第11話 懇願
「あ…あの……リリムお姉さん…」
「?なあに?リンちゃん?」
「……リリム、お、お姉さんって……ここから…町に…戻れます?……」
リリムにとっては死以外の未来がまるで見えなくなってしまう事態…
魔物の中でも上位に近い種族であるワイバーンとの
だが、その絶望しかない未来を変えてくれた存在であるリンによって、なんとワイバーンをテイムし、味方につけるという出来事が起こる。
そのテイムされたワイバーン、ナイトとすでにテイムされていたスライム、リムとも、言葉は通じずとも友好な関係を築くことができ、リンを含む二人と二匹で、魔の森の奥部で笑い合うという構図ができていた。
だが、強力な魔物がうようよと活動している、魔の森の奥部。
しかも、活動が活発になる夜という時間帯。
【弓術】と【風】魔法が使えるとは言え、身体能力も魔法の力も低く、お世辞にも戦闘力が高いなどとは言えないリリムが、どうやってここから町に戻るのか…
リンはそれが気になって、リリムに尋ねてみる。
ただ、戦闘時の緊張感とナイトをテイムできた時の嬉しさでテンションが通常とは違う状態になっていたリンなら、リリムと普通に話せていたものの…
一通りが終わって、通常の状態に戻ったリンはやはりコミュ障が表に出てしまい、それでも自分からリリムに話しかけてはいるものの、明らかに挙動不審な口調になってしまっているのだが。
「…あ~……」
「…戻れそうに…ない…です、かね?…」
「…うん…あたしじゃ無理…」
リリム自身も、リンの問いかけについて考えてみたが…
決して己の実力を過信して勘違いするようなタイプではなく、むしろ己の実力を客観的に見て判断できているからこそ、リンとパーティーを組みたがっていたのだから…
当然のように、自力で今の場所から町まで戻るのは無理だと判断し、それを素直にリンに伝える。
「…リンちゃんが一緒にいてくれたら、大丈夫なんだけど…」
「…う…」
「…リンちゃん、あの町に戻るの…嫌、よね?」
当然、リンに護衛としてついて来てもらうことは、リリムとしてはすぐに考え付いたのだが…
リリムも、リンとのパーティーを組もうと躍起になっていたのだから、当然リンが『栄光の翼』を解雇されたことは知っている。
そして、『栄光の翼』のメンバーにさんざん、いいように使われ、見下され、虐げられてきたことも、リンのファンとも言えるベテラン受付嬢から聞いて知っている。
そんな連中がいる町だから、リンにとっては最悪の思い出の方が強く残っているはず。
リリムは、そんなリンを思いやって、自分を町まで護衛してほしい、とは言い出せない。
しかも、今のリンならば別に町に戻って冒険者の仕事をしなくても、生産関連の技能をフルに活かして自給自足することはいくらでもできる。
その生産活動をサポートしてくれるリムにナイトもいるのだから、なおさらリンにスタトリンに戻る理由がないと、言える。
リンの生産の技能に関してはリリムは知る由もないのだが、話に聞いているだけでも非常に優秀で万能なので、リンなら一人でどこへ行っても、何をするにも困らないだろうということが、分かってしまう。
「あたし、戦闘もからっきしだし…なのにリンちゃんみたいに雑用も事務も管理もできないし…そもそも十八年も女やってきて家事の一つもできないから…」
「…リリムお姉さん…」
「だから…町で冒険者やってるけど討伐系の依頼なんて無理だから、ずっと採取系とか、町の雑用とかの依頼しか受けられないの…でも、それにしたって要領よくできてるかって言われたら、もう全然!…一人じゃ無理だからパーティー組みたくなるんだけど、あたし戦闘できない上にどんくさいから、誰も誘ってくれないし、お願いしても組んでもらえないの!」
「…………」
「それでも強引に、誰でもいいから組んでほしいってお願いしてたら…あたし自身を自分達の慰み者にするなら、なんて言われて…もうちょっとでひどい目に遭いそうだったけど、必死で逃げ切って…そのせいで【男嫌い】なんて称号までついちゃったの」
「!そ、そ、それ…って…ぼく…こんなに、そばに…いるのに…だ、だいじょう、ぶ…なんですか?…」
「…ん~ん、リンちゃんはぜ~んぜん大丈夫!!」
「え?な、なんで、ですか?」
「だってリンちゃん、あたしのことぜ~んぜんヘンな目で見ないし!」
「?ん?ヘンな目、って…どんな目、なんで、すか?」
「ほらあ!もうそういうところがいいの!」
「????」
「でね、リンちゃんはそれだけじゃなくて…こ~んなにおしゃべりするの苦手なのに、あたしにす~っごく優しいもん!」
