、自身の手から糸を伸ばして操る傀儡のようにジャクリーヌとロデナンをうまく言いくるめ、最悪の場合には全ての罪をこの二人に着せて難を逃れる算段も立てている。

無能の象徴、とまで言われており、実際問題弱い者いじめをすることしか能のない二人であるがゆえに、このような甘言にもあっさりと乗ってしまうこととなる。


「(ふふふ…これがうまくいけば、きっと陛下も妾を見直してくれるはず!さすれば、平民上がりと言う薄汚い第一王妃など捨てて、こちらへと戻って来てくれるはず!)」

「(義姉上やアルストのような、平民の血が混じった薄汚い王族なんかより、僕の方が次期国王に相応しいんだ!これがうまくいけば、絶対に父上は僕のことを認めてくれるはずだよね!)」


国王マクスデルが、第一王妃エリーゼにベタ惚れで溺愛しているのは、王城の中でも有名な話。

加えて、エリーゼの執政能力、王族としてのカリスマ性はどれも国王マクスデルをも上回るともっぱらの評判で、さらには三十台前半となる今でも、二十台前半でも通用する若々しさに『豊穣の女神』とまで称される程の美貌、そして国内でも有数の魔導士としての力まで備えていることもあり、エリーゼを信奉する民は国内でも非常に多い。

一介の平民でありながら国王に見初められ、王妃としての立場につき、しかもその実力で結果を残している、と言うのも民にとっては憧れとなってしまっている。


そんなエリーゼと比べること自体がおこがましいはずのジャクリーヌは、スタトリンの略奪を成功させればマクスデルが自身を見てくれるだろうと言う、盛大な勘違いに気づくことなどなく、自身に都合のいい展開だけを見てしまっている。

それはロデナンも同じで、平民上がりのエリーゼの血を受け継いでいるリリーシアやアルストよりも自身の方が王に相応しい、などと言うくだらない妄想に浸ってしまっている。


このサンデル王国にとっては守護神となるリンが発展させ、国としての独立にまで導いたスタトリンに武力で攻め込み、略奪しようなどとマクスデルやエリーゼの耳に入れば、ジャクリーヌとロデナンはもちろんのこと、それを企てた貴族及び一族郎党全て、その首が物理的に飛んでしまうこととなる。

