第28話 稲妻

「……リ、リン……も、もしかしてそのインフェルノファルコン…」

「はい!テ、テイム、しました!」

「……イ、インフェルノファルコンを、テイム……」


リンにべったりになってしまったインフェルノファルコン、ルノの様子を見て、ロクサルはおそるおそるリンに聞いてみる。


すると、思っていた通り、リンがルノをテイムしたと返してくる。

その返事に、ロクサルはもう何度目か分からない驚きの表情を浮かべてしまう。


(ルノっていうんだね!ぼく、スライムのリム!ぼくもマスターだいすきなんだ!よろしくね!)

(わあ!わたしの先輩ですね!リム先輩!こちらこそよろしくお願いします!)

(うん!)

(ルノ殿ですな!我はワイバーンのナイト!主と、主が護ろうとする方を守護する騎士として、主にお仕えしております!以後、お見知りおきを!)

(ワ、ワイバーンの方ですか!こんなにも強いお味方がいて、わたしすごく心強いです!わたしもご主人様と皆様に一生懸命お仕えしますので、よろしくお願いします!)

(ははは!主は、我などよりも遥かに強いお方!実際には、我の方が護って頂くことの方が多いのですよ!)

(!ご、ご主人様…そんなにもお強いなんて!わたしますますご主人様が大好きになっちゃいます!)


そして、従魔組はとても和やかに、分け隔てなく…

温かくルノを受け入れ、迎えてくれている。


とても和気あいあいとやりとりをしている三匹を見て、リンは嬉しそうに頬を緩めている。


(ルノ、この人はロクサルさん。斥候と諜報、あと他の人間とのいろいろな話し合いとか交渉とかでぼくを助けてくれる、すっごくいい人なんだ!)

(まあ、そうなんですね!ロクサル様!わたしはルノと申します!ご主人様と皆様のお役に立てるよう、頑張ります!)


そして、リンはルノにロクサルも紹介する。

ルノはロクサルにも、一目で分かるほどに嬉しそうに飛び回りながら、その首を下げて挨拶をする。


リンは、ルノの言葉をロクサルに通訳として伝えていく。


「……そうか、ルノと名付けてもらったんだな。俺はロクサル。リンはもちろん、君達に貢献できるように頑張らせてもらうよ。よろしくな」


リンから伝えてもらったルノの言葉に、ロクサルは微笑みを浮かべながら返していく。

そして、自分の目の前でじっと見つめてくるルノの頭を、優しく撫でる。


(はい!こちらこそ、よろしくお願いします!)


こうして、リン達はルノという新しい仲間を加え、改めて魔の森を奧部へと向かって進んでいく。




ロクサルが前方に出て、探知を続行していくのは変わらないが、ルノも上空から探知をすることで、より探索の範囲が広がった。


リンも探知をしているので、かなり広範囲に魔物の位置や種族と言った情報を探索することができている。

それを駆使して、探知できた位置に進んでいき…


探索開始後、初めて遭遇エンカウントした魔物が、ビッグホーンブル。


「ブルオオオアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


体長が平均6m、体高が平均4mを超える牛型の魔物で、名前の通りの巨大な角を武器とした突進攻撃が得意技。

その威力は岩をも砕くほどで、人間が食らってしまえばひとたまりもない。

また、そこまで強力ではないものの【土】魔法を使用可能で、敵の攻撃を阻害する程度の防壁を【土】魔法で作ったりしてくる上に、魔法攻撃への耐性もかなり高く、魔導士の天敵と言える魔物だ。


単体の脅威度で見れば、ウォータイガーやインフェルノファルコンと同じ中位に位置する魔物だが…

ウォータイガーやインフェルノファルコンと比べると、最低でも数十もの群れで行動し、戦闘も行なう点が大きな相違点。

その為、実際の脅威度としては上位に位置する魔物と、なっている。


「……ビッグホーンブル!まさかこいつらと戦うことになるとはな!」


『栄光の翼』在籍時にも、ここまでの奥部に到達したことなどなく…

当然ながら、このビッグホーンブルと戦ったこともないロクサル。


単体でも中位の魔物とされているのが、視界に入るだけで数十もの群れが、こちらを睨みつけている。

【探索】で探知すると、自分達の周囲が完全に群れで囲まれていることが分かる。


その数は、ざっと百を超えるほど。


(リム!ナイト!ルノ!ロクサルさんを護って!)

