第10話 騎士

「ほ、ほんとにごめんなさい…」


本物のリンに会えたことで、ひたすら夢心地だったリリム。

いつの間にか気を失ってしまったリンをさらに抱きしめ、頬ずりを繰り返していた。


結局、リンが気を失ってしまったことにリリムが気づいたのは、まだ差し込んでいた木漏れ日が完全になくなり、夜の闇に森が包まれ始めた頃。


そして、気を失ったリンが目覚めたのは、魔の森が完全に夜の闇に包まれた頃。


リリムは、自分の実力では到底及ばない魔物の巣窟となる、魔の森の奥部に足を踏み入れたまま、夜を迎えることとなってしまう。


男ウケする自分の容姿を気にすることなく、ひたすらリンを可愛がってしまい…

気絶まで追い込んでしまったことに対して素直に頭を下げ、謝罪をする。


「あ…の…ぼ…ぼく…だ、だいじょう…ぶ…です…から…」


ところがリンは、いきなりべったりと抱き着かれ、簾のように長い前髪をあげられて素顔まで見られ、さらにはそこからひたすら頬ずりされるわリリムの自己主張激しい胸含む抜群のスタイルの身体をさんざん押し付けられるわ…


そのせいで気絶まで追い込まれた結果、生来のコミュ障がリリムに対してはひどくなってしまい、なんとかリリムと向かい合ってはいるものの、自ずと少し距離を取るようになってしまった。


それでも、別にリリムが悪いことをしたとは思ってはいないので、別に怒ってないし大丈夫だと言おうとするも、暖簾のような前髪の下の顔はすっかり青ざめており、コミュ障通り越して対人恐怖症になっているのでは、と思ってしまうほど憔悴しきっている。


魔物の活動が活発になる時間帯に入っていることもあり、冒険者としては底辺レベルとなるリリムをどうにかして安全な場所に送らなければ、とリンは思ってはいるものの…

リンが苦手とするスキンシップやボディタッチが激しいリリムのことが恐ろしくて、どうしても距離を取ってしまい、なかなか思っていることを行動に移せないでいる。


「リンちゃん…ほんとにごめんなさい…うう…」


口調は完全に壊れているし、さりげなく自分から距離を取っているし、顔色は真っ青になっているし…

それも自分がべったりと抱き着いたりほっぺすりすりしたりしたせいで、リンがこうなってしまったというのは嫌でも痛感させられてしまい、リリムとしては何が何でもパーティーを組んでほしい相手であるリンと距離を詰めたかったはずが、逆に距離を取られる結果となってしまったことを後悔することになる。


リンが一人で冒険者として活動していた理由に、コミュ障があったことを今この場でリリムは実感することとなり…

リンのコミュ障を改善するどころか逆に悪化させてしまい、それが本当に申し訳なくて、とにかく頭を下げて謝罪をするしかない状態になってしまっている。


もういつ、獲物を狙って魔物が強襲してきてもおかしくない状況の魔の森なのだが、そんな中でリンとリリムが、どうして知っているのか分からないが正座で向かい合っている姿は、なかなかシュールな光景ではある。


特に幼い少年であるリンは顔面蒼白で、身体に震えまで出てきてしまっていることもあり、ぱっと見完全に被害者そのものとなっている。


(マスター…ぼくマスターがそんなににんげんとのふれあいがにがてだったなんておもわなかった)

(う、うん…ぼくも…ここまでひどいと思ってなかった…)

(あのおねえさん、マスターがだいすき~っていうのはぼく、すっごくつたわってきたんだけどな~…)

(リム…それは言わないで…ぼく、また思い出しちゃうから…)

(…マスター…)


リンが目深に被っているフードの中にいるリムは、まさかリンがここまでコミュ障だとは思っていなかったようで…

念話でリンと会話してみるも、リン自身ここまでひどいと思ってなかったと言ってくるあたり、本当に苦手なんだなと、リムは思ってしまう。


リリムがどれだけリンのことが大好きか、それを文字通りリリムは身体で表しただけで、リンに嫌がらせしたくてやったわけではなく、むしろそれだけ純粋に大好きでたまらなかったから、リムにもリリムの思いが伝わってきたのだが。