今ここに集う者達に、その現実を知る由などあるはずもなく…

醜い腹の探り合いをしつつも、無能ゆえに何も考えられない第二王妃と第一王子を口八丁で唆し…

国王と第一王妃の逆鱗に触れることは間違いなしの、破滅の未来しかない道を選んで、もはやありもしない国家権力の集中を企むのであった。




――――




「あ、は、はな、し…」

「お兄ちゃん♡」

「おにいちゃん♡」

「リンちゃん♡」

「リン様♡」


場所は変わり、スタトリンにあるリンの地下拠点。

その一階で、リンはぎゅうっと抱きしめられている。


リーファとミリアは、リンの胸に顔を埋めて思いっきり甘えており…

リリムと拠点の住人になったばかりのマテリアは、リーファとミリアごとリンを背中から思いっきり抱きしめている。


「えへへ♡お兄ちゃんだあい好き♡」


リーファは、失った右腕をリンの神がかり的な力で再生してもらえたのがよほど嬉しかったのか…

今まで以上にリンに甘えては、その溢れんばかりの愛を伝えてくるようになっている。

リンにべったりと抱き着いて甘えるだけで、天にも昇る程の心地よさと幸福感を感じられることもあり、リーファはリンを見かける度に抱き着いてくるようになっている。


「おにいちゃん♡ミリアおにいちゃんだあいすき♡」


ミリアも、称号【神々の愛し子】を取得したことによってよりその神気が増しているリンのことが、ますます好きになってしまっている。

リンの全てが愛おしくてたまらず、ミリアもリンを見かけてはこうしてべったりと抱き着いてはうんと甘えるようになっている。


「リンちゃん…リンちゃん…お姉さんリンちゃんが大好きで大好きでたまらないの♡もう、おかしくなっちゃいそうなくらい愛してるの♡」


リリムはリンが『栄光の翼』を追い出されてからすぐにリンと共に生活するようになったこともあり、その愛情は日に日に膨れ上がってしまっている。

リンの全てが愛おしくて愛おしくて、リリムはとにかくリンに添い遂げて、リンが喜ぶことをすることばかりを考えている。

その豊満な胸をぐいぐいと押し付けるようにリンをぎゅうっと抱きしめ、リンの匂いをかいでは、もうどうしようもない程の幸福感に浸ってしまっている。


「リン様♡わたし、リン様がどうしようもない程に大好きで、心が壊れちゃいそうな程に愛してます♡リン様のおそばを、片時も離れたくありません♡」


マテリアはこの生涯で、もう二度と巡り合うことなどない、まさに運命の人と出会えたこと…

そして、その相手の傍で仕え、添い遂げることができて幸せ過ぎてたまらない。

マテリアもその大きく育った胸をぐいぐいと押し付けるようにリンを背中からぎゅうっと抱きしめ、リンの膨大すぎる程に膨大な、それでいて心地のいい魔力を感じつつ、リンと触れ合える喜びと幸せに浸っている。