(わかった!マスター!)

(心得ました!主!)

(分かりました!ご主人様!)


すかさずリンは、リム、ナイト、ルノの三匹にロクサルを護るように指示を出す。

その指示に、三匹もすぐさま承知の言葉を返す。


そして、リムがその体を使って結界のような防御壁を作り、ロクサルを覆い隠す。

それをさらに、ナイトが守護すべくその巨体で覆いながら、周囲を睨みつける。

ルノはナイトのすぐ上の空に停滞し、いつでも魔法や突進による狙撃ができるように備える。


「!お、おお!?これは!?」


リンの従魔達による、自分を守護する為の連携に、ロクサルは驚きと感嘆の声を上げる。


(ロクサルおにいさんには、ゆびいっぽんふれさせないよ!)

(我の主が守護される方を狙うなど笑止千万!主や我達の食糧にしてやろう!)

(ご主人様の命に従い、ロクサル様をお護り致します!)


敬愛する主である、リンの指示を受け、やる気が漲っている従魔組の三匹。

その三匹が、ロクサルを守護してくれていることで、リンは




「(ぼくがみんなを、護るんだ!!)」




リンの称号の効果が発動し、その力が一気に解放される。

瞬間、それが物理的な圧力さえ伴っていると錯覚させるほどの威圧感が、周囲に広がっていく!


「!!な、なんだこれは!!??これが、これがリンの本当の力…なのか!!??」


もはや人間の範疇に留めることすら許されない…

上位の魔物ですらこの威圧感の前には、それを感じただけで死を覚悟せねばならないほどの、凄まじい力の奔流。

それを己が身で感じることとなったロクサルは、次元の違い過ぎるその力に本能が畏怖を覚え、身体が震えてしまう。


「!!??ブ、ブモ!!??」

「!!??ブモ、ブモオオオオオオッ!!??」


ビッグホーンブルの群れも、百以上の数でリン達を囲んでいるにも関わらず…

その百以上の群れを持ってしても、逆に自分達が一匹残らず討伐される未来しか見えないほどの力の奔流に、本能に絶大な恐怖が刷り込まれてしまう。


(うわあ~!!やっぱりぼくのマスターは、めっちゃくちゃつよいや!!)

(この状況だからでしょうか…我が戦った時よりもさらに強さが増している気がします!!それでこそ我が主!!我は生涯、主の騎士としてお仕え致します!!)

(!!こ、これほどとは思いませんでした!!わ、わたしのご主人様は、こんなにも…こんなにも!!これほどの強さを持つ方がわたしのご主人様…ああ、わたしすごく幸せです!!)