「優しい…ですか?そ、それ、なら…よかった、です…」
「うふふ…でね、リンちゃんす~っごく強くて、あたしを護ってくれたから!こ~んなに何にもないあたしに優しくしてくれて、護ってくれて…リンちゃん男の子だけど、あたしの方が離れたくない!って思っちゃうくらいなの」
リリムは、自分でも驚くほど素直にこれまでの自分の境遇、そして自分の思いをリンにつらつらと語っていく。
とにかく人のために、人に優しくの精神で生きているリンが、リリムにはとても魅力的で、可愛らしくて…
でも、本当に強くて頼りになって…
だから、むしろリリムの方がリンから離れたくないと、これからも一緒にいたいと心から思っている。
そのことも、リリムは本当に素直に、ストレートにリンに告げていく。
「…リリムお姉さんが、何も…ない、なんてこと…ないと思います…」
「え?」
「…リリムお姉さん、こんな、にも、き、き……綺麗…だし…」
「!!」
「…そ、それに…ぼくの、と、友達、とも…な、仲良くし、してくれるし…」
「リンちゃん…」
「…ぼ、ぼくにも、す、すっごく…や、優しく…してくれ、るし…」
「…リン、ちゃん…」
リリムが自身で吐きだした、自虐的な思い。
それを否定せんが為に、リンはおぼつかない言葉遣いになりながらも、リリムはとても素敵な女性だと言うのを、懸命に伝えようとしてくる。
優秀で万能、しかも戦闘面においても比類なき強さを誇るリンの、とても不器用な…
でも、目の前にいる人の、悲しくて苦しい思いを少しでも癒そうと、自信をつけてもらおうとするその姿。
リンのそんな姿が、言葉が、何もかもが嬉しくて、心地よくて…
リリムはその心が、リンの一言一言をもらう度にきゅうんと高鳴るのを感じてしまう。
もう、目の前にいる、自分よりも小柄で幼い少年のことが愛おしくて愛おしくてたまらない。
もう今すぐにでもその小さな身体を、自分の両腕で抱きしめて包み込んで、めちゃくちゃなくらい愛してあげたくてたまらなくなってしまっている。
でも、ついさっき無遠慮にめちゃくちゃしちゃったから、リンが自分に対してそのコミュ障を悪化させてしまったことを思い出し、どうにか踏みとどまる。
「…ねえ、リンちゃん」
「は、はい?」
「ありがとう…あたしリンちゃんがそんな風に言ってくれて、すっごく嬉しい」
「!そ、それなら…リリムお姉さんが、喜んで、くれて…よ、よかっ、た…です」
「でね、さっきの話の続きなんだけど…あたしもそんなんだったから、あの町に戻りたいか、って言われたら、実はそうじゃないの」
「え?」
「あたし、孤児だったから実家とかもないし…冒険者として受けられる依頼も身入のよくないのばっかだったから生活もギリギリだったし…あたしのこと無遠慮にいやらしい目で見てくる男ばっかりで、ほんとに嫌だったし…」
「…リリム、お姉さん…」
「それにお金なかったから、宿も一日ごとしか泊まれなかったし…今もお金なくて宿なんて無理、な状態だから…」
「…そ、そんなの…かわいそう…」
リリムの話を聞いて、リリムがリンの思っていた以上に厳しい生活状況ということが分かってしまう。
年頃の若い女子が野宿と言う選択肢を取らざるを得ないのも、もしリリムがそんなことをしたら、欲望に満ちた男の慰み者になってしまうことも容易に想像できてしまう。
男女の営みというものをよく分かっていないリンは、単純に野宿しなきゃならない、という点が不憫だと思っているのだが。
「…だからお願い!もしリンちゃんさえよかったら、あたしをリンちゃんと一緒にいさせて!」
「!え、え?…」
「戦闘はまるでダメだけど、家事でも雑用でもなんでもする!今はほんとに何やっても下手だけど、ちゃんとできるようになる!リンちゃんのお役に立てるなら、できることならなんでもする!だから、あたしをリンちゃんのお傍に、置いてください!」
もう恥も外聞もなく、リリムは四つも年下の少年に対して正面から土下座し、必死に懇願する。
戦闘面で無力なのは自分でもわかっているから、それ以外でできることは何でもするという覚悟を持って。
必要なら、自分の身体をリンに捧げることも厭わない覚悟で。
冒険者は生活の糧としてやってきただけで、そこまで思い入れもない。
町ではいい人間関係もあったけど、それよりもひどく扱われて苦しいことの方が多かった。
元々孤児だったし、かつて自分がお世話になっていた孤児院も、今はもうなくなっている。
それならば、今までよりもこれからを、大事にしていきたい。
このすごく強くて、何でもできて、でもコミュ障でぼっちな、天使のような少年とこれからの人生を共にしていきたい。
