第189話 設立⑤
「スタトリンの諜報部隊の皆さん、はじめまして!」
「おれ達、神の宿り木商会の防衛部隊で調査・偵察チームに所属してます!」
「今後はこちらと連携して、商会の為になる調査と、敵の接近の検知に尽力するから、よろしくね!」
スタトリン第一領地の西側にある、町の諜報部隊の本部となる地下拠点。
そこに、神の宿り木商会の防衛部隊で、主に偵察と調査を担う兎人族や犬人族の者達が、今後はスタトリンと神の宿り木商会の防衛を担う者同士として、顔合わせをしている。
「こちらこそ、よろしくな!」
「音で敵の場所を察知してくれるなんて、すっごく頼りになる!」
「探し物とかも、匂いで場所を特定できるのは凄いな!」
「こちらこそ、今後共よろしくです!」
今となっては多種多様な種族が当然のように触れ合い、お互いを認め合っているスタトリンである為、獣人である彼らに対しても、諜報部隊の面々は嫌悪感など感じることもなく…
それどころか、頼りになる存在が来てくれたことを素直に喜んでいる。
「……こちらとしても、獣人の鋭い感覚はとても頼りになると思ってます。よろしくお願いします」
諜報部隊の隊長となるロクサルも、頼りになる人材が部隊と連携して調査をしてくれると言うことで、心から歓迎の笑顔を浮かべている。
「……この諜報部隊は、今後はリン会頭が設立された神の宿り木商会所属となります。ですが役割そのものは大きくは変わりません――――」
ロクサルは、リンが神の宿り木商会を設立すると話を聞き、実際に設立されてからは対外的にはリンのことを、『会頭』とつけて呼ぶようになった。
そして、自身がリンに仕えていると言う態度で話をするようになった。
これは、自分の中でどこか曖昧だったリンへの態度をはっきりとさせる為の、ロクサルの決意表明のようなもので…
リンが、自分にとって仕えるべき存在であると言うことをしっかりと自覚する為でもあった。
だが、当のリンの前でそう態度を改めると、リンはどこか距離を置かれたような気がしてしまうのか…
とても悲しそうな、しょんぼりとした表情になってしまう為…
渋々ながらロクサルは、リンと気心知れた家族達の前では今まで通りに、そうではない対外的な場所では自身が所属する商会の会頭として接するようになったのだ。
そんな出だしの言葉の後に、神の宿り木商会の一員となったことによる変化の説明をしていく。
・諜報部隊の本部拠点から、神の宿り木商会の防衛部隊本部直通の通路を開通
・二時間交代で、スタトリン周辺にいくつも作られた簡易拠点で外敵の警戒
・サンデル王国に出向く隊員は、売れ筋の商品や民の需要についても調査
目立った変化は、以上三点。
この諜報部隊の本部となる地下拠点から、リンの生活空間にある防衛部隊本部直通の経路を開通してもらったので、お互いに行き来することができるようになった。
それにより、より密な連携を取ることができるようになっている。
外敵の警戒は、主にその優れた聴覚、嗅覚による気配察知に長けた兎人族、犬人族をメインに実施されることとなった。
人員の数も十分すぎる程なのもあり、基本は二時間交代で行なうようになっている。
そして、商会の一員となったこともあり、サンデル王国に出向く隊員に追加の調査項目として、出向く領地で流行りの商品や、需要の高い商品…
さらには、民がその地に望む施設や設備などが加わることとなった。
そうして調査した内容を、隊長となるロクサルがまとめて商会の本部となるリンの地下拠点に報告に行くこととなっている。
それ以外は、これまでと変わらずの活動内容となっている。
また、諜報部隊も五百人を超える大所帯となっている為、隊長となるロクサルの下に信頼置ける者をリーダーとして小部隊を編成し、その小部隊ごとに活動を行なってもらうこととなった。
そして、ロクサルはその統括をするようになっている。
「(……この俺が、こんな規模の部隊を率いる隊長になるなんてな…それも、神の宿り木商会なんて大商会の一員にまで…本当に、何もかもがリン会頭のおかげだ。そのリン会頭に報いる為にも、俺はこれからも頑張らないとな!)」
リンに自分を家族として受け入れてもらえてから、毎日が幸せでたまらない。
リンのおかげで、何の不安もない生活を送ることができている。
リンは常に、自分に幸せを与えてくれる。
もはやこのちっぽけな生涯をかけても返しきれない程の大恩。
それを少しでも、返していきたい。
ロクサルは今日も、リンの大恩に少しでも報いる為に…
自らにできることを精いっぱい取り組み、しかし部隊の隊員に決して無理をさせないようにと、諜報部隊の隊長としての責務を全うしていくのであった。
――――
「リン様!世界樹をこの世に復活させてくださった、我らの英雄様!」
