第190話 設立⑥

「皆様、私がリン様直属のメイド部隊で長をさせて頂いているローザと申します。至らぬ点も多い私ですが、どうぞ皆様のお力添えを頂けると嬉しいです。よろしくお願い致します。リン様はメイドの私達にもとてもお優しく、私達の幸せをとても喜んでくださる、まさに最高のご主人様です。そのリン様の為にも、精いっぱいお仕えさせて頂きましょうね」


リンが生活空間でシェリルにひたすら愛されているその時。


地下拠点の方では、ローザがこの日新たにメイド部隊に加わった新人メイド達に、慈愛を象徴する聖母のごとき優しい笑顔を浮かべながら、挨拶を行なう。


もはやリンの拠点、そして新たに設立した神の宿り木商会の縁の下の力持ちとして、なくてはならない存在となっているリンのメイド部隊。

今後は、国としての運営が始まっているスタトリンの国営業務をサポートする存在としても期待がかけられている。


そのメイド部隊も、魔法と【家事】のレベルが向上し、いくつもの業務補助を経てより信頼感が増しているローザを筆頭に、個々の資質はそれぞれの分野があれど非常に高くなっているものの…

さすがに元の八人と言う人数では人手不足の感が否めなくなってきており…

神の宿り木商会の設立を機に、新しいメイドを加入させることにしたのだ。


「「「「「「「はい!こちらこそご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます!メイド長様!」」」」」」」