肝心のリンは、そのことを思い出すだけでまたコミュ障が悪化しそうなので、さすがにリムもこの状況ではこれ以上は言えなくなってしまった。


「(うう…せっかく肝心のリンちゃん見つけられたのに…まさかこんなことになるなんて~…)」


完全にコミュ障が表に出てしまい、気が付けばどんどん自分との距離を取っているリンを見て、リリムはとんでもない失敗をやらかしたという思いでいっぱいになってしまう。


このじょじょに離れていく、物理的な距離を詰めていきたいのだが、それをすればますますリンが自分から距離を取りそうな気がしてリリムは動けなくなってしまう。


そばにいるどころか、あんなにべったり密着しても称号【男嫌い】のマイナス効果が発動することはなく、むしろもっと寄り添っていきたいとさえ思えたのだから…

リリムはやっぱり、リンとしかパーティーを組みたくないと、改めて実感してしまう。


そうして、リリムが自分の失敗がひどすぎて涙が出そうになった、まさにその時――――




「!!」




それまで完全にコミュ障モードだったリンが突然立ち上がり、とても悲しい気分になっているリリムの前に、まるで襲い来る何かに対して盾になるかのように立ちふさがる。


「リ、リンちゃん?」

「…じっとしててください」

「え?」


さっきまでの青白さと壊れた口調が嘘のような緊張感のリンに、リリムは何が何だか分からないまま、動けずにいる。


しかし、なぜリンがこうなったのか、その原因はリリムにもすぐにわかってしまう。




「…グオオ…」




それが聞こえてきた瞬間、リリムはまるで蛇に睨まれた蛙のような恐怖に襲われ、身動き一つ取れなくなってしまう。


「あ……あ……」


獲物を威嚇する、その声を放った元凶が、リンとリリムの前に姿を現す。




「グウウ…グオオオオオオアアアアアアア!!!!!!!!!」




人間にとっては災厄以外の何者でもない、魔物。

その魔物の中でも、かなり上のランクとなるであろう種族。


ワイバーン。


数多い魔物の種族の中でも、最強クラスに位置する『竜族』の一種。

その中ではワイバーンは、下から数えた方が早い下位の方の竜なのだが…

左右の前足が翼となっており、後ろ足は人間のように二足歩行が可能な脚をしている。


上位の竜のようにブレス系の攻撃は使えないものの、暴風を巻き起こせる翼で空中から攻撃することもできれば、足を使った地上戦で攻め立てることもできる。

それが、ワイバーン。


竜種の特徴である強固な鎧となる鱗による防御力に、巨大な岩をもあっさりと砕いてしまうほどの直接攻撃力の高さ。

それらを存分に発揮されると、人間などひとたまりもない。


昨夜、リンが戦ったウォータイガーよりもさらに上位の魔物。

そんな魔物が目の前に現れ、リリムは完全に動けなくなってしまう。


「(ああ……あたし……ここで…このドラゴンに食われちゃうんだ…)」


リリムは完全に生きる希望を失ってしまう。

が、そんなリリムを、半径1mほどのドーム状の…

教会のステンドグラスの様な煌めきを持つ壁が覆う。


「!?え!?な、なにこれ!?」


突然現れた、自分を覆い隠すような壁にリリムは動揺を隠せない。

いったいこれはなんなんだと、壁の方によって手で壁に触れてみる。


その壁は自分などではかすり傷すらつけられないと断言できる、そんな強固さを誇っているのが触っただけで感じとれてしまう。


「…それは結界です。その中に居れば、安全です」

「!!リ、リンちゃん!?こ、これ、リンちゃんが!?」

「…しばらくそこにいてください…ぼくが、お姉さんを――――」




「――――絶対に、護ります」




「!!」


自分では、見られただけで身体が恐怖で動けなくなってしまうような凶悪で強大な魔物。

そんな魔物を前に、かけらも怯むことなく対峙するリン。


先程までとは別人と思えるほどに違うリンを見て、リリムは言葉を発することもできなくなってしまう。


(リム!!お願い!!)