拠点で暮らす他の女性達も、隙あらばリンをめちゃくちゃに可愛がって愛してあげようと、にこにことしながら目を光らせているのであった。




~~~~




リンの生活空間で、清浄な空気と魔力、そして世界樹の葉や雫といった貴重な恵みをくれる世界樹のお告げは、リンがいつもくれる膨大な魔力のおかげでより範囲が広がっている。

そのおかげで、もはやサンデル王国のみならず、大陸中の亜人が世界樹を復活させた英雄に仕えようと、スタトリンを目指して一斉に移動している。


それだけではなく、国として独立を果たしたスタトリンの非常にいい話も、もはや大陸中に広まっていることもあり…

サンデル王国のみならず、他の国や町、村、集落などからもスタトリンに移住しようと移動する者が後を絶たなくなっている。


ここ数日でスタトリンの国民となる者、神の宿り木商会の従業員となる者、冒険者ギルドで冒険者として登録する者が著しく増え…

スタトリンの人口はついに八万人を超えることとなった。


そのおかげで、神の宿り木商会の人員も大幅に増加され、サンデル王国に展開し続けている各支店のスタッフも十分に確保することができており…

商会設立から二月目となるこの月は、すでに初月で達成することのできた大白金貨五十億枚と言う売上を大きく上回るであろう見込みが出ている。


それのみならず、各生産部門の人員も大幅に増えたおかげで商会の生産力も著しく強化され、各商品の生産ペースがこれまでの五割増しにまで跳ね上がっている。

おまけに防衛部隊の人員も大幅に増え、純粋な戦闘はもちろん偵察、諜報も大幅に強化されることとなっている。


加えて、スタトリンの住み心地の良さ、魔の森のすぐそばと言う立地にも関わらず魔物が脅威とならない堅牢さ、公共施設や設備の非常に高い利便性…

どれをとっても新たに来た者には天国としか言いようのないものであり、それらを作り上げたのが、このスタトリンに置いて神として崇められているリンと言う少年だと、教会の神父や修道女はもちろん、すでに住んでいる民からも嬉々として語られることとなり、それらが全て真実であることは容易に証明できる為…

八万人超にまで増加した国民全てがリンを崇拝し、日々感謝の祈りを捧げようと教会を訪れるようにまでなっている。


「!リ、リン様だ!」

「このスタトリンの守護神様だわ!」

「ああ…リン様のお姿をこんなにも間近で拝させて頂けるなんて!」

「リン様~!!いつもスタトリンを護ってくださって、ありがとうございます!!」


リンはスタトリンの民が困っていることはないかと、適度にスタトリンの領土を散歩がてらに視察に来たりするのだが…

その際、リンを見かけた民が感激のあまり涙を流しながら跪いて、リンと言う唯一無二の神と同じ世界で、同じ国で生きられることに、最上の感謝の祈りを捧げるようになっている。


「あ、あの、ぼ、ぼく、か、神、様、じゃ…」

「!ああ!リン様が私にお声を!」

「リン様!わしはリン様のおかげでこうして日々を平和に過ごさせて頂いておりますじゃ!」

「リン様が…リン様がわたしにお声を…はああ…幸せ…♡」

「リン様…♡…あたしリン様のお姿を拝させて頂けて…幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうですう…♡」


そんな風に民に崇拝されるのが居たたまれなくて、リンはあわあわとしながら、自分は神様なんかじゃない、と儚い抵抗をしてしまうものの…

民達はもはやその姿を見られるだけで、その声を聞けるだけで幸せの絶頂に至ってしまっている。


「あ!リン様!」

「リン様が、こんなところに!」

「リン様!」

「リン様!」


その喧騒を聞きつけて、他の民達もリン見たさに駆けつけてくる。

そして、生のリンを拝むことができて誰もが最上の幸福に浸ることができている。


「リン様~♡恐れ多いとは思いますが、どうかわたしをリン様の専属メイドにしてください~♡わたしをリン様のお傍でお仕えさせてくださ~い♡」

「あーずるい!リン様~♡あたしを専属メイドにしてくださ~い♡」

「リン様♡私を専属メイドとして、リン様のお傍でお仕えさせてください♡」


さらには、リンに専属のメイド部隊があることを聞いて、自分もリンの専属メイドになりたいと、リンに直接志願してくる女性達も後を絶たない。

ただただ純粋にリンの専属メイドとして、リンのお世話をさせてもらえたら幸せ過ぎてたまらないと日々そんな妄想に悶えている彼女達。


最も、神の宿り木商会の拠点の方でリンの専属メイドの希望を出して、交渉をすることはできるし、そちらからリンの専属メイドが採用されることが正式な手続きとなるのだが…

リンを見かけた彼女達は、そんなことも思い至らないままリンに直接交渉をすることとなってしまっている。


ちなみに、専属メイドとしてリンの傍付きを心から夢見ている彼女達は、元々他の地方の有力な商会の上役や貴族のメイドとして経験がある者ばかりで、大体十台後半~二十台前半の美人、美少女となっている。

その容姿ゆえ、主人に手を出されそうになったことも一度や二度ではないのだが、それをどうにか回避し、その貞操を守り抜くことには成功している。


この世界の実情と職業柄、仕事として割り切らないとやってられないのがメイドと言う職業なのだが…

その主人がリンとなるだけで、彼女達にとってはメイドと言う職業がこれ以上ない程に天職だと断言できるようになってしまう。

だからこそ、彼女達はリンのメイドになりたくて、それを夢見てこのスタトリンまで来たのだから。


「あ…ぼ、ぼく、の、メ、メイド、さ、さん、に、な、なる、の、って、う、嬉しい、で、ですか?」

「はい!!わたしリン様のメイドにならせて頂けたら、それだけで幸せ過ぎてたまりません!!」

「あたしもです!!リン様のメイドとして、リン様のお世話をさせて頂けるなんて…幸せでいっぱいな未来しか見えません!!」

「私も、リン様のメイドにならせて頂いて、リン様にお仕えさせて頂くのが夢なんです!!ですから、それが叶うのならまさに幸せそのものです!!」

「な、なら、ぼ、ぼく、み、皆さん、に、メ、メイド、さん、に、な、なって、ほしい、です」

「!!リン様が、こんなにもお喜びに…はああ…♡」

「ああ…リン様…リン様の笑顔…♡」

「リン様…リン様…私、私リン様のお世話、い~っぱいさせて頂きますね♡」


リンのメイドになりたい自分達の、それが最上の幸せだから。

だから、自分達に喜んでほしくて、メイドになってほしいと言うリンの言葉、そして心。


その言葉と心、そして天使のような可愛らしい笑顔に、メイド志望の彼女達はその心を撃ち抜かれてしまう。

もう、リンへの敬愛心はもちろんのこと、女としての愛も抑えきれない程に溢れかえってしまう。


いつもこのスタトリンを護ってくれるリンに、いっぱい喜んでほしい。

いつもこのスタトリンを護ってくれるリンを、いっぱいお世話したい。

いつもこのスタトリンを護ってくれるリンが望むのなら、この身も捧げて自分達の愛を思いっきり伝えたい。


そんな想いで心がいっぱいになっている彼女達を、リンは商会の拠点に案内し…

メイド長となるローザとの面談の結果、彼女達はリンの専属メイドになる夢を叶えることとなるのであった。

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