この度、新たにリンのメイド部隊に加わることとなったメイドは七人。


七人とも年齢はまだ十台半ばから後半と年若く、それぞれの個性はあるものの容姿はまさに美少女と言えるもの。

全員が技能【家事】を有し、それぞれ料理、清掃、整理整頓、洗濯に特化しており、この度称号【勇者リンのメイド】を取得したことでそのレベルが向上している。

最低限の読み書きや簡単な計算もこなせる為、商会の業務補助も十分にできるだろうと判断され、この度採用されることとなった。


この七人は、元はサンデル王国の中でも第二王妃、第一王子派の貴族が統治する領地の民。

その圧政により日に日に困窮していき、それでも生活を成り立たせようとの必死の頑張りも空しく、両親共に身体を壊してなくなってしまうと言う悲劇が起こってしまった。

さらには両親を失ったその直後に、その美しい容姿を領主に目を付けられ、税を納められないのなら自らの性奴隷となれ、などと突きつけられてしまう。

もはやどうすることもできない状況にまで追い込まれてしまった時、この世の天国だと言う噂を至る所から聞くようになったスタトリンなら、と覚悟を決め…

思い切ってそれぞれの領地から飛び出し、その足でスタトリンへと向かい、そしてたどり着いた。


そんな経緯があるからなのか…

七人の新人メイドは誰もが、どことなく不安げな、それでいて仕事は何が何でもこなさないと、と言う固い表情を浮かべてしまっている。


そんな彼女達を見たローザは、まずは自分達が仕える主人がどのような人物かを見るべきだと判断。


「せっかくですので、私達のご主人様となるリン様に、お顔会わせをさせて頂きましょう」


そう声にすると、新人メイド達には一旦この場所で待機するように言い含めて…

ローザは、生活空間にいるリンに、地下拠点の一階に来てくれるようにと、恭しく念話でお願いをするのであった。




――――




「ぼ、ぼく、リン、って、い、言い、ます」


新人メイド達がこれから仕えることとなるご主人様は、見た目十歳くらいの、言葉が覚束ない少年だった。


だが、お世辞にも人付き合いができそうな感じはなくとも、ふんわりとして優しそうで…

何より、自分達を慰み者として見るような雰囲気は、微塵もなかった。


「な、なん、て、ひ、ひどい……ぼ、ぼく、ぜ、絶対、に、み、皆、さん、の、こ、こと、ま、護り、ま、ます、ね」


そのご主人様は、領主の圧政により貧しい生活を強いられてきたこと…

その圧政のせいで、両親が身体を壊して亡くなってしまったこと…

さらには、その圧政を強いた領主が家族を失い途方に暮れていた自分達を自らの性奴隷にしようとしていたこと…


それらを聞いて、まるで自分のことのように悲痛な表情を浮かべて、労わってくれた。

さらには、もうこれからは絶対にそんな思いはさせないと、自分達を護ると言ってくれた。


そんなリンに、新人メイド達は『この人なら…』と心を揺り動かされる。


「ぼ、ぼく、が、つ、作った、ん、んで、た、食べて、く、くだ、さい、ね」


そして、そのご主人様はまるで天使のような笑顔を浮かべながら、見たこともないような手際の良さで、自分達の歓迎の為の料理を、作ってくれた。


「!お、美味しい…」

「こ、こんな美味しい料理…初めて…」

「それに…美味しいだけじゃなくて…すっごく、あったかい…」


リンが出してくれた料理の美味しさ…

何より、リンが心から自分達のことを思って作ってくれたことが、痛い程に分かるその温かさ。


「い、いっぱい、あ、ある、んで、た、食べて、く、くだ、さい、ね」


そして、自分達が美味しそうに食べてたら、心底嬉しそうな笑顔でもっと食べてくれるように促してくる。


それらが、新人メイド達の不安でいっぱいの心をほうっとさせてくれた。


「み、皆、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」


とても美味しそうに笑顔を浮かべながら、自分の作った料理を食べてくれる新人メイド達を見て、リンは心から嬉しいと言う笑顔を浮かべ、その思いを言葉にする。


そんなリンの笑顔と言葉に、彼女達の心は喜びと幸せでいっぱいになってしまう。


リンの温かで優しい心に、喜びと幸せの涙が溢れて止まらなくなってしまう。


「!あ、ど、どこ、か、い、痛、かった、で、です、か?ぼ、ぼく、な、治し、ま、ます」

「ぼ、ぼく、み、皆、さん、に、も、もっと、よ、喜んで、ほ、ほしい、です」

「み、皆、さん、が、し、幸せ、に、な、なって、く、くれたら、ぼ、ぼく、す、すっごく、う、嬉しい、です」


そして、嘘偽りなど微塵も感じられない、その純粋なリンの思いに…

新人メイド達の心は、リンを未来永劫仕えるべき、自らの全てを捧げるべき主人だと定める。

この純粋で底抜けに優しいご主人様が、何物にも代え難い程に愛おしくなってしまう。


「リン様!」

「わたし達、リン様にお仕えさせて頂けることが何より幸せです!」

「リン様にお仕えさせて頂けることが、何より嬉しいです!」

「あたし達、これからはリン様のメイドとして、精いっぱいリン様のお世話をさせて頂きます!」

「リン様の喜びは、私達の喜びです!」

「リン様の幸せは、私達の幸せです!」

「わたし達全員、リン様のメイドになれて、幸せでたまりません!」


このご主人様なら、絶対に自分達を悪い様になんてしない。

それどころか、どこまでも大切にしてくれる。


ご主人様なのに、メイドである自分達に尽くすのがとても楽しくて嬉しいと言わんばかりに、とてもよくしてくれる。

自分達を思ってくれる笑顔が本当に天使としか思えない程に可愛らしくて、リンへの愛おしさで狂ってしまいそうになる。


神の宿り木商会と言う、あのジャスティン商会をも上回る程の規模と、他の追随を許さない程の生産力を誇る、すでにスタトリンの経済の中心となり、サンデル王国の王族とも直接契約を結べている大商会の一員にもならせてもらえて…

その会頭となるリンのお世話はもちろん、商会の為の仕事まで任せてもらえる。


新人メイド達は、これからの未来が明るいものにしかならない確信が、その心に芽生えてくる。

その未来を与えてくれるリンに、全身全霊で仕えることを、その場で誓う。


「ぼ、ぼく、み、皆、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、す、凄く、う、嬉しい、です」


そして、どこまでも自分達の幸せを喜んでくれるリンのその笑顔に…

新人メイド達の心は、完全に奪われてしまった。




「「「「「「「リン様!!心の底からリン様を愛してます!!」」」」」」」




リンへの愛おしさがもうどうしようもなくなってしまった新人メイド達は…

一斉にリンの幼く華奢な身体を、まるで命よりも大切な存在にそうするかのように抱きしめてしまう。


「!?ひゃ!?あ、あの…」

「ああ…リン様…♡」

「なんて、なんてお可愛らしいの…♡」

「リン様…♡」

「リン様は、わたし達の神様です…♡」

「リン様にお仕えさせて頂けるなんて、幸せです…♡」

「リン様…もう片時も離れたくありません…♡」

「リン様…愛してます…♡」


いきなり新人メイド達に抱きしめられて、その顔を赤らめながら慌てふためくリンが可愛くて、愛おしくてたまらないのか…

新人メイド達は、その瞳の奥に際限なく膨れ上がっていくリンへの愛情を示す形を宿しながら、リンの身体を抱きしめて離そうとしない。


メイド長となるローザは、その光景をとても嬉しそうな笑顔を浮かべながら見守っている。


案の定、新人メイド達に抱きしめられて気を失ってしまうリンに、彼女達は驚いてしまい…

その事情をローザから聞かされて、リンが抱える呪いのようなものに激しく憤ってしまう。


そして、そんな孤独を強要される呪いを抱えたリンの為に、リンのお世話をするだけでなく、リンを心から愛して、絶対に孤独にならないように寄り添っていこうと…

新人メイド達は、その心に誓う。


そして、商会の雑務や支店の業務補助はもちろんのこと…

絶対の忠誠を捧げると同時に、最愛の存在となるリンのお世話も、とても楽しそうに幸せそうに取り組むようになっていくのであった。




――――




「リン様!神の宿り木商会所属の宿屋の、記念すべき支店第一号ができましたぜ!」


リンのメイド部隊が新たに七名のメイドを加え、より拠点も商会も賑やかになってから数日が経ち…

サンデル王国の国王となるマクスデルが正式に発行した、神の宿り木商会を王族の一員として扱い、国内での商売、支店展開は自由に行なわせると言う旨の書状をエリーゼから会頭となるリンに手渡された。