(まかせて!!マスターのおねがいだもん!!)


そして、リンのフードから何かが飛び出し、結界に覆われている自分の前にまで来たのを、リリムはじっと見つめる。


「え?これって、スライム!?」


リリムを護ってほしいというリンのお願いで飛び出してきたリム。

リンが展開した結界の中にいるリリムを護ろうと、ゆらゆらとその丸い体をゆらめかせつつどっしりと構える。


「大丈夫です!その子はぼくの友達です!」

「!え、リンちゃんって、魔物をテイムできるの?…」


自分を護るようにゆらゆらとしているスライムがリンの従魔だと聞いて、リリムは驚きを隠せない。

まさか、魔物のテイムまでできるなんて。

その心境が、その美人顔に表情として表れてしまう。


「グウウアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


己の前に立ちふさがる脆弱な人間――――リンを威嚇しようと、強烈な雄叫びを繰り出すワイバーン。

ちょっと視線を上げるだけですぐに見えなくなるような、ちっぽけで脆弱な人間。

この雄叫びですぐに己の獲物に変わるだろう。


そう思っていたワイバーンだったが…




「こい!!」




怯むどころか、ますます戦意をむき出しにして立ちふさがるリンを見て、さすがに驚いてしまう。


なぜこの脆弱な虫は、我を前に怯まない?

なぜその小さすぎる身体で、我に挑もうとする?


 「(ぼくがあのお姉さんを、護るんだ!!)」


自分の後ろにいる、名前も知らない美人なお姉さん。

誰かは知らないけど、護らなきゃいけない。

だから自分が、何が何でも護る。


リンの中で、力が溢れてくる。


リンの持つ称号【勇者】の効果で常に全ステータスが倍になっている。

そこから【護りし者】の効果が発動し、全ステータスが倍化する。

そしてさらに、【ぼっち】のプラス効果が発動し、さらにステータスが倍化する。


素の状態でも、冒険者の中でも飛びぬけた強さを持っているリン。

その強さが、四倍以上まで上昇する!