従魔組も、主であるリンの底知れぬ強さに、より敬愛の、忠誠の心が強くなっていく。


リン本人ですら気づいていない、称号【勇者】と【護りし者】の隠された効果。

今の状況のように、逆境に追い込まれれば追い込まれるほど【勇者】のプラス効果が増幅していくこと。

今の状況のように、護るべき存在が多くなればなるほど【護りし者】のプラス効果が増幅していくこと。


ナイトの、前よりもリンの力が増したという感覚は、正確にその差を感じ取っていた。


「ブ…ブモオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」


その本能に抗いようのない、死への恐怖を刷り込まれているものの…

獲物を前にして撤退などと言う選択肢はないと言わんばかりに、ビッグホーンブルの群れの一匹が、リンに襲い掛かる。


その巨大な角が、リンの小さな身体を串刺しにしようと、凄まじい勢いで襲い掛かってくる。


「はあっ!!!!」

「!!??ブモッ!!???ブモモモッ!!???」


だが、リンは自分よりも遥かに巨大なビッグホーンブルの角を右手一本で掴むと、それだけでその突進を止めるばかりでなく…

ビッグホーンブルの巨体を軽々と持ち上げ、豪快に振り回す。


「てやあっ!!!!」


そして、その剛力で振り回し続け、目いっぱいの遠心力をつけたところで、ビッグホーンブルの巨体を、自分達を取り囲む群れの一角に向かって投げつける。


「!!!!ブモ!!!!!ブモオオオオオ!!!!!!!」

「!!!!ブ、ブモ!!!!ブモオオオッ!!!!!!」


先程見せた、ビッグホーンブルの突進を遥かに上回る速度で、その巨体が投げつけられ…

投げつけられた方にいた群れの十数匹が、それに激突して倒され、そのまま動かなくなってしまった。


「……な、なんて力だ……リンの真の力が、これほどとは……」


リンが、自分では到底かなわないほどの戦闘力を持っていることは、分かっているだった。


だが、それでもこれほどとは、思わなかった。

今のこの状況の戦闘においても、ロクサルは思ってしまう。


これはもはや、戦闘ではない、と。

圧倒的な強者が見せる、ただの蹂躙だと。


だが、それでも不思議とリンに対して恐怖を覚えない。




「ぼくの仲間には、指一本だって触れさせはしない!!」




百を超える、中位個体の魔物の群れを前にして一歩も引くどころか…

逆に前に出て、群れの方に立ち向かっていく勇敢な姿。

そして、誰よりも仲間を思うその心。

それを真っすぐに表すその言葉。


そんな、小さな勇者と言うべき姿に、ロクサルは恐怖ではなく、感動を覚えてしまう。


「(これが…これが真の強者…真の冒険者としてあるべき姿なのか…俺は…俺はリンに仲間として思ってもらい、リンについていけることを…心から神に感謝したい!!)」


ロクサルは、まるで子供の頃に読んだ英雄譚を、現実に目の当たりにするかのような感動を胸に、リンの戦いを一瞬たりとも逃さず、目に、脳裏に焼き付けようとする。




「おおおおおおっ!!!!!!」




その左腕を一度、振り払う。

それだけで、十以上ものビッグホーンブルの首が、胴から切り離されてしまう。




「はああああああっ!!!!!!」




その右腕が、一匹のビッグホーンブルの巨体を鷲掴みにし、まるで鈍器を振るうかのように豪快に振り回す。

まるで嵐に飲み込まれるかのように、ビッグホーンブルの群れがどんどん、その命を消されていく。


「ブ、ブモオオオオオ……」

「ブモ…ブモオ……」


あっという間に、百以上いた群れはその数を減らされ…

気が付けば、後は十数匹ほど、群れの一角として残っているだけになってしまう。


その絶大過ぎる程の力で、群れを屠り続けていくリンの姿に、残ったビッグホーンブル達はもう、戦意を失っていた。

その本能に刷り込まれた恐怖があまりにも絶大過ぎて、逃げることすら叶わなくなってしまっている。


「これで、終わりだよ!」


リンがその右腕を掲げ、天に向かって指先を差し出した、その瞬間…

神の怒りを連想させるほどの、巨大な稲妻が、残るビッグホーンブル達を一匹残らず包み込む。




「!!!!!!ブモオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」




巨大な稲光に包まれたビッグホーンブル達は、その全身を体毛一本すら、この世に残されることなく、その存在を消し飛ばされ…

何が起こったのかも分からないまま、その意識を永遠の闇に落とすことと、なった。


魔法耐性が高いビッグホーンブルであったものの、リンが放った【雷】属性の魔法は絶大過ぎて、その魔法耐性を物ともしない程の威力となっていた。


「……い、今のが【雷】属性の攻撃魔法……」


炎や風、水などど違い、雷は放たれた瞬間に目標に到達する為、視認してからの回避はまず不可能。

しかも、膨大な魔力に技能として最高レベルの魔法制御能力を持つリンがそれを放つことで、途轍もないほどの絶大な威力となってしまう。


この世界においては、存在すら知られていない属性であるがゆえに、リンの特異性がより際立つものとなっている。


そして、そのあまりの破壊力を目の当たりにしたロクサルは半ば放心状態と、なってしまっている。


(か、かみなりって、こんなにもすごいいりょくなんだ!!)