「私達ハーピーの一族は、リン様に忠誠をお誓い致します!」
「そして、リン様のおそばで、リン様の手足としてお仕え致します!」
そして、この日新たにリンの元へと訪れた、スタトリンの…
そして、神の宿り木商会の一員となるハーピーの一族。
ピアのように【人化】が使える者がほとんどであり、しかも人化した姿は誰もが美しい容姿をしている。
加えて、種族特性である【魅了】に優れた【闇】属性の魔法もある為…
ピアと同様に諜報活動をメインに、スタトリンに攻め込んできた敵を捕虜として捕らえた時など、その捕虜から情報を引き出す役割も与えられることとなった。
その為、防衛部隊の調査・偵察チームに所属することとなっている。
また、人化した時の美しい容姿を武器として、商会の各支店の臨時接客スタッフとして働くこともハーピー達は快く承諾してくれた。
そして普段は、リンが生活空間に新たに生み出した、自然の恵みが豊富な大きな山一つをハーピー達の住処として与えられ…
普段はそこで暮らしつつ、商会の一員として働くこととなった。
このハーピー達も、世界樹からの夢のお告げにより、リンの元へと馳せ参じ…
そして、ドライアド同様に心無い人族に狙われ、住処を転々としていた生活から抜け出すことができたのだ。
「リン様!魔法や錬金術のことでしたら、このウィッチ族にお任せを!」
「世界樹を復活させてくださったリン様の元で、あたくし達の力を存分にふるわせて頂きます!」
「リン様の神の宿り木商会で販売する商品の開発も、全力でお力添え致します!」
ハーピーの他にも、世界樹のお告げを受けてリンの元へと馳せ参じた種族がもう一つ。
その種族の名は、ウィッチ族。
ウィッチ族は姿形は人族となんら変わりないが、人族ではなく亜人なのかどうかは分からない。
魔物かも知れないし、妖精かも知れない。
が、今のところその分類は不明となっている。
身体能力こそは、全ての『人』とつく種族の中では最弱となるものの、名前の通り、魔女の称号に相応しい、飛びぬけた魔法の力と錬金術の力を併せ持つ、極めて希少な種族。
また、種族特性として女性しかおらず、繁殖の方法としては異種族の男性と交配するか、種族特性の一つとなる膨大な魔力を全て使って、自らの分身と言える子を作ることで成している。
異種族との交配で子を成すことはできるのだが、いずれにせよ女性しか生まれず、しかも生まれる子は100%ウィッチ族となる。
しかも、子を成す為に交わった男と生涯を寄り添うなど絶対にしない為、事を成せばその男の記憶は魔法で全て消してしまう。
個人主義で魔法や錬金術への研究欲が凄まじく、年単位で特定の場所に引きこもって研究に没頭するなど日常茶飯事で、そもそも種族の個体数そのものがこの世界において数十程と、非常に少ない。
その為、ウィッチ族の存在そのものが、この世界ではほとんど知られていない。
種族としての寿命は人族よりもかなり長く、長ければ千年、短くても六百年はゆうに生きることができる。
その上、ある程度個体差はあるものの、人族で言う二十代程の容姿まで成長すれば、その時点で容姿の成長、老化がなくなってしまう。
その為、寿命を終える時も若い女性の姿のままとなっている。
そんなウィッチ族だが、自分達が物の数に入らない程の膨大な魔力を有し、男であるにも関わらず魔法と錬金術に優れたリンの存在を知り…
自分達にとって母なる聖木と言える世界樹を復活させてくれた英雄となるリンに仕えたいのと、リンの元で大好きな魔法と錬金術の研究に没頭したいと言う思いが、彼女達の足をリンの元へと向けさせたのだ。
ウィッチ族には、その優れた魔法と錬金術の力を活かすべく商会の商品開発、そしてリンの生産活動の支援を主に、必要時には商会内部の雑務と戦闘時の後方支援を任せることにした。
もちろん、空いている時間にはいくらでも研究をしていいと言う条件まで付けており、これにはウィッチ族全てが大喜び。
さらには、従業員の居住地近くに作られた、ハーピーの住処となる山のふもとにウィッチ族の為の研究施設を建設し、普段はそこで住み込みで研究と生産に取り組んでくれればいいと言われ、ウィッチ族はますます大喜び。
山の方も自然の恵みが豊富で、リンの収納空間にも研究資材となるものが大量にある為、ウィッチ族はずっとリンの元で仕えようと心に誓う。
こうして、神の宿り木商会に魔法と錬金術を主とした研究開発部隊が加わった為、その生産力がますます向上することとなっていく。
「リン、お主は本当に凄いのう…ハーピーもそうじゃが、あのウィッチ族までもがリンの元へと馳せ参じてくるとはのう…」
「え、えへ、へ…み、皆、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」