称号の力が解放されたリンの強さが、とてつもない存在感を放ち…

ワイバーンを威嚇する。


「!!??グ、グググググググッ!!!???」


いつもは自分が獲物に対してやることを、逆にリンにやられているワイバーン。

目の前の、あまりにも矮小でちっぽけな存在が、己が畏怖するべき存在であると、本能が告げてくる。


リンが一歩前に出ると、ワイバーンが一歩下がっていく。

リンがもう一歩前に出ると、ワイバーンがもう一歩下がっていく。


完全に、獲物と捕食者の立場が逆転してしまっている。


「う、うそ……あのドラゴンが、リンちゃんに…怯えてる…」


その光景を見て、リリムは天と地がひっくり返ったかのような驚愕に陥ってしまう。

そして、噂程度でしか聞いたことのなかったリンの強さを、その目で見ることとなってしまう。


その噂話で聞いた強さを、遥かに上回るリンの強さを。


ワイバーンは、竜種の中では下位に近い存在だが、魔物全体で見れば上位に近い存在。

冒険者でも白金プラチナランクがパーティーで挑んで勝てるかどうか、と言うほどの魔物である。


ところがリンは、戦う前からワイバーンを畏怖させ、じょじょに退かせている。

その物理的な存在感すら感じさせるほどの強さで。


底辺に近い状態ゆえに、魔物との戦闘とは無縁であるはずのリリムですら…

今のリンがワイバーンより遥かに強いと言うことが、嫌でも分かってしまう。


「リンちゃん…すごい…」


どちらかと言えば小柄な部類に入る自分よりもずっと小柄で…

ちょっと抱きしめてあげただけであんなに取り乱して…

そばにいるだけで癒される、そんな存在であるリン。


だが、今のリンは…

もし、この言葉を知る者がいれば、リンの姿を見てこう言うだろう。




――――勇者、と――――




「グ、グギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


本能で感じ取ってしまった、絶対の恐怖。

その先にある、絶対の死。


この人間と戦うなら、その先は己の死しかないと、本能が悟ってしまう。


だが、その本能を捻じ曲げようと己を鼓舞する雄叫びを繰り出し…

その翼をはためかせて、上空へと舞い上がる。


「グアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


そして、己の前に立ちふさがるリン目掛けて、ワイバーンは人間には視認することすら困難なほどの速度で急降下攻撃を仕掛ける。


「はあっ!!」

「!!??グ、グギャッ!!??」


ところが、そんなワイバーン渾身の急降下攻撃を、リンはなんと右腕一本で止めてしまう。


しかも、その右腕で、足の爪の一本を掴まれ…

それをワイバーンは振りほどこうとするも、まるでびくともしない。


己からすれば小粒のような、矮小なはずの存在が…

まさか己を遥かに上回る剛力を持っていることにますます本能が恐怖を訴えてくる。


「うおおおおっ!!!!!!」

「!!!!!!!グ、グギャアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」


そして、ワイバーンの足の爪を掴んだまま、リンはその右腕に力を込めて、ワイバーンを豪快に振り回す。


己の身体を豪快に振り回され、ワイバーンから悲鳴があがってしまう。


「たああっ!!!!!!」

「ギャ、ギャウウウウウウウウウウウッ!!!!!!!!!!」


凄まじい速度で振り回され、強烈な遠心力がかかったところで、リンがワイバーンの身体を地面にありったけの力を込めて叩きつける。


神の怒りを連想させる強大な稲妻が落ちたかのような轟音がその場に響き渡り…

同時にワイバーンの痛々しい悲鳴も、その場に響き渡る。


「ギャ、ギャウウウウウウウウウウ……」


ワイバーンの巨体が、魔の森の木々をへし折りながら地面へと横たわる。

まだその命が燃え尽きてはいないものの、それでも相当なダメージを受けたのは一目で分かるほど。


もうこのまま、我の命は終わるのか。

我は、この矮小とばかり思っていた存在に、屠られてしまうのか。


遠ざかる意識の中、ワイバーンはそんなことを思ってしまう。


「す…凄すぎる…リ…リンちゃんって…あ…あんなに強かったの?……」


ワイバーンという、人間にとっては災害にも等しい強大な魔物を力でねじ伏せるリンに、リリムは開いた口がふさがらない。

その次元の違う強さに、驚愕で心を埋め尽くされてしまう。


でもなぜか、恐怖は感じない。


リンは決して、その力を間違ったことに使わないという…

自分でも分からない、妙な確信が芽生えてくる。


「……よいしょ…」


横倒しの状態になったワイバーンの頭部に、リンがゆっくりと移動してくる。

リンが己の視界にどんどん近づいてくるのを見て、ワイバーンは薄れゆく意識の中…

己の絶対的な死を、悟ってしまう。


ここまで、か。


そう思い、その目を閉じる。


だが、己の命を屠る攻撃が、まるで来ない。


それどころか、来たのは…




「…大丈夫?痛くして、ごめんね?」




己をいたわり、顔を撫でる小さな手の感触。


しかも、全身がバラバラになったかのような激しい痛みが、薄れていく。


「…ぼく、きみと友達になりたいんだ。だから、テイムさせてね」


冥界へと飛び立とうとしていた命が、現世へと戻ってくるのを感じる。

己の命を現世へと戻してくれたその小さな手が、今度はその手の持ち主と己の心をつないでくる。


とても温かで、とても優しい、小さな手の持ち主の心。


この方が、我の主となるならば、異存なぞかけらもない。


(…喜んで、この身をお捧げ致します。我が主)


気が付けば、失いかけた命を救われ、その心をつないでもらったワイバーンは…

己よりも遥かに小さい、だがとてつもなく強大な力を持つ人間に頭を垂れ、膝をついていた。


(よかった…きみが元気になってくれて)

(主のおかげで、我は死より舞い戻ることができました)

(ごめんね?あのお姉さんを護るためとはいえ、きみのこといっぱい傷つけちゃって)

(ああ!こんな我にそのようなお言葉を頂けるなんて!我は主に真の忠誠をお誓い致します!)