(つ、強すぎます!!我が主は、どれほど我を驚愕させれば気が済むのでしょう!!ああ!!敬愛すべき我が主!!)

(こ、こんなとんでもない魔法まで使えるなんて!!わたしのご主人様は、凄すぎてもう!!)


従魔組三匹は、リンが放った【雷】魔法の絶大な威力に度肝を抜かれつつも…

これほどまでに強い存在が自身の主だと言うことに歓喜し、さらに敬愛の思いを膨れ上がらせている。


気づけば、百を超えていたビッグホーンブルの群れは、一部は完全にその存在すら消失され、この世に形を残しているのは、全てその蹂躙劇を物語るような死体となっている。


「……ふう」


戦闘を終えて各称号の効果も切れ、一息ついて自身を落ち着かせるリン。

そして、自分が戦い、護り抜いたみんなの元へと足を運ぶ。


(みんな、大丈夫だった?)

(うん!マスターがめっちゃくちゃつよかったから、ぼくたちなんにもすることなかったくらいだし!)

(主の底知れぬ強さ、とくとこの目で見させて頂きました!ああ!本来は騎士である我が守護すべき立場であるのに!でも、それでこそ我が敬愛する主でございます!)

(ご主人様!わたしご主人様の従僕になれて、心の底から嬉しく思います!)


ロクサルを守護する役目を担っていたリム、ナイト、ルノの三匹が無事であることを確認し、リンの顔に穏やかな微笑みが浮かぶ。


「ロ、ロクサル、さん、だ、だい、じょうぶ、ですか?」


そして、リムの体で張った結界の中で、放心状態となっているロクサルに、リンは安否確認の問いかけをする。

戦闘も終わったので、リムも結界モードを解除し、元の丸い状態に戻る。


「…………」

「?ロ、ロクサル、さん?」

「……リン」

「!は、はい?」

「……リンは、まさにこの世を救う為に生まれてきた英雄だ…」

「!?え、な、何、を…」

「……あれほどの軍勢を相手に一歩も引くことなく、その力で誰かを護るその姿…俺は、かつて幼い頃に読んで憧れていた英雄譚…その中の英雄が、まさに現実に俺の前に現れたとさえ、思えているんだ」

「ぼ、ぼく、そ、そんな、だ、大、それた、もの、なんか、じゃ…」

「……誰が何と言おうと、俺にとってリンは、英雄そのものだ!だからリン!俺をリンの為に使ってくれ!俺は、英雄リンの手足として、できることを全てさせてもらう!」

「ロ、ロクサル、さん、そ、そんなの、ぼく、別に…」

「さあリン!まずはこの魔物の死体を収納すればいいんだな?よし!リンの為にも、これくらいは俺が全てさせてもらうぞ!」


ロクサルは、リンの凄まじい戦いぶり、そして仲間の、護る者の為ならどんな脅威に対しても一歩たりとも引かない、まさに英雄としての姿に感動しきりの状態となっている。

ロクサルがこれでもかと言うほどにリンを英雄視しているのに対し、当の本人であるリンは純粋に持ち上げられて、居心地の悪さまで感じてしまっている。


自分は、そんな大層な存在じゃないのに。


そんな思いが、リンの中で大きく浮かんでくる。


しかしロクサルは英雄リンに仕えることがとても光栄に思えているのか…

リンが何も言っていないのに、普段のクールさが嘘のように生き生きとしながら、リンが討伐したビッグホーンブルの死体を、リンが作ってくれた収納機能付きの鞄を使って収納していくので、あった。

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