「!!(ああ…妾の旦那様はなんと尊く可愛らしいのじゃ…♡)リンのおかげで、この生活空間は多くの種族が手を取り合って暮らす楽園のようになっておる…しかも、全員が神の宿り木商会の頼りになる従業員…これ程の商会がスタトリンを支えてくれると思うと、もはやこの先何の不安もないと言い切れる程なのじゃ♡」
この日、新たに神の宿り木商会の一員として、リンの生活空間に加わったハーピーとウィッチ族との顔会わせを終え…
商会の会頭として、ハーピーとウィッチ族のみんなが自分の生活空間に来て喜んでくれたのを、我が事のように喜んでいたリンと…
そこに一緒に立ち会っていたシェリルが、リンの自宅で一息ついている。
そのリンの自宅だが、元々自分で建てていたログハウスを、リンが生み出した世界樹の分身体が取り込むかのように覆っており、しかもその分身体の中に広々とした空間が作られている。
ログハウスの方も、世界樹の分身体に覆われている箇所を思い切って繰り抜き、分身体の中にある空間とつないでいる。
しかも分身体の幹をかなり太く作っており、元々のログハウスが一階のみだったところに、二階と三階を追加している。
分身体とは言え世界樹である為、中はとても清浄な空気と魔力に満ち溢れ、寒くもなく暑くもなくの、非常に快適な温度も保てており…
そこにいるだけで体力と魔力が回復する効果が生み出されている。
二階、三階はくつろぎ空間として作っていて、ベッドも置いているので、家族が来た時にそこで寝泊まりしてもらうこともできるようになっている。
さらには、裏の山の麓から行ける、その地下にあるミソやショーユなどの加工品の製造施設と、リンが作った風呂場に自宅から直接行き来できるようにしており…
リンは心の赴くままに、自宅の機能性を向上させていっている。
「もうスタトリンは国としての運営も始まっておる…近隣国であるサンデル王国の王族とも、友好と言える関係を築けておるし…神の宿り木商会がその王族と直接契約を結ぶこともできた…これも全て、リンのおかげなのじゃ」
「ぼ、ぼく、じゃ、な、なく、て、み、皆、さん、の、お、おかげ、です」
「!ふふふ…そうじゃな。じゃがの、リン…そのみんながこんなにも働いてくれるのは、お主が神のごとき能力を持っているのはもちろん…お主が本当に素敵で、誰よりも愛される存在じゃからじゃよ」
「そ、そう、で、です、か?」
「そうじゃよ、リン。みんなお主を心から慕って、お主の為にと懸命に己の役目を果たそうとしてくれる…常に誰かの為に、と言うお主の精神に誰もが感銘を受け、自分もそうであろうとしてくれる…お主はまさにスタトリンの神なのじゃ」
スタトリンの王と言う役割を担うシェリルは、常日頃からリンの存在に心底感謝しており…
リンのおかげでどれ程心強いかを実感している。
王とは言え、自分もリンと言う神に仕える一人だと、常日頃から思っている。
リンがいてくれるおかげで、スタトリンはとても平和に、順調に国としての発展を続けており…
そこで暮らす全ての者を幸福に導いている。
そんなリンを愛するシェリルの心は、日に日に大きくなっている。
もう片時も離れたくないと言う思いが止めどなく溢れかえって…
いつだってリンのそばにいたくなっている。
「リン…愛おしくて愛おしくて…妾…もうどうにかなってしまいそうなのじゃ…♡」
リビングで隣同士に座っていたリンを、シェリルは愛おし気に抱きしめる。
それだけで、シェリルの心に幸せが溢れかえってくる。
「あ、は、離、して…」
「いやなのじゃ♡リンは妾の最愛の旦那様…もっともっとリンを感じたいのじゃ♡」
極上の美少女であるシェリルに、包み込むように抱きしめられて…
リンはそのコミュ障が顔を出してしまうものの…
シェリルはその心の赴くままにリンを抱きしめ、思う存分にリンを感じようとしてしまう。
そして、リンの幼い頬にシェリルはその狂おしい程の愛情を乗せたキスをしてしまう。
それも、一度ならず何度も。
「あ、う、う、う…」
「リン…リン…大好きなのじゃ…♡…心の底から、愛してるのじゃ…♡」
すっかり女の顔となってしまっているシェリルが、リンを愛したくてぎゅうっと抱きしめたまま、その幼い頬にキスの雨を降らせてしまっている。
そんなシェリルの愛情表現に、リンは恥ずかしくてたまらず、その顔を真っ赤に染めてしまっている。
この後、すぐにリンは気絶してしまうものの…
シェリルはその愛情が収まることなどなく、すうすうと眠るリンを抱きかかえてベッドに入ると、それはもう幸せそうな笑顔を浮かべてキスの雨を降らせながら、リンに添い寝して愛し続けるのであった。
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