(そ、そんな…いいよ主だなんて…)

(何をおっしゃいますか!この我を赤子の手をひねるようにたやすくねじ伏せるようなお方…我は主のようなお方に忠誠を誓うことができて、誠に幸せでございます!)

(も、もう…そんなのいいのに…ぼくにとって、きみは友達なんだから)

(!ああ!なんという心の広さ!さすがは我が主!我はますます主に忠誠を誓いとうございます!)

(あ、あはは…)


まさに真の忠誠を誓おうとする騎士のような振る舞いを見せるワイバーンと、そのワイバーンの前に立っているリン。


テイムしたことにより念話が可能になったので、リンはワイバーンと会話をしている。

のだが、このワイバーン、性格が超真面目でしかも騎士道精神バリバリ。

もうリンに忠誠を誓うことが嬉しくて、幸せで仕方がないと…

そんな感情が、溢れんばかりに言葉にも出てきている。


(ちょ、ちょっときみのステータスも見せてもらうね)

(ぜひ!いくらでもご覧ください!)


せっかくテイムしたこともあり、リンはワイバーンのステータスを確認することにした。

この騎士道精神バリバリのワイバーンのステータスは、以下のようになっている。




名前:なし

種族:ワイバーン

性別:雄

年齢:351

HP:892/892

MP:0/0

筋力:986

敏捷:792

防御:991

知力:206

器用:92

称号:勇者リンの従魔、騎士道

技能:飛翔・3




称号

・騎士道

騎士道精神に満ち溢れている者に与えられる称号。

己の忠誠を誓える存在が現れると、筋力、敏捷、防御が30%向上する。

また、忠誠心が深くなればなるほどステータスの上昇率が向上する。


技能

・飛翔

空を飛ぶことができるようになる。

レベルが高くなるほどより高く、より速く飛ぶことができる。




空を飛べる【飛翔】以外の技能はないものの、称号【騎士道】の恩恵は、リンに忠誠を誓った今となってはかなり大きいものとなっている。

これに加えて、【勇者リンの従魔】の恩恵もあるのでより強さが増すことになる。


完全な肉弾戦特化のステータスで、魔力が全くない分力が強い。

称号の恩恵でそれがさらに強くなるので、純粋な前衛に向いている。

加えて、【飛翔】を使った空中戦もあり、敏捷も高いので素早さで相手をかき回すこともできる。


戦闘以外にも、その力を活かして生活空間の地形を変えたいときに活躍してもらったり、背中に乗せてもらって【飛翔】で空中移動に活躍してもらうこともできる。


(じゃあ、きみに名前つけたいんだけど…いいかな?)

(なんと!主から名を頂けるとは!ああ、なんという光栄の極み!)

(あ、あはは……うん、きみはやっぱり『ナイト』かな?)

(!それは、主の騎士、という意味で『ナイト』でしょうか!?)

(え?ぼくの友達で、ぼくの騎士…わあ…なんかすっごくかっこいい)

(!ああ!我は主のナイトでございます!主から頂いた名、恐悦至極にございます!)

(よかった…喜んでくれて。ナイト、これからよろしくね?)

(こちらこそ!主の剣となり盾となる所存!我は主のナイト!主のことは、このナイトがこの身に変えても守護いたします!)


リンによってつけられたワイバーンの名は、『ナイト』。

その溢れんばかりの騎士道精神にぴったり、とリンが思ったことでついた名。


ナイトのステータスにも、その名前が登録される。


(じゃあナイト、こっちがぼくが初めてテイムしたスライムで、リムって言うんだ)

(ナイトっていうんだね!ぼくリムっていうんだ!よろしくね!)

(なんと!それでは我の先輩ではないですか!リム殿、これからご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます!)

(う~ん、ごしどうごべんたつ?よくわからないけど、よろしくね)

(はい!)