「…なんで、そ、そんなこと、するん、ですか?」
「…?え?…」
「ぼく、リリムお姉、さんが、喜んでく、れること…なら…い~っぱい…したい、ですよ?」
「!!え……」
「も、もし、ぼ、ぼくが、い、一緒にいるの…リ、リリムお姉さんが、嬉しいなら…ぼく…リリムお姉さんと、い、一緒に…いたい…です…」
「!!リ、リンちゃん!!」
すごくコミュ障で不器用な…
でも、とても温かなリンの言葉。
その言葉の一つ一つが、リリムの心をきゅうんと高鳴らせてしまう。
リリムに、どうしようもないほどにリンが愛おしいと、思わせてしまう。
コミュ障でぼっちで、人と関わるのが本当に苦手なのに、それでも、こんな自分と一緒にいたい、なんて言ってくれるのだから…
リリムは、そのどうしようもないほどに溢れてくる感情が、涙という形となって溢れんばかりに零れてくる。
こんなにも大切に、優しく触れてもらえたことなんてなかった。
リンの不器用な、だからこそ真っすぐで心温かな…
見返りなどかけらも求めず、ただただ喜んでほしいという純粋な思い。
それが、嬉しくて嬉しくてたまらない。
「!だ、だいじょう、ぶ、ですか!?ど、どこか、痛いんですか!?」
そんなリリムの涙を見て、リンはどこか痛くなったのかと勘違いしてしまい…
慌てて地面に座り込んだままのリリムに近づいて、回復魔法をかけようとする。
「…う…ううん…痛いんじゃなくて、苦しいの」
「!!く、苦しい、んですか!?ぼ、ぼくどうすれば…」
「でもね…こうすれば、苦しいの、なくなるの」
「え……!!」
リリムが苦しいと言ったことに大慌てし、どうすればいいか分からずパニックになっているリンを、リリムはぎゅうっと抱きしめる。
急にリリムに抱きしめられてしまい、リンの顔は大慌ての表情から、恥ずかしいの表情に変わっていく。
「な、な、な、なん…」
「お姉さんね、リンちゃんのこと好きで好きでたまらないの。だから、リンちゃんのことぎゅ~ってできたら、すっごく幸せになって、苦しいのなくなっちゃうの」
「!で、で、で、でもぼく…」
「お姉さん、リンちゃんぎゅ~ってできたら、す~っごく嬉しい。ね?だから、このままで、いさせてくれる?」
「!!あ、う、う、あ、あ……!!~~~~~~~~~~~~…きゅう……」
リンをぎゅうっと抱きしめて離そうとしてくれないリリム。
そんなリリムの、甘えるようなおねだりを、唇と唇がくっついてしまいそうな至近距離でされてしまうリン。
コミュ障でお子様なリンは、リリムのような美人なお姉さんにそんなことをされて、どうすればどうすればと思考が混乱の大渦に巻き込まれ、とうとう完全に
またしてもリリムに抱きしめられたまま、気を失ってしまう。
「あ…リンちゃんまた気絶しちゃった……ほんとにリンちゃんって、コミュ障なのね…」
「ぷ…ぷしゅ~~~~~~~……」
「でも…ほんとに可愛い…あたし、リンちゃんがそばにいてくれるだけで、ほんとにすっごく幸せ…うふふ…♡」
口から煙を吐きながら気絶してるリンのことを、まるで自らがお腹を痛めて生んだ我が子のように愛おしげに抱きしめて離さないリリム。
それだけで、今までの報われない人生なんかまるでなかったかのように幸せな気分になってしまう。
(あ~…マスターまたきぜつしちゃった…)
(あ、主!?こ、これは、我はどうすれば!?)
(ナイト、だいじょうぶ。マスターべつにどこかわるくなったわけじゃないから)
(そ、そうなのですか?リム殿?)
(うん。だってマスター、リリムおねえさんのマスターすきすきこうげきにやられちゃっただけだもん)
(な、なんと…リリム殿は、あれほどの強さを持つ主をあれほどあっさり気絶させられるほどの強さを…)
(あの、そうじゃないんだけど…)
物理的にハートマークが見えてしまいそうなほど、リンへの愛情を爆発させてしまっているリリムを見て、リムは『またか…』と言った感じで見ている。
ナイトは守護すべき主であるリンが気を失ったのを見て大いに慌ててしまうが、リムに大丈夫だと言われ、一旦は落ち着く。
しかし、リリムがリンを気絶させられるほどに強い、などと勘違いしてしまい、リムがそんなナイトに『これ、どうしよう…』と言った感じで溜息をついてしまっている。
リンの従魔である二匹がそんなやりとりをしていることなど知る由もなく…
リリムは気を失ってしまったリンを絶対に離さないと言わんばかりに抱きしめ、これからはリンに寄り添い、リンと共に生きていくことを、誓うのであった。
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