それにより、正式にサンデル王国の領土に、神の宿り木商会所属の支店を展開することができるようになった為…

早速、記念すべき支店第一号となる宿屋の支店が、商会所属の建築業者の職人達の手によって建てられることとなった。


それが建てられたのは、スタトリンとサンデル王国の領土の境目となる峠の、サンデル王国側の麓。

サンデル王国の中で、スタトリンに最も近い町となるキーデンからでも、スタトリンまでは徒歩では早くて十日、遅ければ二週間はかかる。

しかも、峠を越えるとスタトリンの領土は深い森に覆われており、明確な道もない為、スタトリンを訪れるにはかなりの労力を要してしまう。

加えて、決して強くないとは言え魔物が生息していることもあり、途中の休息を取ることも困難となっている。


幸い、商会お抱えの諜報部隊が日々、森の中を偵察に出ており…

そこで遭難している者を救助している為、基本的にはスタトリンにたどり着けるようにはなってはいるのだが…

やはり道中での休息を求める者は多いであろうと考えたエイレーンを中心とする商会の経営陣が、それをリンに相談し…

リンもスタトリンに来てくれる人達の為にと賛同したことで、この峠の麓に宿屋の支店を建てることとなったのだ。


「わあ…これが神の宿り木商会の宿屋の新しい支店…」

「嬉しいです!わたし達、リン様の為にこちらも盛り上げていきます!」


宿屋の支店が完成し、その場に居合わせた宿屋の従業員達も、よりリンの宿屋を多くの人に知ってもらう機会が増えたことを心から喜んでいる。


完成した支店は、スタトリンにある本店と比べるとこじんまりとした造りになっている。

部屋数は二十部屋程度だが、一部屋一部屋の造りは本店と同じで快適空間となっている。

食堂は十五席程と少なく、食事を部屋で摂るサービスはこちらでも導入が決定している。

風呂は一度に二十人程は入れる大きさで、世界樹の枝が浸された湯が常に使えるようになっており、回復効果抜群の風呂となっている。

さらには、排水溝がリンの収納空間とつながっていて、そこからリンの作業空間で、リンの召喚獣が【浄化】を付与した魔導具で浄化して再利用できるようにしている。

もちろん、リンの生活空間にある宿屋の拡張領域にも出入りできるようになっているので、この支店の部屋が全て埋まったとしても拡張領域の方で宿泊客を受け入れることができるようになっている。

防犯に関しても、神の宿り木商会の防衛部隊の隊員が最低二名は交代で常駐するようになっており、さらには建物自体がリンの【空間・結界】に護られている。

その為、従業員はもちろん宿泊客もほぼ確実な安全が保証されている。


「み、皆、さん、あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」

「何をおっしゃるんですかリン様!わし達の方がいつもいつも、楽しくてやりがいのある仕事に快適な生活環境ももらってるんですから!」

「そうそう!おまけに給金もめちゃくちゃいいし!」

「リン様のおかげで、我ら獣人もこうして真っ当な仕事に就くことができましたし、種族の分け隔てなく仲良く暮らせる住処まで頂けたのですから!」

「あっし達はこれからも、リン様についていきますぜ!」


そんな記念すべき宿屋の支店第一号を建て終えた建築業者の職人達に、リンは心からの笑顔を浮かべて、感謝と労いの言葉を贈る。


リンのそんな笑顔と言葉が嬉しくて、職人達は普段からのリンへの感謝の思いをそれぞれ、言葉として返す。

そして、これからもずっとリンについていくことを、喜びの笑顔で宣言する。


「リン様!リン様の宿屋が増えて、わたし達嬉しいです!」

「あたし達が、リン様がお作りくださった宿屋を繁盛させていきます!」


そして、新たにできた宿屋の支店で働く予定の、宿屋の従業員達も笑顔でリンに喜びを伝えてくる。

最もスタトリンに近いキーデンからでも、結構な距離があるこの峠。

その旅路で疲れた客を、目いっぱいのサービスで労い、疲れを癒してもらう。

そうして、一人でも多くの客にこの宿屋を利用してもらおう。

彼女達はそう思うと、今からが楽しみで仕方なくなってきてしまう。


「あ、あり、がとう、ご、ござい、ます。ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」

「!ああ…リン様…大好きです♡」

「リン様…なんてお可愛らしいの…♡」


天使のような笑顔で、感謝の言葉をくれるリンに、宿屋の従業員達はもうメロメロになってしまう。


リンのような会頭がいて、常に従業員を大切にしてくれるこの商会。

この神の宿り木商会の一員になれて、本当によかった。

そのリンの為だったら、いくらでも頑張れる。

リンの為だったら、この身も心も全て捧げられる。


宿屋の従業員達はリンへの日々の感謝と、溢れんばかりの愛おしさを胸に…

できたばかりの宿屋の支店へと入り、中を確認していく。

そして、どう仕事で動いていくかをシミュレーションしつつ、互いに意見を出し合い…

少しでもここを利用してくれる客に喜んでもらおうと、楽しく頭を悩ませていくのであった。

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