戦いが終わったことで、リンの方へとやってきたリム。

そのリムをナイトへと紹介し、リムがナイトに挨拶する。

リムが先にテイムされたということで、ナイトはリムを先輩と認定。

生まれたてでほわほわとしているリムと、騎士そのものの実直さできびきびとしているナイトのやりとりに、リンはくすりと笑ってしまう。

そして、種族の違う二匹が仲良くやれているのを見て、嬉しくなってしまう。


「あ!早く結界を解除しないと!」


リリムを護るために展開した結界は、リンにしか解除できない。

解除しないとリリムがいつまでも閉じ込められたままなので、リンはそそくさとリリムの元へと向かい、結界を解除する。


「お姉さん、大丈夫ですか?」


地面にへたり込んだままのリリムを心配し、リンは声をかける。

だが、リリムはそんなリンの声に反応することもなく、ただただ、リンをじっと見つめている。


「?お姉さん?」

「…リ、リンちゃん…あの…あのドラゴンって…」

「あのドラゴンって、ナイトのことですか?」

「え?…ナイトっていうの?あのドラゴン…」

「はい!ぼくが友達になってほしくて、テイムして名前もつけてあげたんです!」

「テ、テイム…ドラゴンを、テイム…」


ワイバーンをテイム、という前人未踏の出来事を目の当たりにして、リリムはリンに対して驚きっぱなしの状態となっている。


(貴女が、主が護ろうとした方ですね…我はナイトと申します。主が守護される方は我にとっても守護すべき方!これからは、このナイトが主同様、全身全霊をもって守護致します!)

(にんげんのおねえさん、よかったね!ナイトがまもってくれるって!あ、ぼくはリムっていうんだ!よろしくね、おねえさん!)


驚きっぱなしで呆けてしまっているリリムのところに、リムとナイトが近づいてくる。

ナイトはリンとリリムに頭を垂れ、騎士としての姿勢を見せながらもその巨体で二人を護るように覆い隠す。

リムはリリムとリンの足元で、ふよふよとしながら佇んでいる。


「え…もしかして、何か言ってるのかな?…」

「あ、はい!スライムの方がリムっていう名前で、ワイバーンの方がナイトっていう名前です!」

「そ、そうなの…」

「で、リムはお姉さん、よろしくって。ナイトは、なんかぼくと一緒にお姉さんも護ってくれるって言ってます」

「!え、あたしを?」

「はい!ぼくも、お姉さんを護らなきゃって思って、ナイトと戦ってましたから!」

「!!」


そのリンの何気ない一言に、リリムは文字通り、心を撃ち抜かれてしまった。

こんなにも小さい身体で、ナイトのような巨大な敵と戦い抜いてくれたのだ。


それも、自分を護るために。


…ずるい。

こんなの、反則。


でも、だからこそ、自分がこの子しかいないと思ったのだから。


そう思ったリリムの顔に、優しい笑顔が浮かんでくる。


「?お姉さん?」

「…リリム」

「?え?」

「あたしの名前、リリムっていうの」

「そうなんだ!じゃあ、リリムお姉さん、でいいですか?」

「!あ、なんかそれいいわあ…」

「?じゃあ、リリムお姉さんって呼びますね!」

「うふふ…リンちゃんにお姉さんって呼ばれるの、すっごく来るわあ…」

「?リリムお姉さん、立てます?」

「あ、ちょっと待ってね…」


少しふらつきながらも、リリムは立ち上がる。

ほんの数分前には、魔物の餌となる未来しか見えなかったが…

今は、とても明るい未来が見えてきている。


少し足がふらついているのを見て、リンが手を握って支えてくれる。


「!ありがとう…リンちゃん」

「いいえ、リリムお姉さんのためですから」

「もう…リンちゃんほんとに頼りになる…あ、それと…」


リリムは、リンに支えてもらいながらリムとナイトの方へと寄っていく。

そして、その二匹にもその手で触れ…


「リムちゃんと、ナイトくんだっけ?あたしはリリム、よろしくね」

(うん!リリムおねえさん、よろしくね!)

(リリム殿!こちらこそよろしくお願いいたします!)


お互いに言葉が分かるわけではないものの、しっかりとつながっているリリムと二匹のやりとり。


それを見て、リンは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるので、あった。

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